魔女と魔剣使い
シウ
第1話 「始まり」
「ふぅ、ここがアリウス王国が誇るアストライア聖剣学院か…」
目の前に広がる広大な敷地を誇る学び舎を前にシドウは手に持った手紙に視線を落とす。そこに記述されていた内容は驚愕の事実で忘れることはないほどに読み直した。
「なんで、俺なんかがこんな有名な学院に転入する事になったんだろう…俺は別に」
「迷った…」
学院の敷地は外から見ていた限りでも広大で、数分もしないうちにシドウは迷子になってしまっていた。
「さて、どうしたものか…」
辺りを見る限り、恐らくこの辺りは学院の中に幾つもある森の一つであろう事が、更に剪定や手入れもしっかりされているようで、人が居るという事は確かに分かった。
「というか、せめて地図くらいあってもいいんじゃないか?」
歩きながら、広大な敷地を誇るのであればせめて簡易的な地図も同封してくれても良かったのでは。と思いながらも防犯などの観点から見てそれは危険だという判断もあったのかもしれない。そう思いながら歩いていくと森が途切れて開けた場所に長椅子がぽつんとあり。そこに学院の制服を身に着けた一人の少女は膝を抱えて座っており、道を教えてもらおうととシドウは声を掛ける。
「あ、すみません〜」
「………」
「あの、すみません?」
「………」
「すみませ〜ん?」
「………え? だ、誰ですか貴方!?不審者!?」
「あ、聞こえてなかったのねというか不審者では…」
「いやあぁぁぁ! 不審者ぁぁぁぁぁっ!!!!」
「いや、あの道を‥‥」
シドウの訴えも空しく少女は声をあげながら逃げていき、振り出しへと戻ってしまったシドウ。
「これ、どうしたらいいんだ…?」
広大な学院の敷地の中で一人、途方に暮れるほかなかった。
* * * * *
その後、学院の中を彷徨い続けて数時間後。シドウの姿は学院の学院長室にあった。
「やはり、迎えを寄こすべきだったね。申し訳なかった」
「いえ、断ったのは自分ですから…」
シドウにお茶を出しながら申し訳なさそうに謝って来るのは、アストライア聖剣学院の学院長を務め魔法を使わせれば右に出る者はいないとし「
「…美味しい」
「それは良かった」
シドウの反応にゲオルグは嬉しそうに自分もお茶を口にする。そして、少し落ち着ち水分を補給した所でシドウはカップを置く。
「それで、ゲオルグさん。あの話は本当なんですよね?」
「ああ。本当だとも」
そう言うとゲオルグは立ち上がり執務机の上に置いていた紙を手に取って戻ってくるとシドウの前にその紙を置いた。そしてシドウはそれに目を通し、間違いではない事を確認する。
「確かに、書かれてますね。俺の名前が」
その紙に記されていたのは、今のシドウでは到底払うことのできない金額、その連帯保証人の名前にシドウが記入された借用書だった。
「そして、その期限は明日までとなっている。
「そうですね…」
事前に聞いていたとはいえ、目の前で改めてその事実を確認したシドウは思わずにはいられなかった。
「あのバカ師匠」
「君に対しては同情するし、明らかに今回は奴がすべて悪い。だからこそ君に条件を出しただろ?」
「そうですね」
流石の酷さに同情したゲオルグがシドウに提示したある条件。シドウからすればそれは破格の条件で常人であればすぐに飛びつくほどの内容だったが、シドウはまだ決断をしていなかった。
「でも、もう一度改めて聞きますけど。どこの馬の骨とも知れない一般庶民俺なんかでいいんですか?」
「良いんだよ。ご両親の許可も取った。何より直接見た私が認めたのだから問題はないさ。それとも、君はこう言いたいのかい?「貴女の眼は節穴です」と?」
「いいえ、そう言うつもりはないですけど…」
ゲオルグからカップに視線を逸らし、シドウはカップに残っていたお茶を口にするとほんのりと甘い花の香りが鼻から抜けていき、シドウの気持ちを落ち着かせる。
「本当に良いんですか?第二とは言えこの国の王女様の護衛を俺なんかが務めても」
「大丈夫。言っただろ?許可はとってあるって」
「‥‥‥そうですが」
シドウがゲオルグの提案した条件に渋っていた理由。それは王女の護衛という一般人がいきなり王族の護衛をするなぞ前代未聞もいいところで。
下手をすればそこを踏み台に貴族から突っつかれる可能性も大いにあり得る危険なモノであるというのに。その王女の親である国王と皇后が既に了承しているというのも正直信じ難い事でもあったが。
「君は、彼女の、王女の二つ名を知っているかい?」
「ここに来るまでに聞きました。【魔女】だそうですね?」
「…ああ」
シドウの言葉にゲオルグは沈痛な面持ちで窓の外へと視線を投げる。
「この国ではある時を境にこの国を建国した初代国王である聖王アルトリウス、その妻である聖妃シャルトレーヌと同じく聖剣を扱う事の出来る【聖剣使い】、そして聖剣を創り出すことが出来る【聖剣錬成師】。その奇跡の卵たちを育成する学び舎として、このアストライア聖剣学院を創設した。そして長きにわたってアルトリウスの血を受け継ぐ王族達はみな優れた【聖剣使い】か、【聖剣錬成師】を世に輩出してきた。しかし」
「そんな歴史の中ただ一人、第二王女だけが【魔剣】を創ることが出来る【魔剣錬成師】の力を以って産まれてきてしまった」
「ああ。有史以来【魔剣錬成師】は確かに居た。彼らも優れて【錬成師】で幾つも強力な【魔剣】を創り出していた。一般的であれば全く問題はない事だが、彼女の場合は王族である事が仇となってしまった」
「そして、聖剣ではなく魔剣しか創ることが出来ない、祝福されていない呪われた第二王女と言い何時しか人々は『呪われた魔剣しか創れない王女』として魔女と呼んだ」
ゲオルグの言葉を繋いだシドウの言葉にゲオルグは悲しそうに視線をカップへと向ける。
「ああ。私としては全く理解に苦しむがね。使い手が限りなくごく少数であるとはいえ【聖剣】をも凌ぐ【魔剣】を創り出せる彼女の事を何故【魔女】と呼ぶのかをね」
「…そうですね」
仕方がないとはいえ、唯一無二とも言える才能に呪われているなどおかしな事だとシドウ自身も感じていると悲しい表情を浮かべたゲオルグはシドウをその双眸で見る。
「だが、君ならば彼女の悪評を覆せる」
「俺なんて、何処にでもいる一般人ですよ。お眼鏡にかなうとは思えないですけど」
「いや、私の予感は当たるものだよ。君ならば彼女、第二王女であるレイの魔剣を使いこなせる。いや彼女の力を示す最強であると」
シドウにそう語り告げるゲオルグの眼に嘘の色はなく。シドウはため息を吐いた。
「俺がそんな大層な人間だとは思えないですけどね…」
とはいえ、ここまでの話を聞いてしまい、更に言えばお茶を出してもらったのであれば少しばかりは答えないといけないか。そう思い口を開く。
「まあ、一度会ってみましょう」
「あ、それなら丁度良かった。レイなら今は第三闘技場に居ると思うから、案内しよう」
「あ、お願いします」
ゲオルグが立ち上がり、その背中を追うようにシドウに立ち上がるとその第二王女が居る第三闘技場に向かった。
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