/9 ユーチャリス 清い心
〔すてきなものはすてきなのだ
それをひていするけんりはだれにもない〕
“恋って一体どんなものなのかしら
砂糖菓子みたいに甘くって
リボンみたいに可愛くって
薔薇みたいにかっこよくて
硝子細工みたいに美しくて
そういうとても素敵なもの
ジンジャーみたいなスパイスと
溜息みたいな涙をひとつまみ
まぜて あわせて とろりととけたもの
ずっと一緒がうれしいもの
ずっと隣がここちいいもの
ずっと溢れるあまいおもい
あたたかくて 幸福で とろけるようなしびれのこと
だれもが抱く愛のこと だれもがゆるされた愛のこと
煌めく星をつかまえて 波打つあおを支配して
なおもゆるがぬ 愛のこと
だれもが許されて だれもが夢中の素敵なもの
そういうものが 恋って云うの”
ピンクと紫のマーブルに粉砂糖を散らしてリボンを飾りつけたような装飾の本に目を瞬かせたのは、キャラメリックのツインテールを揺らした少女だった。
いつかに谷の底に落ちて、誰かしらに拾い上げられ棚に詰め込まれていたのだろう古びた本は誌集だった。
少女は狭間の街でロップと呼ばれていた。彼女がそう名乗ったから、そう呼ばれている。少女の隣にさんこいちだ、ちみっこ組だ、などと言って常といっても過言ではないほどにいる2人の少年の姿はない。少女と少年たちが喧嘩をしたのではなく、少年2人の喧嘩にロップが巻き込まれたが故に、である。幸い少年2人は仲直り、巻き込まれたロップもそれに倣った訳で“めでたし”となった訳だが“後始末”(何せキッチンは軽い爆発でめちゃくちゃになったので)に駆り出されている。
なのでロップはいま、ひとりだった。ひとりだったのでとてとてと足音を立てて赤い丸とびらに向かっていたところ、通り路に使った螺旋階段をぐるりと囲ってある本棚の壁から今にも落ちそうになっている本を引っこ抜いた。もちろん、好奇心に他ならない。
もしも本の装飾がいかにもむつかるしく少女の手には重たすぎる硬文庫であれば、ロップはそっと本棚の壁の隙間に返しただろう。
ロップが常好むのは物語だ。特に冒険譚や幻想譚。星の装飾が美しい画集じみた絵本や言葉遊びが楽しい不思議な童謡を、いっとう好んで読んだ。“先生”や“リーダー”が時折楽しげに語らう細かい文字ばかりの書籍や、“整備士”がうんうんと読み耽る白黒の挿絵だけが挟まれた図鑑はロップにはいささか難しすぎるのだ。
引き抜いた本の表紙と装飾は夢心地ちっくでファンシーで、そういうむつかしい本よりもロップが好む類の本に似ていたので、階段に腰掛けたロップは読書の姿勢に入った。
そうして、目を瞬かせた。ぱっちりとした淡いラベンダーに星が散った。
ピンクと紫のマーブルの本はロップが好むような物語ではなかった。星から生まれた子供がランタンで淡く照らす幻想譚でもなければ、はつらつでお転婆な乙女が言葉遊びの世界を旅する冒険譚でもない。そもそも、ロップにとってはむつかしい類の本のように挿絵ひとつも入っていない文字だけの本だった。
ただ、細かくびっちりとした文字が隙間すら埋めている類のものでもなければ、態々わかりにくい羅列のようなかっちりした単語の文章がつらつら並べられているわけでもなかった。
文字の色は淡く、形は鉛筆で書いたように柔らかい。絵本に添えられた文字のようにゆったりと並べられて、最初からゆっくりと読むことを想定したように作られたのだろう。
時折むつかしい言葉が挟まれた時は容赦なく読み捨てたが、ロップは気が付けばその一冊に夢中になった。どちらかといえば曖昧で抽象的な言葉の選びが多かったので、ふわふわと読み進めることができたというのも理由の一つかもしれない。
幼いロップにとってはそれでもやはり少しばかりむつかしかったが、その一節は文字が色を持ってぱちぱちと弾けているように思えた。
