紫と月

 真夏の6時はまだ夕方で、喫茶店に夕日が差し込んできた。

「それじゃあ紫月ちゃんをよろしくね!!」

 そう言い残すと、店長は自分の車に乗って子供を迎えに行ってしまった。

 僕は店長を見送った後、店内に戻ってメモ用紙を取り出す。僕はメモに必要なことを書き込んだ後、そのメモを入口のドアに張り付けた。

「それじゃあ、僕らも行こっか!!」

「うん」

 僕と紫月ちゃんは喫茶店を出て、お祭りへと続く大通りを歩き出した。この大通りにも屋台があって、いい匂いがする。

「紫月ちゃんは何が食べたい?」

「分かんない」

 僕はその返事に少しびっくりした。

「もしかして、紫月ちゃん。お祭り初めて?」

紫月ちゃんは頷いた。

「そっか~じゃあとりあえず屋台を一周してみよっか。なにか食べたいって思ったら言ってね!それじゃあレッツゴー!!」





 僕らははぐれないように手をつなぎながら屋台をめぐる。最初は少し不安げだった紫月ちゃんもいつの間にかとても楽しそうだった。今の紫月ちゃんには笑顔が溢れている。本当に良かったと僕は笑顔を見て何事にも代えがたい嬉しさを感じた。

いつの間にか、紫月ちゃんはお面やら、綿あめやら、かき氷やら、スーパーボールやら金魚やら、くじの景品のアクセサリーやらで、いっぱいになっている。紫月ちゃんも満足げだ。

「紫月ちゃん!!このお祭りの最後はね!!花火がやるんだよ」

「はなび?」

「花火も初めて?それじゃあとびっきりの場所で見よう!!」

「うん!!」

 花火を見る場所に移動している途中、疲れてしまった紫月ちゃんを、僕はおんぶする。幸せそうに僕の背中で寝る紫月ちゃんの息遣いがなんだかくすぐったい。

僕らがお目当ての場所に着いたと同時に、花火が上がり始める。

「ほら、着いたよ!」

 僕らは来たのは夏祭りの会場付近の神社だった。そこそこ高い場所にあって、花火が見やすい。紫月ちゃんは、先ほどの花火の音で起きたようだった。ムクっと頭が起き上がる。僕は紫月ちゃんをゆっくりおろすと、隣り合わせに座った。

「ほら、ここ凄いでしょ!!夏祭りの花火はここが一番いいんだよね」

「うん.............凄い」

「みて!!、金色とか、赤色とか、ほら!紫の花火もあるよ!!」

「ん?なんか元気ない?どうしたの~?」

 紫月ちゃんはなんだか言いたげな感じだった。

「あのね~はなびってとってもきれいだけど、きえちゃうのさみしーなって」

 なんだか分かる気がする。

「でもほら見て、花火の他にも月が見えるね。しかもちょうど満月だ!」

「まんげつ?」

「まんまるな月のこと!」

「紫の花火と満月の組み合わせがとっても奇麗だね」

「なんか私みたい.............」

 紫月ちゃんはボソッと独り言のように呟いた。

「紫の花火と満月、確かに紫月ちゃんって感じだ」

 僕は紫月ちゃんの思いがけない発想に思わず嬉しくなる。

「紫月ちゃんはいい感性を持っているね。詩人みたいだ」

「しじんって?」

 紫月ちゃんは不思議そうにこっちを見る。

「自分の思いを素敵に伝える人のことだよ」

 僕はそう伝えた。

「しじんか~なんかかっこいい!!わたしそれになる!!!」

 紫月ちゃんがこんなにも元気よく自分の夢を語ってくれた。

「うん!いい夢だね!!僕は応援するよ!!!」

 なんか嬉しくて、僕は応援せずにはいられなかった。

「ねぇ。またいっしょにまつりまわってくれる?」

「もちろん!!君がいいなら何度でも」

 僕らはまた手をつないだ。





 

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紫月 鮎川伸元 @ayukawanobutika

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