第2話 「再会」
「ここが第三闘技場だよ」
「…大きい」
シドウの前に立つ円柱状の建造物。それが一つの闘技場だというのだから驚愕しかなく。そんなシドウの様子にゲオルグは面白そうに笑みを浮かべながら歩いていき、シドウもその後を追って闘技場の中へと入っていく。
闘技場に入った先はエントランスになっており、そこにはこの闘技場を使っているのだろう制服を身に纏った学院生徒たちの姿がちらほらと見えた。
「こっちだよ」
そんなエントランスを通り抜け、その先にある通路を通った先。光が差し込む階段を昇りきるとそこに広がるのはすり鉢状の観客席、そして中央には直径で凡そ二百メートルほどの
「…やれやれ、彼らも飽きないね‥‥」
ゲオルグの視線の先、その視線を追ってシドウも気づいた。闘技場の一角、そこで一人の女子生徒を囲む複数の男子、女子生徒の姿があり。
「…あれ、あの子」
そしてシドウはそんな囲まれている女子生徒に見覚えがあって。
「俺を不審者扱いした奴じゃないか?」
「おや、もう知り合ってたのかい?」
「ええ、まあ…。偶然ですけど」
シドウの言葉にゲオルグは何かを思案するような顔をしながら女子生徒とシドウの顔を見た後。何か思いついたのかいい表情を浮かべながら囲っている者達へ声を掛けた。
「やあやあ、一体そこで君たちは何をしているのかな?」
「なんだよ、うっせえひっこんで‥‥ひぃ!?」
取り巻きとぼしき男子生徒が振り返るとその先に居たのは見知らぬ男子を連れた学院長。学院の生徒でなくてもその顔を知る人間であれば驚愕するであろう。
「おや? 学院長様が一体こんなところに何の御用ですか?」
「おやおや、それが学院長の私に対しての口ですか、ロドリゲス君?」
「いえ、聖剣が使えない時代遅れの魔法使いに払う敬意なんてありませんよ」
「やれやれ、貴方の御父君であるアルベート公爵は大変素晴らしい御方だというのに。その子息である貴方が王女殿下を虐めるというのはね。お父上が知ればさぞ心を痛められるでしょうに」
「親父に、俺の何が分かるって言うんでしょうね?」
「…はあ。問答は無駄ですね。何がどうして君がそうなったのかは分かりません。ですが、良いんですか? 私だけに集中してしまって」
「はあ?一体何を言って…」
瞬きの一瞬。視界の端に移っていた黒髪の男がブレたかと思えば、その腕の中には自分たちが囲っていたはずの王女の姿があり。
「…あれ?」
「よっ、数時間ぶりだな、王女様?」
「‥‥あ! 貴方あの時の不審者!」
「不審者とは失礼だな。これでいいんですよね?」
「ああ。上出来さ」
抱き抱えていた第二王女、レイ・ソル・アリウスをそっと降ろすとレイはそのままゲオルグの後ろへと隠れてしまった。
「さて、公爵家の跡取りである君とはいえ取巻き達と王女殿下を囲っていた。これも既に三度目だ。流石に見過ごすわけにはいかない」
「へぇ、どうすると言うんですか?」
「…そうだね」
シドウとレイをチラッと見たあと、ゲオルグは宣言した。
「じゃあ、丁度いい。罰としてシドウ、レイ君の二人と【双剣技決闘(デュランダル)】をしてもらおうか」
「「「「は?」」」」
「…はい?」
「…え?」
突然のゲオルグの提案にロドリゲス達だけでなく、シドウとレイに関しても突然の事でそんな言葉しかなかったが。
「罰であるなら僕は別に構いませんよ。何処のウマの骨とも知らない人間に負ける程弱くはありませんので」
「よろしい。さて、あちらは了承した。君たちはどうする?」
ゲオルグの視線は何処かシドウを試すかのように見ていたが、シドウとしてはそこまで乗り気ではなかったが。逆に受けないという選択肢もなかった。
「俺も別に構わない。実力を知るうえでいい機会と言えるからな。王女様はどうする?」
「‥‥‥私は」
その数十分後、シドウと王女レイの姿は闘技場の控室の一室にあった。
「‥‥大丈夫か?」
「…だ、大丈夫です」
シドウは特に空気に呑まれるなんてことはなかったが、辺りの熱気に呑まれ気味の第二王女殿下に声を掛けるが、帰ってきた声はガチガチに緊張している様子で。そんな中でも進行は進んでいく。
『さあ、始まりました!急遽始まった【双剣技決闘(デュランダル)】! 対戦するのはシドウ・クロノ、レイ・ソル・アリウス第二王女殿下対ロドリゲス・グランズ、アーハンズ・ボルクとなりますが。シドウ・クロノ、彼は一体何者なんでしょうか!』
『彼は転入生だよファイリ君』
『ゲ、ゲオルグ学院長!? て、転入生ですか? 入学が終わったこの時期にです?』
『ああ、彼の転入を決めたのは彼の実力を直接見た私が決めさせてもらったよ』
『学院長お墨付きですか!? それは楽しみですね!学院長期待の転入生、その実力は如何に!?』
闘技場に響く声。それは風魔法である「集音」と「拡散」が刻印された『
「はあ‥‥私、どうして断らなかったんだろう…?」
そんなシドウとは違い外の盛り上がりとは裏腹にレイの気分は急降下していた、
「あんまり過去の事を振り返っても仕方が無いと思うぞ?」
「貴方に何が分かるって言うの?」
「お互いを知らないんだから分かるはずがないだろ?」
「っ…!」
今まで自分がどれだけ苦労してきたかを知らないから、そう言えるんだ! その怒りを込めてシドウに一言言ってやろうと口を開きかけた時だった。
「だから、これから知って行けばいいのさ。まだ始まってすらいないのに、諦めるのは勿体ないだろう?」
柔軟体操を止めてそう言ったシドウの眼は真っ直ぐにレイを見据えていて。それは家族を除けばこの学院ではゲオルグだけが向けてくれた眼で。そんな眼にレイは毒気を抜かれるしなかくて。
「…もう、分かったかのような口を聞いて」
怒りの炎も鎮火し、落ち着ついてしまい小さく言い返すしかなかった。
(少しは、落ち着いたみたいだな)
王女殿下の様子にシドウはそう思いながらも何も言わず、戦いに備えて今自分が出来る事を黙々と続ける。
「「「「「おおおおおおおおおおぉぉぉぉぉっ!!!!!!!」」」」」
そして、そんな二人とは関係なく、控え室にまで聞こえてくる声から会場の熱気も高まっているようで、二人の戦いの幕が開くのは、すぐそこまで迫っていた。
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