それはとても素敵なものに違いなかった。
とてとて、ぽてぽて、かんっ、かん。可愛らしい足音に花屋の顔が綻んだ。緩んだ頬をもにりと揉んでから、ぴょこんと顔を覗かせたロップにやわい笑顔で手を振った。
「こんにちわ、ロップちゃん。」
狭間の街の子供たちは幼く比べれば小さな体を駆使して、大人では少々厳しい場所から現れることが多い。これはそのひとつで、ロップは今はもう使われていない(し、そのせいで安全に整備された)大きめのパイプ管の中を伝って、ちょうど赤色の丸扉の正面あたりにころりとまろび出た。パイプ管の中はよく音が反響するので、子供たちが来るときは音ですぐわかる。
「あれ、珍しいね。ロップちゃん、ひとりなのね。」
大概ロップが(ひいてはヒツジもカラスも)1人でいたり、1人欠けてたりするとこういう台詞を言われる。
「うん、うんっ、1人だよ!あのね、あのね、ヒツジとカラスはリーダーのとこでお手伝いしてるの、どっかんしちゃったから。」
ロップの言葉遣いは10歳にしては拙く幼さが残っているが、そういう個性だった。少女らしい快活な笑顔でぴょんとはねると、キャラメリックのツインテールも兎のようにはねた。
花屋はロップの言葉に「どっかん?」と首を傾げた後、あっと手を合わせた。
「そういえば朝に整備士さんが言っていたわ。」
「うん、うん、整備士さんとリーダーのお手伝いしてるんだよ!」
「まぁ、そうなの。」
「それで、それでね、わたしも花屋さんのお手伝いさせてほしいのっ!」
ロップは花屋のことが大好きだった。もっと幼い頃、ロップからすればとても前に絵本で焦がれた“花”をつくってくれた花屋をのことが大好きだった。
本物ではない、けれど、ロップのためだけにつくられたあの素敵で美しくて綺麗な花を。ロップはいっとう宝物の思い出にしている。
だからか、ロップはよく花屋の元を訪れては手伝いをさせほしいと願った。
狭間の街には金銭制度はない。金というのは便利だがトラブルを一気に倍増させるからだ。なので、街での物資や行動に支払われるのは別の物資や行動だった。例えば“花屋”や“整備士”などといった役割が、街の住人たちに当てはめられているのはそのためだ。
ロップは幼い。成人どころか、カレッジに通うことも兵役の義務が与えられることすらない、子供だ。だからロップたちにはそういうための役割がない。
正直花屋は相手がロップくらいの年頃で、しかも欲しがるものが“そんなもの”なので対価を要求しなくてもいいとすら思っていた。
ただ、それを言うとこぞってみなに苦言を呈された。
『うーん……多分、花屋さんよりもロップがダメだと思うよ。』
少年と青年の間にいるような、子供っぽくも頼り甲斐のあるリーダーからは見通すような笑顔を返された。
『花屋さんは“花屋”なのだろう?ロップはその意味をちゃぁんとわかっている子だよ。あぁ、もちろん、ヒツジもカラスもね。』
面倒見の良い街の兄役からは謎かけのような言葉を返された。
『子供のうちに無償の甘えを与えるのは、良きことであるが、同時に悪いことでもあるよ。特にこんな街ではね。』
好好爺の皮を被った教授からは先生らしい喋り方で諭された。
『だめ、だめっ、わたしにとって花屋さんの花はとってもすてきで、きれいなものなのっ!ちゃんと、ちゃんと、すてきなものにはわたしのありがとうとうれしいをかえしたいのっ!』
何よりロップが足をだんだんと地面を叩きながらわぁっと怒った。花屋がロップに怒られたのは後にも先にもこれだけだ。
怒って、怒って、泣くくらい怒ってくれたので、花屋はロップのお手伝いに彼女のつくった花を対価とした。
「もちろん、いいの?」
「うん、うんっ!」
お手伝いをこんなに喜んでおねだりするロップは、とても賢い。賢くていい子で、素敵な子だ。
