第73話
浴室から出て来たサリーと交代で湯を浴び、2人で簡単な朝食を取る。
エミリーは既に修道院に向かったらしく、遅くまで勉強していたらしいミーナは、珍しくまだ寝ていた。
サリーがミーナのためにと町で買い揃えた魔法書と、エレナさんが持っていた魔法書を借りて、現在猛勉強の最中らしい。
珈琲(高価だが、こちらにも存在した)を飲みながら、サリーと今日の予定について話す。
「この後カコ村に行って、ジーナさんに返事をする訳だが、サリーは俺の考えに賛成してくれるんだよな?」
「はい。
あの村を保護し、修様の自治領と化して、帝国への足掛かりにすれば良いと思います」
「では、サリーにも手伝って貰う。
君には先ず、村に丈夫な外壁と、公衆浴場を1つ造って貰いたいんだ」
「分りました。
今の私の魔力なら、1週間掛からないでしょう」
「俺はその間に、村に必要な物資を提供し、兵力の増強と生産力の向上を図る。
村から先へも進み、何れ来る帝国軍との戦に備える。
・・それはそうと、村の皆に君の存在を教えても平気なのか?」
「あの村だけであれば問題ないと思います。
ですが、帝国との戦場に出るのであれば、何らかの偽装が必要になります」
もし家が存続していれば、彼らの立場が悪くなるものな。
「サリーは家族と仲が良かったのか?」
「普通ですね。
喧嘩はしませんでしたが、体よく使われましたし、私を政略結婚の道具にしようともしていましたから」
「それだけ美人だったら、さぞ縁談の申し込みも多かったんだろうな」
「手紙は読まずに捨てておりましたから、それ程手間ではなかったのですが、上位貴族のパーティーだけには顔を出さねばならず、その会話の内容にうんざりしておりました」
「良い男はいなかったのか?」
「あなた以上の男性なんていないと思います。
・・私は、顔や頭が良いだけとか、財力や優しいだけが取り
人としての器の大きさは勿論、容姿、性格、知力、能力、経済力、包容力、その全てがバランスよく高い相手にしか興味ありません。
修様は、容姿や性格は言うに及ばず、その他全ての点において相当高いものを有しており、あの戦争で、自分が傷つきながらも敵の兵を無闇に殺さず逃がしていた姿を見た時、『この人は器が違い過ぎる』と惚れてしまったのです。
その後の修様との交渉で、精一杯の虚勢を張りながら、『あなたの側に行きたい』、そう心でずっと話しかけていました」
視線を珈琲カップに移しながら、淡々とそう告げるサリー。
「あなたに抱かれて、事前に分ってはおりましたが、身体の相性まで最高で、純潔を散らしながら侵入してくるあなたに、私はお約束通り、永遠の愛を誓ったのです」
「・・・」
こういう女性を『重い』とか言って揶揄する人もいるだろうけど、俺は嬉しいとしか感じない。
だって、
人を大事に思う気持ちの有り方は千差万別かもしれないが、その想いが向いている先は、皆同じだ。
その人に幸せになって欲しい。
これだけなのだから。
「エレナさんから何か言われませんでした?」
「今夜、部屋に来るって・・」
「お分かりでしょうけど、私の時みたいに無理をさせては駄目ですよ?」
「ああ、勿論」
「終わったらもう1人抱いてあげてください」
「え?」
「ミーナさん。
・・彼女は昨晩、起きていましたよ?」
「・・・」
「私の方から話を通しておきますので、エレナさんが意識を手放したら、お願いしますね?」
「・・分った」
「皆の初体験が済んだら、今後は浴室での訓練の際、一緒に行った方が良い気が致します。
どうせ発情するのですから、その方が時間の節約にもなって合理的です。
魔力循環に加えて、修様の精液を子宮に直に浴びれば、かなりの速度で能力値や魔力量が上がっていくでしょう。
ベッドを使って皆でじっくりと楽しむのは、週に1度くらいで十分だと思います。
修様以外、皆暫く動けないでしょうからね。
後で、特大のベッドを3つくらい購入して、空き部屋に設置しておきます」
「何から何まで任せて済まない」
「私は修様の部下ですし、あなたの大事なものを頂いた、たった1人の女性ですから、これくらいして当たり前です。
・・そう言えば、あの時薬を飲みませんでしたが、もしできてしまった時は、責任を持って育てますので」
「ああ、言い忘れていた。
実は俺のレアスキルに避妊の効果を持たせるものがあってさ、それを使うと、子供の代わりにスキルを孕むんだ。
俺の持つ通常スキルからのランダムなんだけど、サリーには今の所『体術』しか渡してあげられない」
「・・修様、本当にでたらめですね。
いっそハーレム王国でも作りますか?」
サリーが苦笑いする。
「いや、そんなに沢山囲っても、なかなか順番が回ってこないから、女性達に失礼だろ?
