第99話

 ミウが眠りに就いた後、浴室で身体を洗い、今夜も探索に出る。


『ゾンビダンジョン』に跳び、まだあまり涌いていない1階層を通り過ぎ、2階層に足を踏み入れる。


構造自体は同じで、たたそこに居る魔物が違うだけ。


『名称:ハイスケルトン

ランク:H

ドロップ:アンデットキラー(R)』


アンデットキラー?


よく分らないが狙ってみよう。


スケルトンなので打撃でも通用するから、体術で攻撃する。


こいつらの出現はランダムで、部屋に1体しか居ない時もあれば、5体も固まって存在する時もある。


しかも、骨を鳴らせて仲間を呼ぶので、悠長に攻めていると10体以上を相手にしないといけない。


幸い、俺の体術は接近戦に強いので、この程度の相手なら瞬殺できる。


1階層より広く、部屋数が100以上ある2階層を通過しようとした時、最後の大部屋で30体の魔物に囲まれる。


俺の拳や蹴りに破壊されたハイスケルトンが、どんどん光を放って消滅していく中で、その内の2体が長剣を落とす。


『名称:アンデットキラー(R)

種類:長剣

付加価値:Hランクまでのアンデットを瞬殺できる』


これは便利だ。


まさにチート武器。


1本はサリーに渡そう。


3階層に降りると、今度の相手はレイスだった。


早速アンデットキラーで切り付けると、簡単に消滅する。


相手の攻撃は単なるボディタッチだが、触られると体力がほんの少し削られる。


俺には微々たるものでも、ランクが低い者達には死活問題になる。


この階層でも300以上の魔物を倒すと、その内の1体が金貨を5枚落とした。


最下層に降りる。


そこには広い空間にたった1体の魔物しからず、巨大な存在が俺を見つけて睨んでくる。


『名称:ドラゴンゾンビ

ランク:E

ドロップ:蘇生可能数回復の書(初回確定。1度のみ)

     毒耐性の書(ランダム)』


強い。


ほとんど俺と同格の存在だ。


だが、ドロップ品を見れば挑まずにはいられない。


『ガイア』を装着し、体術で挑む。


拳や蹴りを放つ際、そこに『ヒール』を纏わせて攻撃する。


相手の攻撃は若干威力の落ちたブレスと、牙や爪、尻尾による物理のみ。


ブレスは今の俺でも相当なダメージを負いそうなので、それだけは絶対に避ける。


闘い続けること約30分。


到頭俺の『ヒール』を纏わせた渾身の一撃が、相手の頭を打ち砕く。


何れかのステータスが上がった感じを受けながら、魔物の消滅と共に地面に落ちた2冊の書物を目にする。


興奮を抑えながら開いた最初の書物は、『蘇生可能数回復の書』。


書と言っても別に文章が書かれている訳ではなく、単に開いただけで効果が出るものだ。


次に、期待を込めてもう1冊の方を手に取る。


『名称:毒耐性の書

種類:書物

付加価値:ランクEまでに相当する、あらゆる毒を無効化する』


よおし!


その場で開いて、そのスキルも覚えた。


ステータス画面を開くと、0だった蘇生可能数がちゃんと1に回復しており、『精神』と『器用』、『魔法耐性』の3つが其々1つずつ上がって、E、E、Fになっている。


今回の探索はここまでにして、珈琲を飲みに家に帰った。



 出勤前だったエレナさんに頼んで、ギルドへの依頼書を書いて貰う。


内容は、『無料で盗賊退治を行います。何件でも可』というものだ。


エレナさんに『本気なの?』といぶかられたが、貴重なスキルを得るためだと説明すると、『成程ね』と納得してくれた。


依頼料の500ゴールドを渡そうとすると、『要らないわ』と言って受け取ってくれない。


「ギルドからの給料が丸々残ってる状態だし、おまけに生活費まで貰ってるんだもの。

職場では受け取らざるを得ないけど、そうでなければ要らない」


「・・済みません」


「謝ることじゃないでしょ。

それより、カイウン様のお屋敷に呼ばれているのよね?