「えっと、えっとね、だからね、冬のおはながほしいです…」
「うんうん、もう少しで冬だもんね。……あ、そうだ、冬のお花の飾りがついたブックマーカーでも素敵だね。」
「ぶっくまーかー?」
「えぇとね……こういうの。ロップちゃん本を読むでしょう?読んでる途中に挟む栞だね。」
一度部屋に引っ込んだ花屋はごそごそと音を立ててから、再び出てきた。手には先端が丸く曲がったかぎ状の金属板にチャームがついた、メタルブックマークと呼ばれる種類のものだ。チャームには半透明の花びらが色づいた影を揺らす紫陽花が揺れている。
「わぁっ!すてき、すてき!」
「これは紫陽花だから…冬のお花ならシクラメンとかパンジーとか…一緒に雪六花を飾り付けでつけてもかわいいかしら。またいつものように色を選んでもらってもいーい?」
「うんっ、うんっ!」
「……あ、でも。もう少ししたら夕方だから、明日にしよっか。」
「はっ!たいへん、たいへん…えっと、えっと、それじゃあ、あした、おねがいしますっ!」
ロップはいつも素直に喜ぶので、花屋は頬が緩んで仕方なかった。ぴーんと腕を伸ばして全身で「たのしみ!」と伝えてくるのだ。
ぶんぶんと勢いよく手を振って段差を降りていった(行きに使用したパイプ管は入り口が高い場所にあるので帰りには使えないのだ)ロップを見送りながら、頭の中でロップが好きそうなパーツを見繕っていく。明日までに何種類かの大体の形を書いたスケッチを用意して、ブックマーカーの種類もいくつか出して……
頭の中でずらりとしたいこと、やりたいこと、やらなければならないことを並べる。花屋は何かしらを始める時、ひとまず思考をピックアップしてリストを作る癖があった。
ぼぅっと視界を上向きにしながらぐるぐると思考を巡らせ扉に手をかけた辺りで「は、っなやさぁーん!」と溌剌とした予想外の呼び声に引き止められる。花屋の体が1センチは浮かんで、着地と同時に痺れたみたいに目を見開いた。まるできゅうりが突然振ってきた猫のようである。
そもそも考え事をしていたのと、大声に驚いたのと、その声が朝に瀕死にさせかけられた人のものだったのとで3点揃ったので、仕方がない。そろりと振り返ると朝よりもジャージを煤汚した整備士が手を振っていて、目が合うといっそう笑みを深めたので花屋は早々に限界を迎えていた。
整備士は軽やかな身のこなしで壁に足を引っ掛けみっつほど道をショートカットした。その鮮やかさと言ったら、着地の瞬間の足音すら“とん”と鳴る程度で長靴を履いた猫さながらである。
大雑把にひとつに結ばれた霞色の髪がさらりと揺れ、アーモンド型の瞳がつんと細まった。ただ口元はゆるゆるとしているので某街の兄役からはだらしない笑顔と評判の表情である。
「花屋さーんっ」
「整備士さん、おかえりなさいっ。」
慌てて声を発したので少し裏返った。幸いにも整備士は気づいていないのか、気づいていないフリをしてくれているのか。嬉しそうに「たーだいま」と返した。
「おつかれさまですっ」
「おつかれさまでしたーぁ。花屋さん、サンドイッチ今日も美味しかったよ!」
「よ、よかったです。」
この辺りで花屋に疑問が浮かんだ。
整備士の居住区は実のところもう少し下層近くで、朝方ならば兎も角疲れ切っているだろう帰りにわざわざ寄るというのは、まぁ、珍しいとまでは言わないが(実のところ色々と口実をつけて整備士が訪れることはままある)不思議だった。
「その、どうしてこちらへ?」
ランプライトの整備は昨日に、区画整備は一昨日、昇降機の調整は四日前、頬に手を当て小首をかしげる。
「あのね」
整備士はよくぞ聞いてくれました!と言わんばかりの顔をした。朝同様手に持っている工具箱を開けると、マトリョーシカみたいに木でできた小箱を取り出した。木箱の中に入っているものがじゃら、がちゃ、と音を立てる。
