/6 ベコニア・センパフローレンス あなたは親切
〔膝を折って視線を同じとする
背伸びをして視線を同じとする
大丈夫 結局どっちもおんなじさ〕
狭間の街には十余数の住人がいる。
捨てられた谷の底にしてはそれなりに多く、街と呼ぶにはそれなりに少ない人数の人々はガラクタを積んだそこで身を寄せ合って生きていた。
街には比較的に成熟した形をした住人が多いので、いっそうと幼い形をした住人は一際目についた。彼女たちが小動物のように賑やかしくも爛漫に駆け回っているのも理由のひとつではある。
最も幼い住人である2桁の年齢になったばかりの、正しく子供。いつだって3人で固まっているので、揶揄った兄役が呼んだ“ちみっこ組”だなんていう名称はほとんどの住人の周知になった。
3人は3人で一緒にいることが周知となった頃には、子供特有の渾名で呼び合っていた。国と比べればてんで狭い街は複雑に組み合っていて、子供たちの冒険にはいっとう向いていた。防衛と対策とで週替わりで入れ替わる街の様相もあって、探検だ、冒険だ、と賑やかしく遊んでいた。
やはり冒険や探検にかかせないのはリュックに詰めた秘密道具に、知恵と勇気、それからなんといっても“コードネーム”!
はねるみみにも似たツインテールを無邪気に揺らす少女は“ロップ”。いちばんお姉さんでちょっとおてんば。
びろうどの寝癖だらけの髪に隠れた半分開いた瞳の少年が“カラス”。マイペースだけど心配性、甘え下手。
夜空の羊のような髪が自慢のしっかり者の少年は“ヒツジ”。理知的だけどちょっぴりぬけた末っ子体質の末っ子。
3人が自分のことを“そう”名乗りだしたので、街の住人たちは3人のことを“そう”呼んだ。
いつも一緒で、街の生活居住場所も一緒。秘密基地みたいな部屋で3人丸まって寝てるなんていつものこと。寧ろばらばらだとはぐれた感覚に陥って、どうしたの?って聞かれるようなくらいには一緒にいる。
仲がいい姉弟のようで、友人のようで、家族のようで、仲間のようで、その実名前をつけるに困ってしまうほど大切。
ただやっぱり同一個体で同一思想を持ち合わせている関係ではない。もちろん。珍しくもなく意見が噛み合わないことはある。そうして発展したちいさくおおきないさかいを喧嘩という。
普段の仲が良ければ良いほど。
普段の距離が近ければ近いほど。
こじれると折り合いの付け方がわからなくなる、と言うのは仕方ないことだ。
狭間の街は上層、中層、下層とおおまかに分けられる。
上層は主に分厚い機材が組み立てられている。国からの干渉に対抗するためのハリボテたちと、空から定期的に降ってくる雨と雪から街を守るための天井機材。この上層がいっとう複雑で、かつ、入れ替えが激しい。なにせ爛雨も埃雪もあらゆる物質を徐々にさびれさせていくので、忙しない時には週に一度はパーツたちの組み立て直しだ。
中層は街の住人たちの居住区が密集している。開けた印象だ。ぐるりと蒸気機関や廃材建造を無秩序に積み上げたような居住区がドーナツ状に囲っている。灰色とパイプで形取った廃れた歌劇場にも似ている。上層にまで吹き抜けた一箇所にぽかりと空いた窓からは微かながらも空が目視でき、あちらこちらにと線を伝って吊られたランプのお陰で閉塞感を与えることなく明るかった。
下層は工場街、といえばいいのだろうが。街の中に街というのもおかしな話なので工場区画。上層からパイプを伝って運ばれる雨と雪の排出装置や、街のエネルギーを管理するマテリアルコンピュータ、谷の底でありながら快適な環境を提供するための寒暖調整装置などが一手に集まっている。
一番広く、そして賑わっているのはやはり中層だ。
上層はいっとう静かで、下層はモーターの音が響いている。
