第3話 「【双剣技決闘(デュランダル)】」

『おおっと!最初に姿を見せたのはレイ・ソル・アリウス第二王女殿下!その相方を務めるのは学院長期待の転入生シドウ・クロウの双剣(デュオ)だぁぁぁっ!』


 控え室を出て通路を進んでいき闘技場に出ると、話が広まったのか、すり鉢状の観客席が7割がた埋まっており。興味本位の観客たちの視線がシドウに向くものもあったが、それ以上にレイに向けられた侮蔑の視線の方が圧倒的に多かった。


「いつもこんな感じなのか?」


「…慣れてるから、気にしてない」


 そう言っているが、それが強がりたということはギュッと拳が痛いほどに握り締められている事からも嘘だとシドウは気が付いてはいたが、何も言わず対戦相手を見る。


『さて、続いて入ってきたのは新入生にしてその実力に早くも期待されているロドリゲス・グランズ!その相方を務めるのはこちらも有望視されているボーガン・フルータ! 二人のコンビネーションに注目だ!続いて‥‥』


 その後残りの取り巻きたちの名前が呼ばれる毎に会場の熱気が上がっていくのを感じながらシドウの意識は落ち着いていた。


(全部で八人、いや戦うのは一人だから一対四か)


 どうやらこの双剣(デュオ)というのは戦う【聖剣使い】と【聖剣錬成師】のペアの事を指し、一部の例外を除いて基本的に戦うのは【聖剣使い】だけで、【聖剣錬成師】はその戦闘の補助と役割が分かれていると控え室に行く前にゲオルグから軽く説明を受けただけ付け焼刃の知識だったが。知らずに困惑するよりはシドウにとっても良かった。


(流石に、二対八ってのはキツイからな)


 シドウから見ての第二王女(レイ)は最低限の護身術は出来るが、戦うことは出来ない。先程、創れるという【魔剣】を創ってもらい振るってもらったがその動きは基礎も出来ていなかった。王女という立場であるのならば仕方のないことかもしれないが、二対八であればシドウはまだしも王女であるレイが狙われて終わり、という結果は自明の理だったかもしれなかったと、そうしているうちに全員の紹介が終わったようだった。


『さて、本来あり得ない1対4という変則な双剣技決闘(デュランダル)! いったいどのような結果となるのでしょうか!」


「どうせ、直ぐに負けるに決まってるさ」


「そうだよな~。いくら学院長が認めたって言っても、数の力に叶うなんてありえないからな~」


「そうそう。聖剣が使えるならまだあるかもしれないけど、あの姫様は魔剣しか創れないからな」


 と様々な声が聞こえるが、そんな事はシドウにとってはどうでもいい声で。シドウは王女にあるお願いをする。


「王女様、俺に魔剣を創ってくれないか?」


「私のせいにされたくないから、いや。それに貴方だって聖剣が使えるんでしょ?」


 このような場所に拒否することなく応じたことから、レイはシドウは聖剣を持っていて王族である自分に取り入ろうとしているのではないか。そう思い鎌をかける意味を兼ねてそう質問をしたのだが。


「…確かに聖剣を持つことは出来る」


「ほら、やっぱり」


 思った通り。しかし、レイがそう思ったのも束の間。


「けど、使はまた別の話だよ」


「? それってどういう事?」


 そう言うシドウの言葉の意味が分からず、レイは問い返すがシドウは困ったように笑うだけだった。


「まあ、見ていれば分かるさ。だからその時に決めてくれ。俺に魔剣を創るか、どうかをな」


「‥‥分かった。じゃあ、貴方を見させてもらう」


 今の自分が出来るのは見ている事だけだとレイは、後ろへと下がり。ロドリゲス達の準備も整い、辺りが沈黙が降り。


『双剣技決闘(デュランダル)開始!』


 開始の宣言と同時に、ロドリゲスを除いた三人の姿が霞む。だが、シドウの耳はその足音を捉えていた。


(超高速で移動してるのか…。最初は、左後ろ)


 最初に近づいてきた足音はシドウの左後方、人間の視野の死角となっている場所からの攻撃。だがシドウは焦る事無く、前に二歩移動する。それだけで振られた剣はシドウに掠る事もなく空を切る。


「避けた!?」


「聖剣すら構えてないのにか!?」


「いやいや、偶然に決まってるだろ?」


 会場の一部で声が上がるが、偶然という言葉によってその波は収まりを見せる前にシドウは更に今度は右斜め前に移動すると、その背後で振るった聖剣同士がぶつかり火花を散らす。


(次は、上)


「っ!? おらああぁぁっ!」


 上からの切り下ろしに対して、シドウはまたも二歩移動するだけで回避してしまい。やがて押せ押せムードだった取り巻き三人の勢いが削られていき、このままでは拙い。そんな予感に仕切り直しの為に三人は高速移動を解いて下がる。


「おいっ! 何をしてる!? まさか、手加減をしているんじゃないだろうな!?早くそいつを倒せ!」


「い、いや!それは分かっているんですけど…」


「その、剣が当たらないんです。まるで俺たちの動きが見えてるように動くんですよ!」


「それに、なんだか見られてるような気もするんですよ、なんなんだ、これ‥?」


 得体のしれない奇妙な感覚に取り巻き達が困惑している様子にロドリゲスは苛立たしさを隠そうともせずに手を開くとそこに【聖剣錬成師】であるアーハンズが創った聖剣が創られロドリゲスは聖剣の柄を掴む。