「じゃじゃっん。」
「これは…?」
眼前に出された木箱は当然透けもしなければ音を立てるだけなので、さっぱりわからず花屋は瞬きを繰り返した。
「今日のシゴトのときに色々パーツが余ったからお土産〜。えっとね、色硝子の粒と、飾り模様の入った木片と、短めの銀ワイヤーと、花弁みたいな形の陶器の破片と…んー、いろいろ!」
人からすればただのガラクタ。いらないものを押し付けられたと捉えられてもおかしくないラインナップを、花屋は聞けば聞くほど顔を明るくさせた。勢い余って整備士との間にあった距離を詰める。
「いいんですかっ!」
「ワァ」
「前もそう言ってくださったのに!」
「ヤ、うん。元々、ね。自分達からすれば細かすぎるからね。」
整備士の身長は花屋よりも高いので、上目遣いで体を寄せる形になっていたが喜ぶ花屋は気づかない。むぎゅ、と口元をしぼめる。若干腕が浮いている。
「た」
「た?」
「ただしこの木箱、とれたらね。」
まなじりが微かに引き攣っていた。怒っている訳ではとんとなくて、限界を感じたような表情だった。
木箱を持った腕をひょいとあげると、身長差もあって腕を伸ばしても届かない。
むむむと頬に空気を溜めて必死さに顔を赤くさせる花屋の顔を見下ろす整備士は、ちょっとばかり余裕を取り戻してにーっと笑って、背伸びをして更に位置を高くした。意地悪だ。こう言う幼い仕草をするときの整備士は決まっていじわるっこの顔をしている。
「ぅぅぅぅっ」
とうとう整備士のジャージを片手で掴んでまで腕を伸ばし始めた。指先から足先までにかけてぴんと伸びている。花屋はこれで負けず嫌いなので整備士がいじわるっこの顔をして仕掛けると、たいてい乗る。そして負けず嫌いがたたって、ちょっとばかり視界が狭くなる。
「あは」
「な、にがっ、おもし、ろい、で、す…かっ!」
そろそろ助走をつけて跳んでやろうかと考えていると、整備士が笑うので花屋がうがっと吠える。
「ね、花屋さん。これってさ………まるで、抱き合ってるみたいだね。」
「へ、ぇっ」
つい、ともう片方の指先で背中をなぞられて花屋の口からふやけた声が漏れる。
「ち、ち、ちぁ」
「……ふふ、ねぇ、ほんとにだきしめちゃう?」
耳元でハスキーに囁かれて、花屋の体がぼわりと熱くなった。跳ねる。ぞ、ぞ、ぞ、と全身がむずかゆくなって、心臓の辺りからきゅぅと甘い音が漏れた。
ジャージを掴んでいた手を肘から伸ばして足をもつらせながら後ろずさった。まるで小動物の威嚇である。
「な、な、なん、なっ」
とうとう言葉も忘れた。意味のない吃音をこぼしては、ぱくぱくと口を開いては閉じる。既に花屋のキャパシティはオーバーしていた。
「花屋さんにはつい、いじわるしちゃうね。でも意地悪できらわれたくないからすぐ負けちゃう。」
首裏まで熱かった。顔どころか全身が茹っているに違いない、とこれ以上醜態を晒したくなくて俯いたので整備士がどんな顔をしているかはわからなかった。
なぞられた背も、伸ばして触れ合ってしまった指先も、ぜんぶ、あつい。
半ば押し付けるみたいに手に乗せられた整備士の“お土産”にかろうじて「ありがとうございます」だけは絞り出したものの顔は当分上げられそうになかった。
ダメ押しみたいに頭を撫でないでほしかった。もうすでに沸騰寸前なのだ。半ば逆ギレみたいな思いもあった。
「それじゃあまたね。」
「は、はい……」
軟体動物だったらきっともう溶けちゃう。
わかってても分かってなくても狡くて仕方ない、と心の中で叫んだ。
足音が遠ざかっていってようやく湯気が出た体が落ち着いて、熱気を吐き出すようにため息をつく。もうすぐ冬が訪れるはずなのに全然涼しくない。
今度は自分自身を落ち着かせるために、ゆっくりと息を吐いた。
「花屋さん整備士さんのこと“こい”してるの?」