それに、体だけが目的で、恋人を作りたくはないから」
「1日12人くらい相手にすれば、直ぐに順番が回ってきますけど。
相当強力な軍隊ができそうですよ?」
「はは、勘弁して」
カコ村に着くと、直ぐにジーナさんに返事をしに行く。
何だか村の雰囲気が明るい。
「こんにちは。
返事を伝えに来ました」
「西園寺様、お待ち致しておりました。
お連れの方はもしかして・・」
「ええ。
ダルシア家のサリーです。
あの戦いの後、俺の部下として働いてくれることになったんです。
村の中で色々と作業をして貰いますが、くれぐれも外部の人間には彼女の存在を漏らさないでください」
「では!?」
「この村を俺の自治領にします。
宜しくお願いします」
「はい!
・・有り難うございます」
ジーナさんが涙ぐむ。
「宜しく頼む。
俺達は全員でお前に付いていくよ」
「こら、ジーク、言葉に気を付けなさい。
西園寺様は、たった今からこの村のご領主様になられたのですよ?」
「構いませんよ。
俺に
まだ何の実績も挙げておりませんし、俺自体、堅苦しいのは苦手ですから」
「寛大なお言葉、感謝致します。
どうぞ中へお入りください」
テーブルに着くと、お茶を出してくれたので、こちらからも茶菓子を出して話を始める。
「では先ず、俺の方針からお話しします。
俺の資産からこの村に必要な物を提供し、皆さんの生活が軌道に乗るまで英気を養って貰います。
その間、村の住人を2つに分け、其々の役割を分担していただきます。
1つは、戦力増強のための訓練を担うグループ。
もう1つは、村を豊かにしていくための生産グループ。
戦力担当のグループは、自主的なものでない限り、生産には従事しなくて結構です。
その代わり、暫くは必死に訓練していただきます。
帝国からの攻撃にはできる限り俺自身が対処しますが、もし万が一、俺の造った防衛線を越えられた場合、俺が助けに行くまで持ちこたえていただかないといけませんから。
・・ここまでで何かご質問は?」
「グループ分けの人選は、こちらに任せていただけるのでしょうか?」
「勿論」
「でもそうしますと、戦闘要員を希望する者が少なくなる可能性が・・」
「別にそうなっても構いません。
強制ではなく、飽く迄も自主的に参加して貰いたいですし、皆さんの命に係わるかもしれない選択なので」
「税の方ですが、年率はどのくらいになりますでしょうか?」
「3年間は無税で結構です。
ただ、その間の皆さんの生活費は、其々の仕事の中で工面してください。
戦闘訓練を担うグループには、俺から1人当たり月に1500ギルを支給します。
その後は、村の発展具合を見てから税率を決めますが、5パーセントくらいになるかと思います」
「「!!!」」
「・・修様、安過ぎると思います」
「そう?
別にこの村で儲けようとは考えていないから、初期費用が回収できればそれで良いんだけど。
・・因みに、この村のこれまでの税率は何パーセントだったのですか?」
2人の顔を見る。
「40パーセントです」
「・・
こんな
「それでよく暮らしていけましたね」
「お祭りも開けなければ、週の半分は日に2食も食べられませんでしたから」
「・・・。
税率は5パーセント以上にはしません。
それから、ここを治めていた前領主は誰ですか?」
「トルソー男爵です」
感極まって言葉を発せられない2人に代わって、サリーが教えてくれる。
そいつには真っ先にお仕置きしないとな。
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