第110話

 行為を終えた後、『放水』で俺の身体を洗ってくれたウンディーネは、何故自分が俺の従魔になったのかを語ってくれた。


あの湖に来た俺を、『水鏡』を通して見ていた彼女は、先ずその容姿に一目惚れしたらしい。


胸がドクンと高鳴ったそうだ。


でも、人間は、自分達を見れば魔物として攻撃してくる。


好きになった相手にそうされるのは悲しいからと、俺の投石にも反応しなかったそうだ。


だが、俺がソルジャーラミア達を呼び出し、自由に遊ばせている姿を目にし、優しい目で彼女達を見ていたその姿に心を打たれ、こんなに従魔達を大事にしてくれる人なら、出て行ったとしてもいきなり攻撃されることはないだろうと踏んだらしい。


言葉を話せない自分が、俺に敵意がないことを証明するには、ああするのが1番良いと考えたと言っていた。


初めてで恥ずかしかったけれど、喜んでくれたみたいだから、やって良かったとも。


その彼女にとって嬉しい誤算だったのは、本来なら純粋な水で出来ている自分の身体に不純物が混じれば、何らかのダメージを負うはずで、実際、それを覚悟していたそうだが、俺の精は彼女の身体と混ざっても、支障を来たすどころか、逆に能力を活性化させ、相当な快楽を生んだらしい。


高濃度の魔力が含まれていたからだろうか?


いずれにせよ、ここまで体に合う相手で、しかも好みの容姿であり、僕となった魔物にも優しいとなれば、もう側に置いて貰うしかないと思った瞬間、何時の間にか俺の従魔になっていたそうだ。


俺のスキルを孕む(『水の住人』を俺に授ける)ためにも、今後定期的に抱いて欲しいと言ってきた。


俺としても是非早期に入手したいから、大森林の探索の際は、たとえ1回でも良いから、彼女を抱こうと思う。


さすがに、水辺でなければ全裸にはならないが。


それから、俺の方からも、彼女に1つ注文を出した。


『普段は服を着て欲しい』と。


何回も彼女に放つ内、その胸の先端や股間の様子が、大分人に近くなってきた。


抱き締めても人間の女性のようにしか感じない。


最初は、その造形はともかく、体の表面はツルツルに近かったのに。


俺の言葉を聴いた彼女は、『ではこんな感じで如何です?』と、水で作った清楚なワンピースを披露してくれた。



 妻達が起きる時刻にはまだ1時間以上あったため、探索を続けていると、魔物同士が争う現場に出くわす。


大きな植物の周りに、3体の熊らしい魔物が居る。


そいつらが、地面から先の尖った蔦を出して戦う花を相手にしていた。


戦況は、どう見ても植物の方が不利だ。


既に大分傷付いている。


少し考えて、俺は植物に味方することにした。


『名称:フォレストベアー

ランク:G

素材価値:肉が売れる。特に掌が高い』


相手の後ろから長剣で切り付け、1体の首を刎ねる。


俺に気付いた1体の攻撃を躱して、同様に首を刎ねる。


残りの1体は劣勢を悟って逃げようとしたが、その足を払って地面に倒し、長剣で首を落とした。


頭以外の死体を【アイテムボックス】に終うと、俺をじっと観察している花の魔物と向き合う。


「大丈夫か?」


通じるかどうかは分らないが、そう声をかけてみる。


序でに、熊にやられたらしい負傷箇所に『ヒール』を掛けてやる。


身体が治った事を知った魔物が、その本来の姿を現した。


『名称:アウラウネ

ランク:G

素材価値:所持する蜜は非常に美味』


上半身は、肌は緑色だが美しい人間の女性のようで、下半身は地面に根を張る植物。


長めの髪も緑色で、豊かな胸を、葉でできたブラで隠している。


その彼女が、1本の蔦をゆっくりとこちらに伸ばしてくる。


俺の身体に触れる前で止まったので、握手のつもりなのかとこちらもその蔦に軽く触れる。


すると、その蔦から幾つもの芽が出て来た。


彼女が嬉しそうに微笑む。


独特の動きで近寄って来て、両手で俺を抱き締めた彼女は、ウンディーネの時のように淡い光を放ちながら消えていった。


念のため【魔物図鑑】を開くが、敢えて確認するまでもなく、先程の彼女がその中で微笑んでいる。


そして【アイテムボックス】に、品物が入荷されたことを知らせる表示が。


『アウラウネの蜜』


説明を見ると、『半年に1度、アウラウネによって作り出される極上の蜜。それを舐めれば、もう他の蜜では満足できないとさえ言われる』とある。


成程。


さっきの熊達は、きっとこれが目当てだったんだな。


大きめの壺1つ分あるそれを、俺は大事に取って置くことにした。



 帝国領、グルの町。


幾つかの村を挟んでゼオの隣に位置するこの町は、アルビン伯爵が統治する、人口25万の中堅都市だ。


その応接室に、アルビンと向かい合う形で、少しやつれたダッセーが座っている。


「・・それで、貴様もトルソーと同じく金の無心か?」


不機嫌を隠そうともせず、アルビンがそう口にする。


「たとえ僅かでも、どうかお願いしたく・・。

侵略者に財産のほとんどを押さえられたため、帝都に行くにももう路銀が・・」


「ふん、トルソーもそう言って強請ねだってきおったわ。

お前達は本当に無能だ。

聞けば、たった1人に負けたとか?」


「・・異常なくらいに強い相手でした。

油断したとはいえ、あっという間に我が軍が・・」


放蕩ほうとううつつを抜かして、陸に軍を育てないからそうなる。

自業自得だな。

大体、帝都に行ったところで、陛下に何とご説明するのだ?

領地を授けていただきながら、たった1人にそこを奪われましたとでも言うつもりか?」


「・・・」


「トルソー同様、金貨30枚くれてやる。

さっさと失せろ」


「有り難うございます」


執事に促され、ダッセーが退室すると、アルビンは独りつ。


「全く、最近の奴らはたるんどる。

もしそいつがこの町に来たら、目に物見せてくれるわ」

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