良い人なんだから、絶対に喧嘩を売っちゃ駄目だからね」


「俺、そんなに喧嘩っ早く見えます?」


「そうは見えないけど、修君、時々我慢が足りないから。

貴族が1時間待たせるのなんてざらよ?」


「俺が生まれた国では、1時間も相手を待たせたら、怒って帰られても不思議ではないんですよ。

それに、あの時は皆さんが満足するまで、しっかりと耐えてますよ?」


「馬鹿。

朝から何を言ってるのよ。

・・今度また、沢山かわいがって」


抱き付いてきて、俺に数秒間キスをした彼女は、そのまま出勤して行った。



 カコ村でのお湯張り、ミーナの送り出しを済ませた後、帝国の軍服を着用したサリーを伴って、領主の屋敷まで出向く。


予め告げられていたらしい門番は、俺が名乗ると丁重に頭を下げ、中に通してくれる。


玄関まで歩いて行く間に、俺達を歓迎すべく、大勢のメイド達が居並んで、同様に頭を下げてくる。


その1番端に並んでいたメイドさんに屋敷内を案内され、応接室へ。


今度はお茶とお菓子を出されて直ぐに、カイウンさんとマリアさんが部屋にやって来た。


「よく来てくれたね。

・・そちらが例のご令嬢だね」


「お初にお目に掛かります。

元帝国伯爵家長女、サリー・ダルシアと申します」


ソファーから立ち上がった彼女が、2人に丁寧に頭を下げる。


「私はカイウン・ゼルフィード。

陛下から侯爵を賜っており、この町を治める領主でもある。

そしてこちらが妻のマリア。

現国王陛下の妹に当たる」


「マリア・ゼルフィードと申します。

今日はようこそおいでくださりました」


「護衛の方々が見えないようですが?」


俺に険しい視線を向けてくるあの2人は、一体どうしたのだろうか?


仮にも専属の護衛だろう?


「・・彼らは君に対する殺気を隠せない程に未熟だからね。

今回は強制的に席を外させた」


「御免なさいね。

リアナも悪気はないの。

ただちょっと融通が利かなくて・・」


「宜しいのですか?」


「1万以上の軍を相手に勝つような人物が相手では、生半可なまはんかな護衛など付けても意味ないだろう。

君の誠意に期待するよ」


この人、まだ20代後半くらいに見えるのに、結構肝がわっている。


「・・早速で悪いが、そちらのサリーさんにお尋ねしたい。

帝国は何故王国を攻めに?」


「帝国では現在、皇帝の子息達による継承権争いが激しくなっておりまして、現時点では皇太子が優勢であったため、劣勢を挽回しようとした第3皇子が、皇帝に遠征を持ちかけたのです。

第3皇子は皇帝と寵妃の息子でもあったため、穏健寄りだった皇帝も、渋々その提案を受け入れました」


「成程。

・・失礼だが、あなたがこちらの彼に就いた理由をお尋ねしても?」


「端的に言えば、この方の全てにかれたからです。

私にとって、修様以上の人などいないと断言できる程に」


嬉しいんだけど、恥ずかしくもあるから、あまり人前でそういう事を言わないで欲しいな。


「あなたは彼の戦いを実際に目にしたのよね?

一体どれ程のものなのかしら?」


マリアが興味津々きょうみしんしんで尋ねてくる。


「異常です。

攻撃魔法を一切使わず、しかも敵に手加減までしながら、1万以上の敵兵に勝利する。

私が総司令官なら、この人とは戦闘せずに逃げます」


「攻撃魔法を使わない!?」


カイウンが物凄く驚いている。


「はい。

全て素手による格闘術で倒しています」


「「・・・」」


「この方の凄さがお分かりいただけますよね?

本来なら、万を超える兵数の場合、先ず大魔法で相手の戦力を削り、そこから騎兵や歩兵の集団戦が始まります。

如何に彼が1人で戦ったとはいえ、普通ならそのセオリーはくつがえりません。

しかもこの人は、そんな状況で明らかに手加減をしていた。

戦闘に怯える新兵や、自らの意思で戦場に立った訳ではない農民兵を、たとえ自身が傷ついても逃がしていたのです」


「「・・・」」


『恥ずかしいから、もうその辺りで止めて』


そんな俺の内心を気にすることなく、彼女の熱弁は更に続いた。

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