やはり人気がなく目につかない場所といえば、下層だろう。専門的な機材が詰め込まれた下層は(人の出入りを禁じているわけではないのだけれど)専門でなければ何ひとつと面白くもなく、やはり響くモーターのおんおんとした音や時折煙を吐くパイプなどもあってちょっとばかし不気味だ。
空を見上げればいつだって見える雲に似た鉛色の髪が薄暗い下層を彷徨いていた。視線は低く、足音は酷く抑えられていたので音に簡単に紛れている。
慎重深く特に低い場所を凝らしていたマラカイトが一点で止まったかと思うとぱちりと瞬いて、それから柔らかくまなじりを下げた。
機材と建材の設置の都合上空いてしまっただけの隙間にまんまるとしたふわふわがちんまりと挟まっていた。わざとらしさの欠片もなく、本当に人目がつかない場所に隠れる辺りが“らしい”が、厄介でもあった。
前にしゃがみ込むとぴくりとはねたが、そのまま更に丸まった。わかりやすい「いまははなしたくない」モードらしい。
三角座りで膝に顔を埋めてしまっているせいで、まるでチョコレートブラウンの羊とかポメラニアンさながらのふわふわした髪の間からのぞいだつむじをつっついた。
「ひーつーじ。」
軽い声でつい、つい、と更につっつく。しばらく沈黙を保っていたふわふわのかたまりは、何度もつむじを押されたことに耐えかねてか、それとも往来の生真面目が罪悪感でも囁いたのか膝に顔を埋めたままではあったがぼそぼそと呟きをかえした。
「…………………………なに。にいさん。」
先に言っておくと、この鉛色の髪をした男はふわふわの塊の血のつながった兄ではない。「にいさん」という呼び名は、ただしく呼び名だ。
年こそ2つの国で年齢が共通した成人(18歳のこと、これ以降法的婚姻契約や酒飲が認められる)に達したばかりの青年は、それこそ青年よりも年上がいる狭間の街の中でもいちばんくらいには古株だった。
別に狭間の街には明確な序列があるわけでも、誰が偉いかなど階級が決められている訳ではない。
ただ青年には長く谷の底に住み続けていられるだけの知識があったし、妙に面倒見がいいので、いつからか青年は街の“兄役”として慕われるようになった。
「ヒツジのかわいくてかっこいい顔は見せてくれないのかい。このままじゃ君の自慢の髪しか見えないよ。」
「じゃ、べつにいいっ。」
「えぇー?オレは君の金糸雀みたいな目もみたいし、ほっぺもにもにしたいなぁ。」
つむじをつついていた指がぱっと開いて、今度は手のひらでわしゃわしゃと撫で回した。雑な手つきでふわふわがふくらんでぼさぼさになりかけたあたりで「もうっ」と嫌がって顔を上げて、手のひらを払った。
「僕の髪、ぼさぼさになっちゃったよっ」
「ごめん、ごめん。」
兄役が気障ったらしく口にした通り金糸雀の羽に似た瞳はまなじりにかけてあからんで、まろいほほも膨らんでいた。「不満です」と表したへの字の口。べちょりと濡れた膝部分と皺でくしゃくしゃになった袖、掠れた声、ずいぶんと泣いたらしい。
今度は丁寧な手つきでヒツジの頭を撫でる。ぼわりと膨らんでしまった髪を整えながら、残っていた涙がぽろりと落ちたのを指先で拭った。
「ひーつじ。」
「なにっ。」
「ごめんね。」
「………」
兄役の言葉選びが気に食わなかったのがすぐわかった。への字がそろそろ山の形になりそうだったので、頬をむにりとつまむ。
「こら、そんなにしたら皺になるよ。」
「ぅぅぅっ……」
「ヒツジ。あのね、オレも、リーダーも。もうすぐ冬だから、冬備えの準備が忙しいからってしっかりものの君にずいぶん甘えて、頼った。ごめんね。」
俯いたヒツジがそのまま首を振る。そうじゃない、そうじゃないのだと全身で訴えかける。
「……あさごはん、遅れて、ごめんっ…」
ぐじゅりと潤んだ目をごしごし擦るので、兄役はまた「こーら」と静止の言葉をかけた。
ひどく深刻な様子でとんでもない失敗をした!と言わんばかりの態度に眉を下げる。困った、と頬をかく。
