第121話

 「随分と堅牢な家を建てたんだな。

窓にガラスさえ用いないなんて、まるで要塞だ」


門の所でそう口にしたアイリスは、ニヤッと笑ってこう続ける。


「稽古に付き合え」


「構いませんけど、少しは上達したんですか?」


「むっ。

・・私に見合う訓練相手がいないんだよ」


「兵士を鍛えれば良いじゃありませんか」


「人には天分というものがある。

凡人が、厳しい訓練を続けて最強になるなんてことは有り得ない。

そんな事が可能なら、世界中が強者で溢れてるよ。

・・まあ、ある程度までは強くなるけどな」


「直ぐにやりますか?」


「頼む。

身体が鈍っていかん」


庭と呼ぶにはいささか小さい空き地で、俺が出した訓練用の剣をアイリスにも渡す。


軽く準備運動をした彼女は、剣を構えると、顔つきを変える。


「いくぞ」


「何時でもどうぞ」


魔力循環で肉体を更に強化したアイリスが、連続で鋭い斬撃を放ってくる。


俺は受け身に専念し、思う存分彼女に剣を振らせてやった。


30分経ち、息が切れ始めたアイリスに回復魔法を掛けてやり、今度はこちらから少し攻める。


彼女に怪我をさせないように気を配りながら、向こうが反応できるぎりぎりの速度で剣を振る。


俺の力に押されて、剣を吹き飛ばされそうになりながら、それでも必死に食らいついてくる。


青い瞳に宿る闘志が美しい。


そんな彼女の姿を見ながら、もう30分程、稽古を続けた。



 「有り難う。

随分と身体に切れが戻った気がする」


「すっきりした顔になってますね」


「騎士団だと、私が思い切り剣を振れる相手がいないからな。

・・汗を流したいから、風呂を借りても良いか?」


美しい顔に玉の汗が浮かぶ彼女を家に招き入れ、自慢の浴室に案内する。


「・・何だこれ。

うちの大浴場より大きいぞ?」


彼女の希望で一緒に入ることになった俺に、呆れた顔を向けてくる。


「家を建てる際、最も拘った場所ですから。

・・洗濯しますので、衣類を預かります」


「君の『アイテムボックス』は、本当にでたらめだ」


以前、騎士団の彼女の部屋にある浴室を使った際、その機能を伝えてあるので、脱いだ服や下着を躊躇ためらいなく差し出してくる。


「今度もし大規模な遠征があった際は、是非君を連れて行きたい。

ギルドに依頼すれば良いか?」


身体に湯を掛けながら、そう尋ねてくる。


「暇だったら手伝いますから、ここに来て言ってくれれば大丈夫ですよ」


「相変わらず立派だな。

数々の女の愛液が染み込んで、黒光りしている」


浴槽に入ろうとした俺の物を見て、彼女がそう口にする。


「アイリスさんの身体に反応してますからね。

そこはスルーしてください」


「別に我慢しなくて良いぞ。

湯を浴びたらベッドに行くか?」


「いえ、今回は遠慮しておきます。

またの機会に」


「以前のように、否定しないんだな」


「まあ、アイリスさんのことは嫌いではないですし、戦いに真摯な姿には好感が持てるので・・」


「キスしても良いか?」


「そのくらいなら」


湯の中で、俺の腰にそっと跨ってきた彼女は、首に腕を絡めると、ゆっくりと唇を重ねてくる。


舌が割り込んで来て、恐る恐る俺の口内を舐めてくる。


彼女の硬く尖った胸の先端が、俺のそれと擦れ合う。


「ん、・・んん」


幾度となく唇を吸われ、彼女の腰がもぞもぞと動いて、俺の物を挟むような感じになる。


「・・こんなキスをしたら、我慢するのが難しい」


「なら魔力循環をしましょう。

それで発散できますよ?」


「分った。

やってみよう」


片腕を俺の首から外し、その手で恋人繋ぎをしながら、再度キスしてくる。


俺が絡め合う舌から流す魔力を、彼女が繋ぎ合う掌から戻す。


5分もせずに、彼女が大きく果てる。


嬌声を上げるために離された唇を、やや強引に塞ぎ、魔力を流し続ける。


何度もビクンビクンと腰を震わせ続けたアイリスは、やがてぐったりとして意識を手放した。



 「任務がなければ、私もここに住みたいくらいだ」


10分後、湯の中で抱き続けた彼女が目を覚ますなり、そう言ってくる。


「部屋は空いてますから、住みたくなったら何時でも歓迎しますよ?

5人いる妻達も、きっと喜んでくれます」


「何時の間に結婚したのだ?」


「つい最近です。

カイウンさんから聴いていなかったのですか?」


「ん?

彼に会ったのか?」


「ええ。

帝国が攻めて来た事を話した際に」


「ちょっと待て!

そんな事聴いてないぞ!?」


「因みに王都で国王にも会いました」


「!!!」


「それから俺、貴族ではないですけど、領主になったんですよ。

この町の隣、カコ村を含んだダセとゼオ、グルの町が俺の領地です。

あとニエの村も国王から直に貰いました」


「ほとんど帝国領じゃないか!

もしかして奪い取ったのか!?」


「そうです」


「・・たった1人でか?」


「はい」


「何故私に相談しなかった?」


「急いでいたし、余計な犠牲を出したくなかったんです」


「戦争であれば、兵が死ぬのは当たり前だ。

そして戦場は、彼らが名を上げる機会でもある。

己の実力を知り、更に鍛錬しようと心を改める場でもある。

甘やかすだけでは人は育たない」


「・・それでも俺は、大事な人には死んで欲しくない。

傷付いたり、身内が亡くなって悲しむ姿を目にしたくはない。

失った人は、もう二度と戻って来ないから」


「・・そういう経験をしたことがあるんだな?」


「・・・」


アイリスさんが、そっと俺を抱き締めてきた。

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