第87話

 エルさんの買い物が終わると、職人街へ行き、大きめの掲示板を1つ作らせる。


屋敷に戻った後、それを門の横に設置し、そこに掲示する文言をエルさんに書いて貰った。


『1、今後、この町での奴隷所持は禁止する。

奴隷は領主が管理する犯罪奴隷のみとし、それも刑期が過ぎれば解除する。

現在奴隷を所持している者は、この町を出て行くか、1か月以内に奴隷を開      放せよ。

期間が過ぎても所持していた場合、厳罰に処する。


 2、奴隷を開放して損失を被った者は、領主屋敷での解除行為の際、その損失額を申告せよ。

額に応じて、税を免除する。

但し、不正に申告した者は、犯罪奴隷に落とす。


 3、この町の税率は、年15パーセントとする。


 4、住民が町を出て空き家になった家は、領主の所有物となる。

勝手に移り住んだ者は厳罰に処する。


 5、文官を3名募集する。

給与は月6000ギル。


 以上』


「西園寺様、税率が低過ぎる気が致します」


「ん?

以前はどのくらいだったの?」


まさかカコ村と同じ40ではあるまい。


「30です」


「・・それって、個人の年収に関係なく?」


「そうです」


「でもそれじゃあ、所得の低い人ほど生活が大変だろ?」


「そうなりますね。

文官の数が多くなかったので、細かな調査ができなかったせいもあります」


「何人くらいでやってたの?」


「5人です」


「・・募集人数を書き直した方が良い?」


「いいえ、まともに働く人が他に3人居れば何とかなります。

人口2万程度の町ですし」


え!?


そんなに人口いたの?


「その5人、真面目に働かなかったんだ?」


「前領主の息子の腰巾着こしぎんちゃくだったので・・」


「ああ、成程」


でも4人で2万を管理するって凄くないか?


幾ら向こうの世界と違って行政の仕事が限られているとはいえ、税の徴収だけでも一苦労だろうに。


「職種別に納税期間を分ければ良いんですよ。

暇な時期を作らなければ何とかなります」


俺の考えている事が分ったのか、エルさんが付け足してくれる。


しかし、よく考えられてるなあ。


向こうの世界は、何故か皆同じ時期に確定申告してたもんな。


国会での予算作成上、仕方のないことかもしれないけどさ。


税務署って、2月から4月までしか忙しいイメージなかったし。


まあ、1つの町だけで完結する予算だから、それで済むのかもしれない。


恐らく、○○控除なんて、複雑な仕組みもないのだろうし。


「エルさんはどのくらいが妥当だと思う?」


「20ですね。

そこに、一定以下の年収だった人達には、何らかの労務と引き換えに、税額を下げる仕組みを付け足せば問題ないと思います」


「分った。

では税額は20パーセントに変更して、その文言も取り入れよう。

・・その辺りのことは任せても良いかな?」


「はい、勿論です」


「年2回のボーナスに色を付けるね」


「有り難うございます!」


「因みに、エルさんは無税で良いから」


「ええ!?」



 次に騎士団の兵舎に行く。


俺が粗方掃除したから、現在は30名も残っていない。


残りを全員殺した訳ではないが、トルソー一家の護衛に付けた6名の他にも、この町から去った騎士が数多くいるみたいだ。


「残ったのはこれだけか?」


騎士団を束ねていたロダンに尋ねる。


「ああ、そうだ。

これでも多い方だと思うぜ」


40後半のおっさんは、上司に対する口のきき方を知らない。


だが、前領主の統治下でも不正に手を染めず、俺の目に赤くも青くも映らなかった普通の奴だ。


別に敬語を使って欲しい訳ではないから、その辺りはスルーする。


ここを潰した時、『もし俺に仕える気があるなら、同じような奴を纏めておけ』と言っておいた。


「・・男女半々くらいか。

女性で1番腕が立つのは誰かな?」


「そこのシアだな。

騎士団では俺の次に腕が立つ」


「では、君にエルさんの護衛を任せる。

宜しく頼む」


隣に居るエルさんの肩に手を載せて、それが誰かを相手に伝える。


「はい。

了解致しました」


俺は一応征服者だが、彼女は取り立てて反抗的な素振りは見せない。


ここに居る者達は皆、トルソーの長男が好き勝手していたことに鼻白んでいた。


そいつに天罰を下したことと、必要以上に仲間を殺さなかったことで、俺に一定の敬意を持っている。


「今後の方針を伝える。

君達は全員、騎士としての身分を備えたまま、この町の治安維持のみに努めて貰う。

帝国軍との戦闘は勿論、町外の魔物退治や賊の討伐にも駆り出さない。

決して使い捨てにはしないから安心して欲しい。

また、以前の額が幾らかは知らないが、団長とシアさんには月に8000ギル、その他の団員には7000ギルの報酬を支払う。

諸経費は当然別に払うから、その都度エルさんに申請してくれ」


心なしか皆の雰囲気が明るくなる。


「もしかして、この人達の給料って安かったの?」


小声でエルさんに尋ねる。


「確か、団長さんで6000ギルくらいでした」


彼女が俺にそう耳打ちしてくれる。


命懸けでそれじゃなあ。


「何か質問や意見はあるか?」


「町の治安維持のみって、そんなんじゃあ腕が鈍るぞ」


「別に激戦地に派遣しても良いが、その場合、自己責任だからな。

死んでも文句言うなよ?」


「・・・」


「もしどうしても戦いたいなら、俺が課す試験に合格することだな。

それまでは必死に訓練していろ。

また一から募集し直すような、面倒な事はしたくないからな」

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