第74話

 話を終えると、ジーナさんに当座の資金として帝国金貨200枚を渡す。


ここから、戦闘グループに属した人達の給与も支払って貰う。


ジークには、帝国軍から没収した装備品の内から、長剣100本と鉄の胸当てを50、革の鎧を50ずつ渡す。


それから鍛冶屋に連れて行って貰う。


彼の紹介で、恐縮して俺に頭を下げる職人の前に、大森林で拾った中古の武具や錆び付いた剣などを200個ほど出し、鍛冶の素材にして貰う。


次いで雑貨屋に行き、【アイテムボックス】から予め購入していた小麦の袋3000キロ分を取り出し、手数料として金貨1枚を支払って、各世帯に無償で10キロずつ配って貰うよう指示した。


サリーには、土魔法を使って村の空き地に大人50人は入れるくらいの公衆浴場の建設に着手して貰い、俺は厩舎に案内して貰って、その施設を拡張すべく、直ぐ隣の荒れ地の整備に励んだ。


ジークには戦闘グループの訓練メニューを考えさせ、足りないと感じる基礎体力作りの向上に努めて貰うよう指示する。


ジーナさんは既に村人全員に告知するための文書を作成し終え、人を使ってそれを載せる掲示板の製作を始めており、それらを確認した俺は、作業中のサリーに一声かえて、村の外に出た。


以前造った妨害線を全て撤去しに行った後、新たな防衛線を作成すべく、カコ村から更に帝国領内に入り込む。


荒れ地や林を50キロ程進んだ先に、回収した資材で防衛線を張り、そこまでを俺の領地だと自己主張して、より先に進む。


森林を通過しながら狩りと探索を繰り返し、この辺りの目星い魔物を狩り尽くす。


7個あった金色の点には、全部で11万近いギルを所持し、帝国軍の装備を身に付けた、まだ死後それ程経ってはいない複数の死体が存在した。


俺がこの森で倒した魔物の中に、Iランクの物が4体居たから、もしかしたらそれにやられた可能性がある。


金品や装備を貰ったお礼に、遺体は土魔法で埋めてやった。


カコ村から時速100キロくらいで走り続けて約90分、森林探索で多少の時間を食ったが、何とか次の町が見えてきた。


ここに転移魔法陣を設置したいが、帝国領に初めて作成した物はカコ村の側に設置し直してしまったし、再度何らかのスキルを代償にしないと新たに作れない。


手持ちのスキルはどれも残しておくべき物だし、仕方ないからそのまま引き返して、カコ村で後日乗馬を習ってそれを充てることにした。


「それにしても、ここまで村1つないとは、カコ村は本当に見捨てられていたんだな」


これじゃあ近くの村や町と交易するのにも一苦労だ。


そう思いつつ、来た道を引き返した。



 村に戻ると、サリーが既に公衆浴場の建物を完成させており、その内部で、岩石を幾つも組み合わせて造った浴槽を、水魔法を使いながら洗浄していた。


「さすがに早いな。

お疲れさん」


「修様のお陰で、大分魔力量が増えましたからね。

これから毎日、たとえ1回でも抱き続けてくだされば、村の外壁も予定より早く完成できますよ?」


「・・入浴時の訓練中でも良いか?」


「ええ、勿論。

贅沢は言いません。

あれも幸せな時間ですから」


「折角だから、このまま湯を張って、今夜にでも村人達を入れてやりたい。

全員は無理だが、3日くらいに分ければ何とかなるだろう」


「そうですね。

さすがにお風呂に入ったことがないというのは・・。

お湯で身体を拭いているとはいえ、それすら毎日ではないようですし」


「サリーは大分魔力を消耗しただろうし、後は俺がやるから休んでいてくれ」


「有り難うございます。

お言葉に甘えますね」


湯を張り終えると、ジーナさんの下に行く。


「公衆浴場がほぼ完成したので、もう入れますよ。

ただ、さすがに村人全員は無理なので、3日くらいに分けて入れてあげてください。

暫くは、俺が毎日湯を入れに来ますから、最後の人は残り湯を全部抜いてから出て来てくださいね。

あと、脱衣所にはまだ衣服を入れる棚が無いので、それはここの職人さんにでもお願いしてください」


「有り難うございます!

お風呂に入れるなんて凄く嬉しいです!

今はまだ大丈夫ですが、冬場になると川に入るのは難しいので、髪を洗いたい時に非常に助かります」


「・・皆さんは、入浴に何時間も掛かりませんよね?」


うちは3時間掛かるから無理だけど、1回1時間くらいなら何とかできるかな。


「え?

・・30分もあれば十分かと」


「でしたら、今日は予定があるので無理ですが、明日から4日間、毎日3回ずつ湯を入れ替えます。

その間に全員で毎日入れば、大分すっきりするでしょう」


「西園寺様にそこまでしていただいて宜しいのでしょうか?」


「身体が奇麗になれば、心にも余裕が生まれますから」


「・・私達、必ずあなたにご恩をお返ししますから。

懸命に努力して村を発展させ、きっとあなたをご満足させてみせます」


ジーナさんはあふれた涙を拭くこともなく、俺にそう言い切った。


「期待しています」


俺の両親も、こんな気持ちを味わっていたに違いない。


海外の僻地で仕事をしていた彼らが、送られて来る写真の中で常に笑っていたのは、こういうことだったのだ。

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