第97話

 湖から約100キロ圏内の金色の点を回収していたら、その中にやたら価値の高い装備品があった。


宝剣だろうが、宝石がちりばめられた鞘が少しびている。


家紋が彫られており、貴族の所持品だった事が分る。


その周辺には、土で汚れた遺骨と、鎧に長剣。


劣化で穴が開いた革の背負い袋の中には、金貨200枚と金塊3本、それと日誌が入っていた。


少し迷った。


お金と金塊は貰うが、この人の装備品などはどうするか。


宝剣には家紋が入っているからギルドに提出するが、日誌も出せば、この人物が特定される。


その時、もし遺骨があれば、この人のお墓が作れるだろう。


あまり貴族と関わりたくないが、遺族にとっては大事な人だったかもしれない。


結局、布のシートに遺骨と装備品などを包んで、【アイテムボックス】に終った。


この日は他にも約14万ゴールドと、錆びた装備品を8点回収し、食料となる魔物を56体狩って帰った。



 朝の珈琲をサリーとミーナ、ミウの4人で飲んでいる時、ミーナにベッドの中で聴き忘れた事を尋ねる。


「ミーナの勉強は、今どの辺りまで進んでいるの?」


「買っていただいた本や、お借りした本は、大体習得できました」


「じゃあ新しい教材が必要になるね」


「本は高価ですから、そんなに急がなくても大丈夫ですよ」


「先日、王都に行く機会があってさ、そこで図書館を見つけたんだ。

入館料を払えば、写本もできるそうだけど、行ってみたい?」


「是非行ってみたいです!」


「そう言うだろうと思って、実はその近くに家を借りてある。

今後は毎日そこに送り迎えしてあげるよ。

入館料も出してあげるから、好きなだけ勉強して良い」


「・・そこまでしていただいて、私、何をお返しすれば」


「俺は文字は読めても、陸に書けないからさ。

今更(こちらの学問を)勉強する気もないし。

だからサリーと2人でそういう面を補佐してくれると助かる」


「ベッドの中で沢山奉仕してやれば?

男にはそれが1番でしょ」


ミウが笑いながら言う。


「・・私にはまだそこまでの技術はないので、勉強頑張ります」


ミーナが顔を赤らめてそう口にする。


「それとさ、ミーナ、学校に行ってみる気はないか?」


「学校ですか?」


「ああ。

王都に在る王立学院の入学試験が、約5箇月後にある。

図書館で勉強して、試験を受けてみれば?」


「かなり難しいのではないですか?」


「別に落ちてもまた受ければ良いじゃん。

18歳まで受験資格があるみたいだしさ」


「・・挑戦してみようかな」


「応援するよ。

資金面は一切気にしなくて良い」


「有り難うございます」


「修、今夜はあたしだからね?」


「ん?

もしかして『念話』の件か?」


「そう。

サリーから聞いた。

その取得条件までは教えてくれなかったけど」


「分った。

覚悟しておけよ?」


ニヤリと笑って挑発する。


「うっ、そんなに大変なんだ?」


「私達には幸せなことですよ?」


サリーが笑う。


「ええ、幸せです。

他に何も要らなくなりますから」


ミーナもそう言って微笑む。


「へえ、夜が楽しみ」


ミウが俺の目を見てそう口にした。



 カコ村でお湯張りをしてから、ミーナを図書館に連れて行く。


転移魔法陣が設置してある家を実際に見た彼女は、そこを気に入ったようだ。


部屋の1つに、予め買っておいたベッドと机、椅子に本棚を並べてやる。


共に歩いて図書館までの道順を覚えさせ、館内に入る。


朝早いからまだ空いていて、他に人は居なさそうだ。


受付に1人で座っていた中年の女性司書に、こっそり金貨1枚を握らせて、王立学院の受験に必要な本をリストアップして貰う。


ミーナにそのリストと家の鍵、金貨と銀貨を其々2枚ずつ渡して、夕食前に迎えに来ると告げ、そこで別行動を取る。


次に向かった先は冒険者ギルド。


『念話』でエレナさんに話をつけ、時間を指定して予約して貰った。


「実は、こういう品を拾いまして・・」


『予約済み』と書かれた札をカウンターに立て掛け、書類仕事をしていたエレナさんに挨拶し、家紋の彫られた宝剣を卓上に置く。


「!!!