「ヒツジ、あのね、オレもリーダーも怒ってないよ。寧ろ申し訳ないって思って謝らないといけないのはオレたちなんだよ。手伝うっていってくれる君に頼りまくっちゃったんだよね、なにせヒツジってばちょう助かっちゃうから。」
「でも、でもっ」
「うん。料理人さんから任されてたからどうしようって思っちゃったんだよね。それで、カラスにおこっちゃったんだよね。まぁ火を扱ってる時に寝ちゃったのは危ないからね。でもロップにもあたっちゃったからいっぱいいっぱいになっちゃったんだよね。」
「ぐす、ぅ、ぅう…っずずっ、」
ひとつひとつと解くように言葉を紡ぐと、ヒツジは返事の代わりに鼻を啜った。
「あの、ねっ。」
「うん。」
数回しゃくり上げた後、嗚咽を交えながら切り出した言葉を兄役は急かすことなく相槌だけを打った。
「か、カラスがね、ひ、火をかけてるおなべにいれちゃだめなの、いれちゃったの、で、でもね、でも、わざとじゃないのっ。」
「うん。」
「ね、ねぼけててっ。ねむちゃっててっ。で、でも、ばくはつしちゃったからっ、ど、どなってもねむちゃっててっ。ロップにもね、う、うるさいってや、やつあたりしてっ。う、う、う。」
「うん。」
ここでいつも一緒にいる2人への文句ではなく、自虐的な言葉ばかり吐くあたり、ヒツジはとうとうと怒るのに向いていないなぁ、と思う。改めて言葉にしたことで後悔に襲われたらしいヒツジが、押さえ込むように泣きじゃくった。
「き、きら、きらわれちゃ、ったら、ど、どう、どうしようっ」
ヒツジが怒るのは実のところ当然で、まっとうな大人からすれば仕方ないことで、寧ろ後悔の念に沈んでいるのはもう1人の方だろうに。自己完結した結論に怯えるヒツジの脇の下に手を突っ込んだ兄役は慣れた様子でそのまま抱き上げた。
高い高いをされる子供みたいに持ち上げられて、ぎょっとしたヒツジは泣いていたことも忘れて「わぁ!?」と驚く。
同い年の中でもいっとう背が高い兄役と、そもそも子供で背の低いヒツジとでは体格差が有り余っている。じたばたと足を動かしてもびくともしない。
「に、にいさんっ」
「う、ヒツジ、君、重くなったね。あんまり暴れると落としちゃいそう。」
そう言う癖に持ち上げる腕はぷるぷると震えた様子もない。わっとひつじが「僕はもう10歳だよっ!」と叫ぶが涼しい顔をする。
「なんだ、まだ10歳か。でもおっきくなったね。」
「離してよぅっ」
「えーやだ、どうせもっと大きくなったらオレに抱き上げさせてくれなくなるんだから今くらいいいだろ?」
よいしょ、とわざとらしく掛け声をして抱き上げたヒツジの向きを変えたかと思うと床に座り込んだ。もっと小さい子供かぬいぐるみのように足の間に置かれて座らされる。ヒツジは腑に落ちない顔をしたが腹の前に回った腕が離してくれないので、仕方なく兄役を背もたれにした。
「さっきも言ったけどさ、いくら寝ぼけてて、眠っちゃったとはいえ火を扱ってるからカラスも悪いよ。ただ止めようとしたロップに八つ当たりしたのはヒツジが悪いね。」
ここで、兄役はヒツジの言葉を挟ませる隙を作らずに次の言葉を紡いだ。折角切り替えさせた頭がまた考え込みすぎないようにだ。
「ただロップが止めようとするくらい、ロップに八つ当たりしちゃうくらい、どうして怒ったのかは気になるね。」
その後で自分が1番悪いと断頭台の上に立っているような面持ちで思い込むヒツジに、兄役は恐らく根底にある確信をついた。
正直、カラスが寝ぼけて“やらかす”ことは珍しくない。カラスの体質が関係しているのだが、生まれた時から夜行性、といえばわかりやすいだろうか。真実、もっと複雑な因果が絡んでいるのだがひとまずはそれだけ。
