第70話

 「お話は理解しました。

前向きに検討しますが、さすがにこの場で即答はできません。

仲間との相談もありますし、明確なお返事は明日まで待っていただけますか?」


「分りました。

この段階で拒否されずに済んで、ほっと致しました」


「それで、そのお返事をするためにも、今からこの村をざっと案内していただけませんか?」


「私はこの後も畑に出るので、ジークに案内させましょう」


ジークさんて、まだ10代後半にしか見えないけど、働かないのかな?


「息子は農作業に向いてないんですよ。

開墾くらいなら問題ないのですが・・」


俺の考えを読んだかのように、ジーナさんが苦笑いする。


「その分、村の治安維持を担っている。

この村には、結構魔物が入ってくるからな。

どういう訳か、最近はあまり見かけないが」


俺が村の周囲の森で、粗方狩ってしまったからかな。


弱い魔物なら、まだ居るよ。


「ではジークさんにお願いします」


出してくれたお茶を飲み、代わりに彼女にお茶菓子を渡して、家の外に出た。



 「先ずは畑で何を栽培しているか聴きたい」


歩きながら、ジークと話をする。


「小麦、人参、玉葱、白芋だな。

人参は馬の餌にもなるから」


「馬?

馬が居たのか?」


確かに厩舎らしき建物はあったが、中には1頭もいなかったはず。


「帝国の役人や軍隊が滞在した時用に、ある程度は確保しておかないといけないんだ」


「もしかして、馬の世話ができるのか?」


「ああ。

乗馬もそれなりにはな」


______________________________________


名前 ジーク(18)


パーソナルデータ 力I 体力I 精神J 器用J 敏捷J 魔法耐性J


スキル 乗馬J 長剣J 


魔法


ジョブ 村長の一人息子


______________________________________


成程。


しかし、ほとんどJばかりだな。


「じゃあ、後で森に馬を捕まえにでも行くか?

帝国騎士が乗っていた馬の大半が逃げたから、魔物に食われてなければ見つかるだろう」


「本当か!?

それは是非欲しい。

馬は貴重なんだ」


「分った。

視察を終えたら捕まえに行こう」


畑を実際に見せて貰った。


う~ん、ミーナに教わって作った俺の畑の方が、出来が良い気がする。


まあ、作物はそれなりに育っているようだが。


次に村内の施設。


鍛冶屋はあるが、材料に事欠いている。


先程覗こうとした雑貨屋は、品数が少なく、どれも貧相。


宿屋も見せて貰ったが、部屋数はあるが、粗末なベッドとテーブル、椅子しかない。


これでは食事の方も期待できないな。


公衆浴場はなかった。


まあ、これはニエの村にも1つしかなかったから仕方がない。


それも、週に3回しか営業していなかった。


村人に魔法を使える人がいなかったから、薪でお湯を作るため、そう頻繁には入れないようだった。


大勢が入る浴槽だと、使うお湯の量が半端じゃないものな。


暇な時は、俺が手伝ってやろうと思っていたくらいだ。


ただ、ミーナによると、実家には小さなお風呂場があって、森で薪を拾ってくれば、彼女は好きな時に入れたらしい。


村長の家だしな。


それくらいの特権はあるのだろう。


大半の村人は、浴場が開いた時に入るか、近くの川で水を浴びる程度なのだそうだ。


「風呂はどうしてるんだ?」


「そんな物に入れるのは、貴族か金持ちだけだ。

それ以外の者は、湯を沸かして身体を拭くか、川か井戸で水を浴びるのがせいぜいだな」


う~ん、衛生面は最優先で何とかしないといけないな。


「・・大体分った。

じゃあ馬を捕まえに行こう。

ロープを3本用意できるかな?」


「ああ。

一旦家に戻ろう」


自宅に戻ったジークは、武装して、丸く巻いたロープを3つ持ってくる。


「・・ちょっと剣を抜いてみてくれるか?」


「?」


言われるままに、彼が鞘から剣を抜く。


手入れはしてあるものの、案の定、あまり良い剣ではない。


「これをやるよ」


【アイテムボックス】を開き、帝国兵から奪った長剣を出して、彼に渡す。


「!

良いのか?」


「ああ。

その剣だと、いずれ折れるだろうからな」


『マッピング』を起動させながら、森に入って行く。


青い点は思った以上にある。


手近な所から捕まえに行き、首にロープを掛けて、村まで連れて行く。


馬達は、最初は抵抗するものの、俺が目を見ながら圧力を掛けると直ぐに大人しくなった。


因みに、ジークの敏捷では森の中でも1人で捕まえるのは困難で、もっぱら俺が捕まえた馬を村まで運ぶ役割を果たした。


くらが付いている馬がほとんどだったので、彼は騎乗して村まで運んでいたから、3時間くらいでも9頭の馬を確保でき、ほくほく顔だった。


日が傾いてきたので、今日はこのくらいにして帰る。


村長さんの家に戻ると、ジーナさんも畑から戻っていて、厩舎に馬が多数繋がれていることに、村中が騒いでいると教えてくれた。


「あの馬達は、食べるよりも繁殖させて増やした方が良いですよ。

あの中に、良い能力を持った馬が2頭居ます」


「そうか。

3頭くらいは捌こうかと考えていたんだが、止めにするよ」


「やはり食料が足りないのですか?」


ジーナさんの顔を見る。


「帝国軍が備蓄の大半を持って行ってしまいましたから・・。

もう彼らに税を支払う気はありませんので、飢えることはないですが」


「馬を捌けるのなら、魔物も捌けますよね?」


「それはまあ、こんな場所で暮らしておりますので」


「では、この村にこれを提供します」


外に出て、玄関の横にハイオークの死体を3体出す。


「宜しいのですか?」


「ええ。

村の皆で食べてください」


「有り難うございます。

皆喜びます」


「では、今日はこれで失礼します。

明日の昼前には、お返事をお持ちしますから」


「分りました」


「色々と助かった。

たとえこちらの提案を受けなくても、お前なら何時でも歓迎するよ」


ジークが手を差し出してくる。


俺はそれを、躊躇ためらいなく握り締めた。

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