第122話

 アイリスが帰って直ぐに、皆が夕食に集まって来る。


今日はミーナとエミリーの2人が、『ゾンビダンジョン』でレイスから金貨5枚を獲得し、2人で分けたと喜んでいた。


浴室での訓練の際、『誰か来たのですか?』とサリーに聴かれる。


理由を尋ねると、脱衣所に金色の髪の毛が落ちていたからだと言う。


サリーは奇麗好きだから、家の掃除は欠かさない。


広い家を、暇なミウと手分けして掃除している。


アイリスが遊びに来て、剣の稽古をした後に汗を流したと伝えると、腰の動きが若干激しくなった。



 深夜の大森林探索において、ドラゴンゾンビを倒した後、探索を拡げた先で、新たな水辺を見つける。


それ程大きくはない泉だが、水が澄んでいて、水面みなもが月光で輝いている。


【魔物図鑑】が反応し、ウンディーネが催促してくる。


直ぐに呼び出してやり、ちょうど良い大木の下で、服を着たまま抱いてやる。


3回放出した後、服を整えて、ソルジャーラミアとゴブリンプリンセス、スケルトンレディも呼んでやり、水遊びをさせてやる。


レッドスライムを護衛に置いて、俺はその間狩りをしていた。


探索の最後に『土の迷宮』にも寄って、今は何に使うのかよく分らない、土の魔石を集める。


3階層は経験値的にも美味しい場所なので、当然、個室を全部開ける。


出現する宝箱の数はランダムみたいで、今回は23個しか開けられず、あとは全て大地の乙女と戦った。


長剣スキルがGになり、満足して帰宅する。


湯を浴びて珈琲を飲んでいると、支度を整えたエレナさんがやって来て、俺に言う。


「無料の盗賊退治の依頼が来てるわよ」


そう言いながら差し出された依頼書には、初めて見る村の名が記されている。


ゴランの町へ行く途中に在る村だった。


「既に被害が出てるみたいだから、なるべく早めに行ってあげて」


「分りました」


その足で、当該の村へと急いだ。



 「よく来てくれました。

早速ですが、状況をお知らせします」


中年男性の村長に急かされ、その家でざっと話を聴く。


盗賊は10人。


これまで2回被害に遭い、偶々ゼルフィードへ商売に行った村人が、ギルドの張り紙を目にしたそうだ。


被害者は28人で、そのほとんどが働き盛りの男性。


これ以上の被害が出ると、税を納めるのが難しくなるそうだ。


早速、そいつらが現れるという森の方に向かう。


『マッピング』上に、白い点が固まっている場所が直ぐに現れた。


盗賊というのは何故か洞窟が好きなようで、広場にテントを張っているのを見た事がない。


そんなに深くない洞窟に入ると、10人の盗賊が食事をしていた。


俺を見て、慌てて武器を取るが、立ち上がるまでに2人の首を刎ね、襲って来た4人を切り倒す。


残りの4人の内、2人が奥に行き、残り2人が同時に攻めて来る。


長剣の一振りで2人の首を刎ねると、男の声がした。


「武器を捨てろ。

こいつを殺すぞ?」


そちらに視線を遣ると、男2人が其々1人ずつ女性を連れている。


その首に、剣やナイフを突きつけている。


「好きにしろ。

その間に、俺がお前達の首を刎ねる」


「なっ!

人質の命がどうなっても良いのか!?」


「別に構わない。

俺にとっての優先順位は、その女性達より俺の命の方が高い。

大体、ここで俺が武器を捨てても、村の状況は良くならない。

お前達を殲滅せんめつする方が先だ。

依頼内容は盗賊の討伐であって、人質の救出ではないしな」


そう言いつつ、男に近寄って、その胸に長剣を突き刺す。


「がはっ」


俺と女性のどちらに手を出すか迷った男は、呆気なく死んだ。


「た、助けてくれ。

人質は解放する。

お宝も全部差し出すから」


最後に残った1人が女性を放し、俺に命乞いをした。


その首を、躊躇なく刎ねる。


レッドスライムを呼んで、死体を処理させている間に、女性達と話をする。


「人質は君達だけか?」


「・・はい」


「そうです」


「少しここで待っていてくれ」


奥に行き、金色の点を探す。


見つけたその場所には、全部で8万6000ゴールドの他、小麦や野菜などの食料しかなかった。


それらを回収し、女性達の下に戻る。


「村に帰る前に、湯浴みをしていきたいか?」


何日も風呂に入ってないみたいだから、そう尋ねる。


「え?

ここでですか?」


「そうだ。

入りたいなら準備してやる」


「お願いします」


「私も」


2人とも即答した。


【アイテムボックス】から、念のために用意しておいた真鍮製のバスタブと、石鹸、シャンプーを取り出す。


そこに『給水』で水を張り、手を入れて、『火魔法』でお湯に変える。


「俺は入り口で待っているから、終わったら出て来てくれ」


「ここに居てください」


「別に見られても平気です」


そう言いながら、汚れた服を脱ぐ女性達。


嬉しそうに湯を浴びるが、やはり1度では足りない。


全部で4度湯を張り替え、汚れた服は一旦【アイテムボックス】に入れて洗濯してやった。


その間に、女性達と少し話をした。


見殺しにしようとした事を軽く詫びたが、『あの場合は仕方ないですよ』、『そうそう。武器を捨てたところで、私達が助かる訳じゃないしね』と笑ってスルーしてくれた。


旦那さんが殺され、ここに連れて来られて、それなりに酷い目に遭っただろうに、彼女達は逞しかった。


すっかり身奇麗になった女性達を連れ、村に帰る。


その途中で、2人に金貨4枚ずつ渡してやった。


『村の者には内緒な』


そう言うと、それまで明るかった2人が涙ぐむ。


『慰謝料だと思えば良い』


その言葉に、うんうんと頷いた2人は、それを大事そうに終った。


村長に依頼の完了を告げ、盗賊から回収した小麦と野菜を返してやる。


村を出ようとしたその時、1人の子供に目が行く。


まだ10歳くらいの女の子だ。


道端に座って空を見ている。


気になって声をかけると、その子のお腹の音が鳴る。


「腹が減っているのか?」


「・・はい」


「両親は?」


「いません。

盗賊に殺されました」


「誰も世話をしてくれないのか?」


「時々、食べ物を分けてくれる人はいます」


「・・・。

君一人で暮らしてるの?」


「そうです。

幸い、家だけは残ってるので」


「もし良かったら、俺が別の町に連れて行ってあげるけど、どうする?

そこでは衣食住に不安なく暮らせるよ?」


「お兄さんは人買いですか?」


「そう見えるかな?」


「・・見えません」


「どうする?

無理強いはしないよ?」


「・・連れて行ってください」


村長宅に戻って話をつけると、俺はその子をゼルフィードまで抱えて走った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

〇〇の物語 下手の横好き @Hetanoyokozuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