第94話

 朝食の席でのサリーは、物凄く上機嫌だった。


極上の笑みが、零れる零れる。


あれから、結局4回もやってしまった。


だって終わる度に、お掃除と言いながら立たせてくるから。


お陰で探索ができなかったが、ここまで機嫌の良い彼女を見れたから良しとする。


今日の予定は、サリーとミウは『ゴブリンダンジョン』の2、3階層でレベル上げ。


ミーナは家で勉強。


エレナさんとエミリーは其々の職場に出勤だ。


俺の方は、朝一番でカコ村にお湯張りに行き、次いでダセに跳んでエルさんに『念話』を仕込み、サリー達の送り迎え、ダセから先への探索だ。


カコ村でのお湯張りは、皆が大分清潔になったので1日2回で良いことになり、ジーク達の基礎訓練も随分と様になってきた。


もう少し体力が付いたら、ロダンに頼んでダセから騎士を数名派遣して貰い、剣技の訓練もして貰う。


エルさんへの教授も、今の覚え立ての彼女なら、2時間も掛からずに10回を達成できる。


サリー達は昼頃に迎えに行って、また午後に送り届け、そして夕方再度迎えに行く。


家での留守番がてら勉強しているミーナには、今夜訓練が終わったら、部屋に来て欲しいと告げた。



 エルさんに『念話』を仕込んだ後、ダセから先に造った防衛線を越え、前に進む。


その前に回収したソルジャーラミアとゴブリンプリンセスは、俺への貢物を34も用意していた。


彼女達には、あとでこちらも何か渡さないとな。


防衛線から全力で走って数分、村が見えてくる。


カコ村より大きいが、中に入るとありきたりの村でしかない。


ここは後で話をつければ良いことにして、先へ進む。


更に3つ平凡な村を通過して、ダセから約120キロの所にある、ゼオの町に着く。


相変わらず、王国からの旅行者だと門番に告げると、嫌味を言われる。


だが俺は、今はそんな事どうでも良かった。


ここに転移魔法陣を作るための代償を、急いで得なければならなかったから。


2度目の『短剣』は、オルトナ大森林用に残しておかねばならない。


門番に帝国銀貨1枚を握らせて聴き出した話では、この町はダッセー子爵が統治し、人口は約4万。


領主の評判はそれなりに悪いそうだ。


武器屋に寄って、丈夫な弓と矢を500本買い、領主屋敷に急ぐ。


直前で『ガイア』を装着し、門番に喧嘩を売った。


赤く映らなかったから骨折程度で済ませ、屋敷の中に入る。


メイド達が悲鳴を上げながら逃げ惑い、勿論俺はそれを無視して、警備兵だけ殴り倒し、赤ければ殺して、ダッセーの部屋に行く。


まだ昼間なのに、彼は愛人とベッドの中に居た。


まあ、俺も人のことは言えないな。


『・・お邪魔しました』


そう告げて、屋敷中の金色の点を回収する。


家人からは赤く映る奴以外は取らず、金庫内のお金や貴金属と、屋敷内で高そうだと思った美術品や武器を根こそぎ頂戴する。


『鑑定』には、美術品や武器は、その金額まで表示されない。


『非常に高価』とか、『希少価値が高い』とかしか教えてくれない。


それはそうだ。


美術品の類は、絶対評価ではなく相対評価、客観ではなく主観でその価値が変わるのだから。


粗方回収すると、悠々と屋敷を出て、騎士団の兵舎付近の高い建物の屋根に上る。


そこから兵士達を見下ろし、服を着たダッセーが騎士達に何かを命令するのを見ていた。


戦の準備をし出した彼らを観察し、赤く映る奴に弓を射る。


初心者だし、50メートルくらい離れているから、なかなか当たらない。


けれど、50本も射ている内に、次第に当たるようになってくる。


俺に気付いた奴も数人居たが、赤くなければ無視した。


300本射ると、待望の『弓』のスキルが手に入った。


そこで射るのを止め、町から出て転移魔法陣を作る。


その足でサリー達を迎えに行き、少し遅くなった昼食を取らせた後、ゼオにとんぼ返りして、俺を探しに今将いままさに町外に出ようとしていた騎士団と対峙する。


「貴様一体何者だ!?」


意外にも、その先頭に立っていたダッセーが、俺にそう怒鳴る。


「名無しの権兵衛」


「?」


通じなかった。


「ダセの新領主だと言えば分るか?」


「お前が!

・・先日トルソーが泣きついてきて、帝都まで逃げると言うから金貨20枚も援助してやったが、その原因が町を乗っ取られたからだと言っていた。

たった1人にやられたとな」


「そう。

それが俺だ」


「馬鹿馬鹿しくて話半分に聞いていたが、200人の騎士を1人で倒したとか」


あれ?


その前の、第3皇子の軍勢1万以上についてはスルーなの?


もしかして知らない?


「たった200しか居なかったからな」


「だがこちらには400の戦力がある。

幾らお前でも勝てまい?

素直に盗んだ物を返せば、楽な死に方をさせてやるぞ?」


400じゃ大して変わらないじゃないか。


「断る。

もう俺の物だしな。

現金が4500万ギルしかなかったのには失望したぞ」


トルソーの倍以上はあったけど。


「貴様~っ!

殺せ!

絶対に殺せ!」


その号令で、大人しく控えていた騎士達が突撃してくる。


その中には、赤い奴を狙ったのにまだ未熟で、間違えて矢を当ててしまった人も居る。


そういう人達にはこっそり回復魔法を掛けながら、これまで通り、赤く映る者達だけを始末した。

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