/26アジュガ 心休まる家庭



〔帰る場所が欲しかった

帰りたい場所が欲しかった

だから 街ができた〕


「リーダー!?こら!待ちなさい…!ってなんで透明になったんだい?!なんだそれ!?」

「ほぅら、先日、兄役くんの姿を模したものがあっただろう?それの改良品でね、光学迷彩技術により周囲にまるで溶け込む消しゴム機能を搭載したんだよ。」

「教授さんもひと噛みしてるんですね?その言い方。」

「ほほほ、そりゃあ。実証実け……実験には客観視も必要だからねぇ。」

「言い直した意味、あります?」

「ほら見てご覧、起動からの展開時間も随分短縮された。輪郭の縁取りも目視では見破ることはできないだろうねぇ。勿論センサーなどによる体温の感知も不可。重力の超越だけが少し手間取っていてね、積重感知を果たしてどう食い破るか…」

「アー、はい。そうなんですね。」

「さて。では魔法使いくん、技術者として認知の事実を伝えておくとしよう。」

「はい?」

「リーダーくんはもう周囲10m以内にはいないよ。」

「……離れた時点で教えてくださいよ!」


「それで?リーダーは何したんだ?」

「リアルメリーさん」

「…メリーさん、って、あれよね?確か旧時代のホラー概念…」

「部屋に突然回転式連絡媒体が置かれたかと思えば一分刻みで着々と距離を詰めた場所報告をしてきて、最後に真後ろからクラッカーをぼん!」

「はっははは!なんだそれ、自分も見たかったなぁ!」

「それにしてもリーダーはやっぱりすごいですね、全然違和感ありません。継ぎ目も見えませんし…」

「最近ドクターさんに怒られながら熱心に作ってたのはこれかぁ」

「そー、すご…ん。やっべ、じゃーね整備士さん花屋さん、俺逃げる!」

「はいじゃーねー」

「あ、こら待ちなさいリーダーーーー!!!」

「兄役さん大変…」

「て、言いながらリーダー引き止めないあたり花屋さんもいたずらっこだね?」

「中立、て言ってくださいよう」


「あ」

「げ」

「げ、てなに料理人さん。ひどくない?」

「今のリーダーにはげ、しかあらへんし。やーって、あいつ小生にめちゃ厳しない?なんでリーダー引き止めてへんねんとかすーげーネチネチ言われんのよ?やめてやめて、帰って帰って」

「俺の家街の須く全てなんだけど」

「部屋に戻って戻って」

「やだよ」

「わかった、お菓子出来立てのあげるから」

「やったー!じゃーね料理人さん!」

「はっや、小生とはお菓子だけの関係かリーダー!?」

「そんなわけないだろ〜、でもさ、後ろ、後ろ」

「へ?」

「料理人さん、なんでリーダーをもう少し引き留めてないんだい!」

「理不尽!!!」


「見失った、完全に見失った…!」

「それで我輩のところに来たと?」

「そう、演奏家さん知らない?」

「知らぬ。我輩はこの小娘の調律をしていたゆえ」

「………」

「そう、君も知らない?」

「………」

「詰め寄るな兄役殿、側から見るとちょっと怪しい光景ぞ。」

「見失った位置的に逃げ込むならここだと思ったんだけどなぁ…」

「えぇい、我が主人がそうやすやすとわかりやすい手を使うわけもなかろう!」

「………」

「そうだよそうだよ、てか歌姫に詰め寄る姿詐欺師ぽくてウケんね。」

「ウケない。……リーダー!?」

「む?我が主人よ、隠れてなくていいのかね。あともう数刻は時間稼ぎできたと思うのだが…」

「十分だよ〜。インターバルオッケー、使用可能!俺は逃げる!演奏家さんと歌姫、ばーい!」

「あ、こら、リーダー!もう俺今日叫んでばっかだなぁ!」


「ばい…」

「…む!?小娘今喋ったな!?」


「仕方ない。あぁもう仕方ないよリーダー。こっちも最終手段を取るしかないね。」


「うーん、流石にエネルギーの消費が早いな。もう少し配線を簡略化して…この辺のシステムは統一できそうだからして……ん?」

「発見シました。“リーダー”様。」

「…なんでドクターさんがそっち側ついてんの!?」

「リーダー、君、昨日少し睡眠時間を削っただろう?その前には徹夜もしてた。そんな中街中の追いかけっこ…体が疲弊していても当然だね?」

「ひ、卑怯じゃんそれは!」

「確認…睡眠時間の3割減、脳疲労2割増、体内疲労2.5割増。“気絶させテでモベットに直行”作戦を実施しマす。」

「や、やめ、ドクターさん、その腕しまって?人を眠らせるための手段にしては荒っぽいよ、ね、ね、ね?!」

「“リーダー”様。」

「はい。」

「ワタクシの顔は三度モありマせん」

「すいませんでしたぁ!」






「あれ、あれ、リーダー!」

「つかまっちゃったのかっ」

「……ふぁ〜、はやかった、ね?」

「ドクターさんがさぁ、ひどい裏切りにあったよ。」

「それ、それ、だから首からかんばんさげてるの?えっと、えっと?」

「“私は熱中の余り徹夜を隠し、リアルメリーさんを企てあらゆる迷惑をかけました”、だってっ!」

「ざいじょう、いっぱい…」

「足痺れてきた。」

「つつく?」

「やめてカラス!なんでそんな乗り気なの…ロップ?ヒツジ?信じてるよ?」

「あのね、あのね、おにーさんにいたずらしてもいいよ!ていわれたの」

「とつげきーっ!」

「ぎゃああああああ!」





「ゆるさねぇ…ゆるさねぇからなぁ…!」

「なんだか悲しきモンスターみたいになってるよ、リーダー」

「あの子達使うなんて反則だ!」

「いいじゃないか、あの子たちも悪戯できる良い口実ができて楽しそうだったよ。」

「あんたの差金なのがやなんだよ!」

「これで少しは反省したかい?」

「……」

「リーダー?何ゴソゴソして…」

コーーーーケコッコーーーーーー!

「うわぁぁっ!?」

「………見たか!聞いたか!これぞ音響兵器型目覚まし時計“チッキン”の威力!」

「…リーダー……」

「え、うそ、ほぼダイレクトで喰らったのに声出す余裕あんの。やーっべ、にーげよ。」

「リーダーーーーーーーー!!」

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