第90話

 家に帰り、浴室でサリーの体をさっと洗い、自分も簡単に汗を流して、裸のまま抱き抱えて部屋に連れて行く。


ベッドに優しく横たえ、覆い被さって、繋がったままキスで口を閉じる。


ほとんど腰を動かすことをせず、お互いの内部での動きと、絡め合う舌だけで情欲を高め、彼女をしっかりと抱き締める。


両手を繋ぐ代わりに、俺の物から魔力を送り、循環してきたものを、絡めた舌から吸収する。


1時間もそうしていると、サリーが大分体の動きを取り戻してくる。


2時間経つと、もどかしそうに腰を振ってくる。


だが俺は、そうした催促さいそくに応えることなく、ただじっと腰を押し付け、意識的に彼女の中で俺の物を動かすだけにとどめた。


その内、何度も内部を集束させて、度々絶頂を繰り返すようになり、俺はその都度精を放って彼女の魔力量を回復させてやった。


「こんな営みも良いですね。

長年連れ添った夫婦のものみたいで、より深い愛情を感じます」


3時間経ってすっかり元気になったサリーは、体を反転させて俺の上になると、キスの雨を降らせながらそう告げてくる。


「なるべく身体に負担をかけないように、動きを最小限にしたんだ」


「腰は動いていないのに、私の中であなたの物が定期的に子宮を押し上げてくる感覚は、まるで会話しているようで嬉しかったですわ」


「それに応えるように締め付けてきたものな」


「フフフッ」


「サリーは今日、丸一日休みで良い。

十分に身体を静養させてくれ」


「有り難うございます」



 エレナさん達を見送りに出ると、彼女に『今日こそは依頼を受けに来て』と言われたので、朝一番にカコ村に跳んで1回目のお湯張りをした後、久々にギルドに顔を出した。


相変わらず、エレナさんの窓口だけ異様に混んでいる。


急ぎでなければ、彼女の所に並ぶのだろう。


俺に気付いたエレナさんは、応対している人に何かを告げて、一旦席を外した。


それから直ぐに、以前と同じ事務のが俺を呼びに来て、奥の部屋に連れて行かれる。


銀貨を1枚渡すと、ニコッと笑って去って行った。


ドアを開けて中に入ると、エレナさんが居て、依頼票を見せてくる。


「ズルして順番を飛ばしてるから、手短に済ますわね。

これにサインして頂戴」


差し出された依頼票には、『商人の護衛』と書かれている。


「この人は町の重鎮じゅうちんでね。

王都まで荷を運ぶのだけど、あなたなら1人でも大丈夫でしょ。

その方が断然早く着くし。

まだ受注したばかりで他の冒険者はこの依頼を知らないから、なるべく早く会いに行ってね?

この依頼をこなしたら、Eランクに昇格よ」


「分りました」


依頼票にサインする。


「今夜は私を抱いてよ?」


耳元でそう囁いて、短いキスをすると、彼女は慌ただしく部屋を出て行った。



 依頼票に添えられていた地図を頼りに、依頼主の下に挨拶に行く。


でっかい屋敷で、まるで貴族みたいだ。


門番に事情を説明し、取り次いで貰うと、玄関先でメイドさんが待っていて中を案内してくれる。


応接室で、出されたお茶を飲んで待つこと約30分、本来ならもう帰るところだが、エレナさんの顔を潰す訳にはいかないので、我慢していた。


更に10分待って漸く現れた男は、そこに居るのが俺1人だと知って、意外な顔をする。


「まさか君1人で依頼を受けに来たのかい?

子供のお使いじゃないんだよ?

王都まで、大事な荷を運ぶんだ。

最低でも6人以上で来なさい。

大体、君のランクは幾つなのかね?」


悪気はないのだろうが、普段から大勢の人間を使っているだけあって、態度が大きい。


冒険者を部下とでも考えているのだろうか?


「こんな依頼、俺1人で十分だからここに来ました。

因みにランクはFですが、この町に俺より強い奴は居ませんよ?」


「ほう」


男の顔に怒りが見える。


「この町最強とは恐れ入った。

では聴くが、2番目は誰だと思うね?」


「(サリーを除けば)アイリスさんじゃないかな」


「・・彼女を知っているのかね?」


「友人だよ。

向こうがどう思っているのかは別としてね。

疑うなら、今から騎士団本部に使いを出せ。

西園寺からの要請だと言えば、恐らく直ぐに来てくれる」


「冗談では済まなくなるぞ?

彼女は貴族だ。

呼び出した以上、もし嘘だったら覚悟しなさい」


「分ってるよ。

早く連絡しろ。

俺は忙しい」


奥歯を噛み締めたような顔をした男は、何も言わずに部屋から出て行く。


それから更にまた1時間くらい待たされて、やっと男とアイリスさんがやって来た。


「先程は大変失礼致しました。

心からお詫び致します。

依頼料は3倍の金貨60枚に致しますので、どうかお許しください」


ここに来るまでにアイリスさんに何か言われたのか、前回とは別人みたいに腰が低い。


「疑念は払拭ふっしょくできたのか?」


「はい、それはもう。

この国最強だとお聴きしました。

何れは必ず陛下からお声がかかるだろうとも」


「・・理解したならそれで良い。

もうかなり時間を無駄にした。

1つ尋ねるが、この依頼はあんたが王都まで直接行かないと駄目なのか?

荷物を届け、相手からサインを貰って来るだけでは意味がない?」


「・・今回のものは、確実に相手に品物が届いて、きちんと代金を持ち帰ってくれるのなら、私が出向く必要まではない取引ですが」


「ここから王都まで、いつもはどれくらい掛かってるんだ?」


「馬車で1箇月くらいです」


「往復で2箇月か。

冗談じゃないな。

俺1人で行く。

恐らく1週間掛からないで帰って来る」


「!!!」


「私が保証しよう」


それまで黙っていたアイリスが、そう男に告げる。


「アイリス様の保証なら・・」


「西園寺、これは貸しだからな」


忙しい彼女は、それだけ言うと、部屋から出て行った。

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