兎角、突然と眠って道に落ちていることなんてざらだし、顔面からスープに顔を突っ込んだことも聞かれればすぐに返せるくらいにはよくあることだ。ただそれを笑って、怒って、でも仕方ないなぁと言える間柄というだけ。
怪我はしなかったが軽い爆発を引き起こしてしまったのは初めてだが、危ないことには変わりない。だからヒツジが怒るのは当然で、いつものパターンならヒツジが怒って、カラスが謝って、ロップが間を取り持ってそれで終わりのはずだ。
ただヒツジが怒って、カラスが謝っても治らなくて、ロップが間を取り持っても八つ当たりするくらいには気に入らない“何か”があった。
「だ、だ、ってっ。」
言い訳ぽくも遠回りな始まりだった。もぞもぞと指先を遊ばせながらぷくと頬を膨らませる。
「昨日カラスが眠れなかったのにっ、僕のこと起こさなかったっ!」
「……うん?」
まごうことなく拗ねた声で発せられた言葉に、兄役はぱちぱちと瞬きを繰り返して、それから首を傾げた。思ってたのと違う。
「あー……うん、うん…エーと。昨日……カラス眠れなかったの。」
「うんっ、カラスが寝れないときは、いっしょに夜ふかしする約束なのにっ。」
「あー、なるほどね………ア、もしかしてロップは起きてたのかな。そういえば寝坊したとかなんとか、言ってたもんね。」
こくり、と頷いたヒツジに兄役は目元を覆って天を見上げた。心情を表すならば「ワ〜この子たちすごいカワイイ〜」。本人たちは真剣なのは分かった上で、やはり悶えた。
思いもしなかった。まさか喧嘩の根底が末っ子らしい拗ねた感情だったとは。
「僕達の、約束なのにっ。カラスが寝れない日はみんなでいっしょに、夜ふかしするのっ。そのためにおかしも用意してたのにっ…!」
「おぉ…」
彼にとっては珍しいすっとぼけた声。彼への妙な反骨心をもつリーダーならば指を刺して笑うだろう。
「君はたちは本当に優しいねぇ。」
ようやくと口からまろび出たのは噛み締めるような関心だった。
狭間の街は国に捨てられたものと国を捨てたものが住み着く最終地点だ。捨てるにはそれ相応の理由があって、捨てられるにはそれ相応の理由があった。
それを鬱陶しがるのではなくて、見ない方がよっぽど楽だからと寝たふりをするのではなくて、どうして見せてくれなかったと憤る。面倒なくらい厄介で、重たいくらいには子供っぽくて、その実愛している。
「しくないっ」
「優しいよ。いや、想いやりが深い、というべきかな。」
ヒツジの否定を優しくもばっさりと兄役は否定した。「はぁ〜」と息を吐いてまさしくぬいぐるみのように抱きしめた。まるで猫を吸う狂人の如き様である。
「心の汚れたオレには眩しくてたまらないよ。」
「にいさんも優しいよっ。」
兄役の卑下の言葉に間髪入れず言葉を挟むと、照れた様子もなく「あはは」と笑ってそれから「ありがと」と頷いた。
「だけどね、ヒツジ。君の悪いところは自分の中で溜め込んじゃうところかな。オレだって君からこうやって、言葉で伝えてもらわなきゃ、どうして悲しかったのか全部わからないよ。」
「……にいさんも?」
飄々としていつだって訳知り顔で、街の兄役の看板に相応しいみたいな青年が言うものだからついつい問い返してしまう。兄役はヒツジからの純粋なまでに真っ直ぐな謎の信用に噴き出した。
「そりゃあ、オレも妖精とかじゃないからね。だから。」
「わーっ!?」
「よーしゃよしゃよしゃよしゃ!」
ここで1番雑な手つきで折角整え直した髪をもう一度撫で回した。ふくらむを通り越して爆発してしまった髪に、ヒツジはたまらず兄役の元から飛び出した。
「もうっ、もうっ、なにするのさっ。」
「いやぁ、ヒツジの髪ってばいつもふわふわだから撫で回したくなってたまらないんだよね。」
「僕の髪が魅力的なのは知ってるよっ」
「おっと、これは正真正銘オレたちが育てた自信たっぷりのかわいこちゃんだね。」
