第120話

 深夜の大森林探索と、ウンディーネへの種づけ(スキル取得行為)を終えた後、ドラゴンゾンビを狩って、やっと2冊目の『毒耐性の書』を手に入れる。


帰宅して汗を流し、カコ村へ土木作業に向かうサリーに、入手したばかりの本を読ませた。


その後グルの町に向かい、文官の集団面接を行って、薄い赤を纏った5人をクビにし、残りはそのまま継続雇用した。



 屋敷を出ようとした時、町の要所要所に掲示させた看板の文言を読んだ複数の男達が押しかけて来た。


『財産である奴隷を無条件で解放するなんてできない』と。


『解放させるなら、相応の補償をしろ』と。


ダセの町で俺は、エルさんに、奴隷を解放した者に対して正当な補償を行うよう指示した。


だがそれは、あそこが人口2万の小さな町だったからだ。


その程度の経済規模では、所有する奴隷の人数によっては大きな損害を出す者も居ただろうから。


それに比べてこのグルの町は、人口25万の中堅都市で、富裕層の持つ資産はダセの比ではない。


数人の奴隷を解放させたところで、大して懐が痛むとは思えない。


最初は穏便に、『補償は一切しない』と、その者達の要求を退けた。


それを聴き、こちらが下手したてに出たと勘違いしたのか、将又はたまた俺を若造と見下したのかは知らないが、その内の1人がこう言った。


『ふざけるな!』


俺は直ぐにそいつの首を刎ねた。


「「ヒッ」」


残った奴らは顔を真っ青にし、後に控えていたビアンカは下を向き、ビビアンは気丈にも現実から目を逸らさなかった。


絨毯じゅうたんが汚れるので、首から血を流す死体をレッドスライムに処理させながら、俺は言う。


「何を勘違いしているのかは知らないが、この町の支配者は俺だ。

自由を許しているとはいえ、俺からすれば、お前達も奴隷と同じ存在に過ぎない。

口のきき方に気を付けろ」


俺は元より、住民達と議論するつもりなどない。


向こうの世界と違って、この世界には民主主義など存在しない。


あちらの世界で俺は、民主主義の利点と共に、その弊害も嫌というほど見てきた。


多数決で政治を運営しておきながら、やれ少数者の意見も尊重しろだの、人権があるから働かなくても生活させろだの、いちいち聞いていたら切りが無い。


そのお陰で大事な政策がとどこおり、予算がどんどんすり減って、しかも見つからなければ儲けものと、脱税を繰り返すやからも多い。


犯した罪に対して、刑が軽過ぎるからだ。


武士が支配する世では、高々1000万弱くらいの脱税でも死刑になっていたから、その治安は凄く良かったと聞く。


こちらの世界では、先ず上下関係をはっきりさせないと、国はおろか、一地方の町すらきちんと治められない。


「「申し訳ありません!」」


「こいつの財産は全て没収。

家族が居た場合、1人当たり金貨5枚を持たせて追放か、金貨2枚ずつを持たせて家から出て行くかを選ばせる。

お前達は財産の3割を差し出せ」


「「・・はい」」


財産を隠せないように、俺自らがそいつらの家に出向き、金色に光る点を片っ端から捜索した。


幸い、殺した相手の家には小さな子供が居らず、生意気そうな青年の息子2人と、派手な中年女性しか居なかった。


もし子供が居たら、その子がまともだった場合、ビアンカにこっそり保護させて、大人になるまで多少の援助をしてやろうと考えていたので、少しほっとした。


今回の騒動で得た金貨4500枚の内、500枚をビアンカに渡して町の運営資金に充て、予定より大分遅れて町を出る。


一旦家に戻ると、ちょうどアイリスが遊びに来たところだった。

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