「んぐはえ!?」
「んぐはえ?」
吐いたはずの息がおかしなところでつっかかった。花屋は驚きのあまりおかしな鳴き声をあげた。
ぴょーんと転がるように飛び出てきたのはロップだった。今度はパイプ管ではなくて、トタンの橋がかかった下からひょこんと飛び上がってきた。
少し前に離れたはずの幼い声はひどく確信をついていた。整備士がもうとっくに離れていて、助かった。これ以上醜態を晒すわけにはいかないのだ。
「ろ、ろ、ろっぷちゃん!どうしたの!?」
誤魔化すように叫んだ声はボリューム調整がおかしくて随分と大きかった。不思議そうに首を傾げながらも指摘しなかったのはロップの優しさだろう。優しさが若干痛かった。
「あのね、あのね、もう少しでヒツジとカラスとの約束の時間だったの忘れててね。慌てて慌てて戻ってきたの、大広間のとこで待ち合わせなの。」
「そ、そっか。そうだったんだね。」
態とらしい頷き。綺麗なものだけ詰め込んで出来ているようなまんまるの瞳が花屋をじっと見つめた。
「花屋さんは整備士さんに“こい”してるの?」
「んぐっ。」
今度はかろうじて人の言葉を保てた、と思う。
唐突でありながら1番の確信をついた言葉だった。これならいっそ「んぐはえ」なる鳴き声に突っ込まれた方がマシだったかもしれない。
けれど相手がロップなだけに、返答に困ってしまう。
そこに含まれているのは下賎な探りなんかではなく、ただ純粋に思ったことを問いかけているだけだった。
「……どうしてそんなこと?」
ひとまず、少しばかり遠回りさせてもらう事を選んだ。
唐突なそれは、絵本などでも恋愛が添え物になった程度の順当な冒険譚を好むロップにしては珍しい質問だとも思ったからだ。
「んと、んっと、さっきね。らせんかべの本棚で見つけた本にね、かいてたの。“こい”ってずっといっしょがうれしくて、ずっととなりがここちよくて、ずっととろりとしたおもいで。それで、それで、あったかくて幸福でとろけるようなしびれのことなんだよって。」
「……うん。」
「花屋さん、そういうふうにみえたの。」
その目に満ちた無垢さに、いっそう花屋の何かが炭酸プールに浸かったみたいにしゅわしゅわする。くすぐったくて、いたいくらいだった。
「わたし、わたしね。花屋さんのお顔がね、あったかくてこうふくでとろけてるみたいな可愛いお顔してたからそうなのかなって。それが“こいしてる”ならすてきだなぁって思ったの。」
常ならばはきはきと喋るロップの言葉がちょっと拙くて辿々しいのは花屋が困ったように眉を下げたからだ。嫌な質問をしちゃったのかなって悲しくなった。
“こい”を詩集に書いてた“そういうもの”としてしか知らないロップにとって、それは。見たことない甘くて綺麗で素敵なもの……はじめて“花”を見た時ときっと同じようなものなのだと、思っていた。
ロップはきらきらしているものは素敵だと思っている。花屋の“こいしてる”はロップにとって素敵でかわいい形をしていた。
「そ、っかぁ。……ほんと?素敵に見えた?」
「!うん、うん!とってもとっても素敵なものなんだなぁっておもったの!私も、私もね、花屋さんみたいなこいがいいなぁって。」
やはりロップの言葉は少し文脈や単語の取り方がおかしかった。
けれど眩しいくらい清らかなその言葉に、花屋は泣きそうな顔で嬉しそうに微笑んだ。
いつだってロップは純粋に、無垢なまでに爛漫と言葉を紡ぐ。
花屋が“たいしたことのない”と思っている花に目を輝かせた時も、そうだった。
けして。けして。自分では素敵とはたいそう思えない自分の“こい”を。はじめて素敵だと彼女に伝えたのも。やはりそれはロップだった。
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