あんまりにも自信たっぷりに返されるので、それは確かにと後方彼氏ヅラでうんうんと頷く。事実、ヒツジの空気を含んだふわふわもふもふ手触り良好の髪はとても魅力的だ。抗えない。特に兄役は褒めるなどを口実にしてよく頭を撫でているので反論の余地もなかった。
逃げ出すように立ち上がってしまったヒツジはそれからおろりと足元を彷徨わせた。人目につかない場所で丸まって、兄役に抱き上げられて座らされて、そうして自分の意志で立ってしまったので居心地が悪くなってしまった。
泣き止んでうずくまるのをやめてしまったので、あとは決められてしまったもの。こういうことを自然にさせるのが兄役だった。
「ひーつーじ。」
自分を見つけた時のような軽い声。
「ちゃーんと、自分が思ったことを話しておいで。」
強制するそれではなく、背中をとんと押されたような心地。こくりと頷いて、てててっと走っていった。その後ろ姿を見送った兄役は壁にもたれかかって「やぁっぱ、かわい〜」などと独りごちた。
さて、駆け出したヒツジは考えなしに向かった訳ではない。付き合いが長く、サンコイチにされるくらいには一緒にいるので大体の候補は絞って頭に浮かんでいた。
やはりといえば、やはり。街の皆から先生、教授と慕われる老人のもとを訪れれば目元を同じように赤くさせ、びろうどの髪が左側だけへたれさせたカラスがいた。目が合うと居心地とばつが悪そうに逸らされてから、ちらりと目線が向けられる。
「教授さんっ、カラスつれてきますっ」
気難しそうにすら見える老人がお茶目な仕草でOKのハンドサインを返したので、無理やり手を引っ張った。
「ひ、ひつじぃ……」
衝動のままカラスの手を引っ張って場所を移動したものの、何から話せばいいかとだんまりこんでしまったヒツジの様子を怒っていると捉えらしい。カラスはひどく情けない声を出した。腫れぼったい瞼のせいでいつも半開きの瞳がいっそう眠たげだ。
「あの…ごめん…朝は………おれ…ねむたくて……ちゃんと、みてなかった…」
「…僕もっ、言いすぎた………でもっ、やだった!」
「ぅ……」
「なんでっ、昨日寝れなかったくせに僕のこと起こさなかったんだよっ」
「えっ!?」
兄役と同じように、そちらで怒っているとは思っていなかったカラスが目を見開いた。その反応が気に入らなかったヒツジの頬袋が更に膨らむ。
「ロップのことは起こしたくせにっ」
「え、え、えっと。ろ…ロップは偶々……おきた…から…」
「カラスが寝れないときはみんなでおきてるって約束だろっ」
「で、でも…でも…ヒツジ最近いそがしい…から…」
「でも起こして欲しかったっ!」
喧嘩というよりも半ば駄々に近かった。ヒツジはいつもしっかり者なのだけれど、こういうところは1番末っ子みたいだった。
「いつもそうじゃないくせに変なとこ気ーつかうのやめろよっ、でも怒鳴っちゃってごめんっ」
「うぇっ……う、うん…おれも……ごめん…」
勢いでもう一度謝ったヒツジに押されて、狼狽えながらもカラスもぺこんと頭を下げた。顔を上げるとばっちりと目があって、今度はどちらも逸らさないのでなんだか気恥ずかしくなってしまう。今更にカァッと顔を赤くさせたヒツジは特に意味なく「もう!」と鳴き声みたいな声を出した。
「……ぇへ、ヒツジ…こんどおれが寝れなかった時は…一緒に、夜ふかししてね…」
「じゃあ今度は起こせよっ、おかしだって用意してたんだぞっ。」
「うん。……じゃー、そのためにも…一緒にロップのとこ…あやまりに、いこ。」
「いこっ」
ひとりぶん足りない隙間を埋めなければ安心して夜を迎えられないのだと、手を繋いできっとリーダーの元にいるのだろうロップの元へと駆け出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます