/1 センニチコウ 不朽


〔どうか 果てることなく続いてくれ〕



_____ある日世界は退廃たいはいした。


わかりやすく猶予のある予兆に翻弄されていたばかりの人間たちは突然と世界に見捨てられた。大地は唸り、海は猛り、山々は怒りの声をあげ、空は爛れた色を落とした。

縋りついていた積み上げた文明も、輝かしき文化も、人間たちの盾にはなってくれなかった。

あっと言う間にそうして世界は滅んだらしい。

神様というものがいたならば、きっともういないだろう。


塗りつぶされてのっぺりとした大陸に唯一のこされた彼/彼女は、只人たちと共にガラクタみたいな全てをかき集めた。長らくと、もはや人とは呼べなくなるほどの時間が経って彼/彼女は奇跡じみた祝福を手に入れた。

されど、かつてをちりぢりになって演じることしか出来ないまま。いつしか再び平和を気取った国が出来上がった。


そうして今日も、退廃した世界の続きを終わらないようにと祈っている。その祈りは結局安寧を産まないのだと知っていながら。





_____世界は未だ退廃している

“そう”願われて永遠に出会うことのなかった2つの国は出会ってしまった。運命の悪戯か大地の形を著しく変貌させた星の震えは、地平線の向こう側に実はあったらしい国同士を巡り合わせた。


生きると言う行為はどれほど素晴らしく、どれほど清廉であろうとも消費される行いを免れない。

故に、2つの国は最初から決められたかのように争いを始めた。


争いは100年以上に渡った。

多くの血が流れた。

多くの命が奪われた。

多くの悲劇がありふれた。

100年以上に渡った戦争はそうしてある日、流星のように降って沸いた和平を迎えた。


言葉だけで見れば勝利も敗北もない理想的な結末といえた。しかしそれは甘ったるい“仲直り”に似た都合の良さを感じさせた。

なにせ現実的な終戦はめでたしめでたしの一言では終わらない。めでたしめでたしの、その後にのこされたものは?


亡くなった戦士や民間人の遺体、崩れた建物、突き刺さり今なお残る兵器、困窮する物資!平和こそは不朽の恩恵だとはよく言ったものだ、廃れた大地に種を蒔いたところで腐るだけだとわからないのか?

例え戦火が鎮まろうと遺されたものは残されたまま。戦時中は気にもされず蔓延したその程度が大きな問題になったのはすぐのことだった。


ところで。戦時中はいらないものたちの処分方法は非常に簡単だった。

それなりに厄介な経緯を経てではあるが、2カ国は退廃した世界で戦争に興じることができる程には近しい、旧時代退廃前ならば隣国と呼ばれる関係性にあった。しかしそれは地図に描かれているような地続きのものではない。

2カ国の間には小谷のような窪地が存在した。裂け目、谷と言ってもいい。

スノードームを隣り合わせたみたいな2カ国の間は同じ高さの大地が続いておらず、両国の行き来はいつからか架けられていた橋を渡って行われる。橋下を見下ろせば灰色を呑み込んでいく暗がりがいつだって不気味に口を開いていた。


国土から外れた谷の底はどちらかどころかどれの所有物ではなかったのも理由のひとつかもしれない。誰のものでもなく、誰も責任能力がなく、あからさまに良い“空き場所”があるのでどちらの国も当たり前のようにその窪地にへと廃棄品を投げ込み捨てた。適切な処分なんかより知らないふりしてほったらかす方が楽なのご存じない?


昨今の問題のひとつはこれだ。

100年以上と続いた戦時中、いつからか暗黙の了解とばかりに“廃棄場”と化した谷の底には兵器などすら含み溜め込まれた廃棄物たちが累積した。

それだけであれば時間と金と人材をかけて正しく捨てていけばよかったかもしれない。

しかしそこに住み着いてしまったふたつ目の問題があった。


国から捨てられて国を捨てた者。

国を捨てて国から捨てられた者。

そんなものは戦時中から多数と存在する。

廃棄場や捨て場などと称された谷の底_____捨てて捨てられた彼彼女たちの終着点もまた、“そこ”だった。

骸と骨が積み上がるだけだったはずのそこにあろうことか、何処かの誰かが扇動したのか、100年以上と残り続けたガラクタたちを棲家にして街を作り出した。

皮肉を込めたのか、事実を語ったのか、それらは自分達を“狭間はざままち”と呼称した。


100年以上に渡る2つの国の争いは流星のように降って沸いた和平を迎えた。

そうしてそれから、9年の月日が流れた。9年経った現在に至って狭間の街は2カ国からの干渉を拒み続け街を気取っている。


そのはじまりは最早誰も覚えてはいない。

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