・・この紋章。

修君、別室に来て」


真剣な顔をしたエレナさんに、奥に在る応接室に連れて行かれる。


「少しここで待っていて」


そう告げた彼女は、また室外に出て行く。


馴染みでない事務員さんがお茶とお菓子を持って来てくれ、待つこと約1時間。


エレナさんの頼みでなければ帰るところだが、じっと我慢の子で耐える。


それから少しして、エレナさんに先導されて、やたらと身分の高そうな夫婦(?)と、お付きの護衛官2人が部屋にやって来た。


「あらっ、あなたは!」


夫婦の内、美しい金髪の女性が俺を見て驚く。


「知り合いか?」


旦那さんらしき、穏やかで知的な男性が意外そうに妻に尋ねる。


「ええ。

以前に1度、町でお見かけしたことがあるの。

確か、西園寺修さんだったわよね?」


ああ、あの散歩の時に声をかけてきた・・。


「はい。

先日はわざわざお気に掛けてくださり、有り難うございました」


立ち上がって頭を下げる。


夫妻がソファーに腰を下ろすと、男女の護衛官2人がその背後に立つ。


透かさず事務員さんが夫妻の前にお茶とお菓子を出し、緊張しながら去って行く。


エレナさんも彼女と一緒に退出する。


「掛けたまえ」


立ったままの俺に、男性の方がそう言ってくる。


ソファーに座ると話が始まる。


「私はカイウン・ゼルフィード。

この町の領主だ。

こちらは妻のマリア」


紹介された女性が俺に微笑む。


「早速だが、あの宝剣を何処で手に入れたんだい?」


「オルトナ大森林です」


「大森林のどの辺り?」


「正確には言えませんが、大きな湖から100キロ圏内です」


「ここに来る途中、エレナから君が非常に優秀な冒険者だと聴いている。

まだEランクになったばかりだそうだが、恐らくこの町で最強の存在だとも」


その言葉に、後の護衛官2人が俺を睨む。


「最強かどうかは分りませんが、アイリスさんより強いのは確かです」


「・・彼女と知り合いか?」


「ええ。

友人です」


「失礼だが、私は今まで君の名を聞いたことがなかった。

どの国の出身で、今は何処で暮らしているんだい?」


「遥か彼方の異国からやって来た平民です。

現在は取り敢えずこの町に家を構えていますが、この国の住人にはならない可能性が高いです」


「それは何故だね?

自画自賛だが、なかなかの町だと思うが」


「自分の領地を持っているからです」


「「!!!」」


「このゼルフィードとはお隣さんなので、どうか宜しくお願いします」


「隣?

・・まさか帝国領に!?」


「ええ。

国境の砦から先、ゼオの町までが現在の私の領地です。

自治領なので、貴族制は敷いておりません」


「・・本気で言っているのか?

帝国との戦争になるんだぞ?

そもそも、どうやってダセとゼオの町を落とした?」


「正面から落としました」


「・・たった1人でか?」


「そうです」


「「・・・」」


「初めに言っておきますが、最初に喧嘩を売ってきたのは向こうです。

1万以上の軍勢を率いて、この町を落とそうとしていました」


「何だと!!」


「第3皇子の遠征ですね。

偶々それを知った俺は、ニエの村を護るために彼らと戦いました。

その結果、俺が勝ったので、防衛の意味を含めて領地を拡大中です」


「「・・・」」


部屋に沈黙が流れる。


「・・冗談ではないんだよな?」


「ええ。

全て真実です」


「何か証拠はあるか?」


「遠征に従軍していた帝国の伯爵令嬢が、今は俺の部下として働いています。

ダセやゼオの町まで来ていただければ、また別の部下が応対しますよ?」


「取り敢えずその女性に会わせてくれ」


「今日はもう時間がないから後日にお願いします。

俺も何かと忙しい身なので」


護衛官達の目に殺気が宿る。


「・・・。

分った。

明日、いつでも良いから私の屋敷まで2人で来てくれ。

歓待するよ」


「分りました。

話が逸れてしまったのですが、俺にはお二人に渡す物があるのです。

明日お伺いした時、それをお渡ししますね」


この日の会談(?)は、そこで終わらせた。

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