「だったら、この俺も加わって一斉に攻撃する。力を使っても構わない! 一撃でも入れれば俺たちの勝ちなんだからな!」


「「「は、はいっ!!」」」


 ロドリゲスの言葉に動揺が収まった取り巻き達は再びシドウに向けて剣を構えるが、それに対しシドウはただ自然体で立って待っていた。


「さて、次はどういった攻撃で来るのかな。おや?」


「水凝造槍(ヴェイラ)!」


 シドウは自分の周囲が僅かにだが湿度が上がった。

 そんな気がしていると水滴が凝固しシドウ目掛けて水の槍が迫るが、シドウは焦る事無く回避する。通常であればあり得ない水滴が凝固し、水の槍に変化するなど魔法でなければあり得ない現象。だが、それを成せる力があった。


(これが、聖剣の力か!)


 実際に見るのも、身を以て体験するのはシドウも初めてだが。驚きはあれど一つであればまだ対処が可能であった。


大地を割り砕く斧アース・アックス!」


撫で切り裂く刃エアロ・スラッシュ!」


「っと! これだけの物量は、捌くのはキツイな…」


 まだ、取り巻き達の修練が浅いことが幸いしてか、現象が起きる前に僅かな予兆があり。それを基にどのような攻撃が来るかを予想しながら回避していたのだが。数が増えるとその分の予測も困難になり。限界が近いとシドウは感じていた。その予想通り、数は少ないが幾つかの攻撃がシドウに届き始めていた。


(‥‥仕方がない)


 レイも見ている手前このままでは悪手だとシドウは判断し、あんまり効果が無いと知りながら今までの自然体の構えとは違い出来る限り脱力した、攻撃の構えを取り。


「…ふっ!」


 脱力していた全身に一気に力を込め急加速する。その加速は先程の取り巻き達の加速と同等かそれ以上の速さを乗せた状態で拳打を叩き込む。


「がっ!?」


「ぐっ!}


「げへっ!?」


 取り巻き三人は回避が出来ず、腹部と顔面に拳打を撃ち込まれたことによって吹き飛ぶが。


「ぐっ!?」


 ロドリゲスは咄嗟に後ろに下がり距離を取ることでシドウの攻撃を回避したが、その顔には驚愕に染まっていた。


「馬鹿な、聖剣の加護もなしに「聖剣使い」並みの速さで移動しただと!?」


「この程度は、そんなに驚く事じゃないさ。地獄のような修練を積めば誰でも出来るようになるさ」


「驚くようなことじゃない、だと!?」


 ロドリゲスの言葉にシドウは何とでも無いようにそう言ったが、この世界においての「聖剣使い(エルピス)」は一人いれば兵士十人(一個分隊)相当する戦力とされており。目の前の男はそんな「聖剣使い(エルピス)」の速さに人の身で到達できるなど、夢物語りと言える事だった。


「おい、アイツ一体何者だ?」


「学院長が連れてきたんだせ? 知るかよ」


「でも、学院長に認められるからにはあの程度はないとね」


「そうだね。楽しくなりそうだ」


 そして、そんなシドウの動きに観客たちもざわつくが、あるものはその正体に、あるものはその強さを肯定する者と反応が別れる。そして、観客達の他にもう一人、レイもシドウの実力に驚いていた一人だった。


(あいつ、聖剣もなしにあそこまで動けるなんて…)


 シドウのそれは、目標の人を追い駆けるレイにとって希望となるもので。


「いいわ、私に光を魅せてくれたその御礼に、私も約束を果たしましょう」


 レイは意識を集中させて、自らの魔法陣(工房)を展開する。


「おい、あの王女本気か!?」


「あのバカ王女、勝ちを諦めたのか!?」


 それによって観客席からは先ほど以上の驚きの声が上がるなか、レイの意識は今までの使えない魔剣を創っていた時よりも遥かに鮮明に、魔剣を創造する。


(形状(タイプ): 直剣(ストレート))


(能力付与(エンチャント)二重(ダブル): 頑強(ガンド)・俊足(ソニック))


(魔元素(アーツ):希少級(アルテ))


 剣の形状から始まり、付与する能力、使用する元素の等級を選択しレイの魔剣は完成する。


「その手に輝く希望を!眩き希望の魔剣シリウス!」


 シドウの前に、魔法陣が現れるとそこから一振りの直剣の魔剣を現出する。それは柄から刀身、その全て純白の魔剣で。レイが創り出した、見たこともない魔剣に観客たちはざわつく中で、シドウは迷いなく純白の魔剣の柄を握る。


眩き希望の魔剣シリウスか…いい名前だな」


 そして、シドウは躊躇なく魔剣を引き抜き、剣を構える。その僅かな動作からも幾人もの者達が魔剣を触った時とは違い、シドウが拒絶された様子も無く寧ろ、自分の体の一部のように使いこなしているように見えた。そしてシドウはレイを見て笑った。


「それじゃあ、見せてやるよ。「魔剣使い(イリス)」としての俺の実力を」


「…魔剣使い(イリス)?」


聖剣使いを指す古い言葉であるエルピスではなく、イリスと言う聞いたことのない呼び名を聞いたレイの反応にシドウはそのまま背を向ける。それはまるで「その眼で見ていろ」と言っているかのようで。

そんなレイが見ている中でシドウは動き始めた。

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魔女と魔剣使い シウ @shiu2188

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