/23ボタン 王者の風格
〔魔女だ 魔女だ 悪魔のような 魔女が生まれた〕
産声ひとつで人の命を奪い去った。崖を切り崩し、稲妻を降り注がせ、星は散り去る。地獄のような、けれどあんまりにも非日常すぎたせいか幻想的にすら思えてしまったのは魔法使いの悪癖ってやつだろうか。
それを産んだ女は幼子に名前をつけるよりも、愛を抱くよりも前に死に絶えた。随分無念だったか、無様だったか、おそろしかったのかは知らないが女の顔は苦痛に満ちていた。
マナは体内で生成されるエネルギーだ。どれほどの魔女であったとしても、それほどの通常を歪める超常を扱おうとも、その法則だけは揺るがない。やはり赤子であったから故だろう。あの瞬間最も恐ろしい存在であった赤子は突如電池が切れるように産声を途切れさせて意識を失った。
抱き上げてやったそれはふにゃふにゃとした肉体で、首だってすわっておらず歯だって生え揃っていない。こんなにも日常的な姿をしているくせに、周囲は悲鳴すら掻き消えて、一体は抉れたり崩れたりしているのだからいっそ悍ましい。
その場にいたのはふたりの魔女だけ。
誰も見ていない、生きていない、残っているのは恐怖の残滓だけ。
だからその場から魔女がいなくなったことも、誰も知らない。
「泣くな。呻き声ひとつ、あげるんじゃない!」
痛みは徐々に麻痺していた。
「まずはこの歌。それを完成させるまでは眠れると思わないことだ。」
ただ忠実にこなすことがいちばんいいのだということはわかっていた。
「さあ、歌え。お前は私の兵器なのだから。」
言葉は命令だ。引き金を引かれた銃が反抗などするものか。
それはきちんと丁寧に精査されて、磨き上げられた、完成した。魔女だ、魔女だ、生まれたのは魔女。少女人形の姿をした破壊兵器はそうしてそうして完成した。だって産声ひとつであらゆる命を踏み潰した。
女は拾い上げた子供をちゃんと兵器として完成させた。言葉と鞭と絶対をもって忠実な存在にした。何という満足感!そうともなればあとは簡単だ。少女人形の形をした兵器を、魔法の国に差し出してやれば戦争に劣勢となっていた彼らは勇み喜んで受け取った。だってとってもとっても便利で仕方のないものだったから。
「さぁこれで、魔法の国史上最高で最低の魔女の完成ね」
その姿はちゃんと魔女だった。ああ。そうとも。悪魔に魂を売った、正しく正しく魔女。
圧倒的な存在は悲劇と畏敬を身に纏って、誰も寄せ付けない貫禄と共に少女兵器を創り上げた魔女。
そうとも、忘れてはいけない。
悪魔ですらもそのひとつ。武器も兵器もなにもかも、悪意を込めるのはそのものではない。だから魔女なのだ。だから、最低で最悪の魔女。
少女人形の姿をした破壊兵器、少女を殺したのははたしてだぁれ
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