第69話

 「王国軍は攻めては来ません。

と言うか、王国は、帝国と戦争があったことすら認識してないです」


「どういう事だ?」


「あの戦いは、王国とは無関係。

あくまで個人的なものだったからです」


「個人的だと!?」


「そうです。

王国の砦を越えた先に在る村、ニエの村での略奪をさせないため、立ち上がったに過ぎません」


「・・本気で言っているのか?

高が1つの村のために、帝国とたった1人で戦争したと?」


「そうなりますね」


「・・時間があるなら、おふくろに会ってくれないか?

今は畑に出ているが、そろそろ帰って来る。

お前に頼みたい事があるんだ」


「会うのは別に構いませんが、頼みとは?」


「この村をざっと見て、お前はどう思った?」


忌憚きたんのない発言をするなら、只の小村ですね。

取り立てて特産になるような物は見当たらなかったし、村の雰囲気自体も寂れてます」


「ま、そう思うよな」


ジークは苦笑いする。


「ここは国境付近だから、帝国としても取れる選択肢は2つしかない。

防衛拠点として発展させるか、王国軍が帝国領内に深く入り込むことを遅らせるだけの捨て駒か。

・・その答えは明らかだがな」


「それで?」


「勿論、このままで良いとは俺達も考えていない。

戦争が始まれば、真っ先に被害を被るのはこの村だ。

王国からも、帝国側からも、略奪や支援の名目で金や物資をむしり取られる」


「・・・」


「先日の戦いでも、やっと蓄えた食料をほとんど供出させられた。

しかも、税とは別にだ。

そんな中で、一部には諦めの様子も見られるものの、必死に踠く奴だって少なからず居るんだ。

・・お前に、そういう奴らを助けて欲しい。

何かをしたくても、その方法が分らない。

先立つ物がない。

そんな者達に、どうか手を差し伸べてはくれまいか?」


「あら、お客さんかい?」


女性の声に振り向くと、玄関先でこちらを見ている人が居る。


「おふくろ、ちょうど良かった。

今大事な話をしていたんだ。

話に加わってくれ」


「・・ちょっと待ってね」


その女性は家の中に入って来ると、手や顔を洗い、奥の部屋に着替えに行った。


3分も経たずに、野良着から普段着に着替えた女性が現れる。


「お前ったら、相手の方にお茶も出さずに・・。

済みません、直ぐにお淹れしますね」


「どうぞお構いなく」


湯を沸かし、彼女がお茶を淹れる間、失礼ながら家の中を眺める。


同じ村長でも、ミーナの家の方が遥かに豊かだ。


家の大きさ自体はそれ程違わないが、置かれている家具や、使われている食器や道具にかなりの差がある。


「あまり良い物を使っていると、直ぐに帝国の役人に持っていかれちまうからな」


俺の考えている事が分ったのか、ジークがそう口にした。


「お待たせしました。

あまり良い茶葉ではございませんが、どうぞ」


「あの、俺は貴族ではないんで、敬語は使わないでください」


「あら?

そうなんですか?

品があるから、てっきり・・。

ではこの村に何をしに?」


俺を徴税官とでも勘違いしたのだろうか?


「只の観光です。

帝国の町を見に行こうかと思いまして、その途中にこの村が在ったので寄らせて貰いました」


「おふくろ、こいつは例の男だ」


「!!!」


ん?


彼女の顔つきが変わったな。


「初めまして。

この村の村長を務めております、ジーナと申します」


姿勢を正した彼女が、礼儀正しく挨拶してくる。


「俺は西園寺修、王国で冒険者をしています。

まだ駆け出しのFランクですが」


「嘘だろ!?

万の軍勢を蹴散らしたお前がF!?」


「・・王国の方は、皆それ程にお強いのですか?」


「いいえ。

恐らくですが、俺は王国内でもかなり強い方ではないかと・・」


「安心致しました。

私がこれからお願いする事には、均一の武力集団より、突出した個の力の方が都合が良いので」


「先程、息子さんからお願いされた内容と同じでしょうか?」


ジーナさんがジークを見る。


彼が黙って頷いた。


「少しだけ違います。

西園寺様、あなたにこの村を治めていただきたいのです」


「・・は?

俺にここの村長になれと言っているのですか?」


「いいえ、違います。

村長はこれまで通り私が務めます。

西園寺様には、この村を治めるご領主様になっていただきたいのです」


「・・つまり、この村は帝国から独立したい訳ですね?

それでその隠れみのとして、俺を使いたいと」


「有りていに言えばそうです。

私達の村はあなたに占領され、仕方なくその統治を受けている。

表向きにはそういう事にして、私達が力を付けるまで、帝国からの反感を少しでも逸らしたい」


「・・・」


「随分と都合の良いことを言っているのは承知しています。

ですが、もう私達は帝国の搾取さくしゅに我慢できない。

民とは本来、自分達を護ってくれるからこそ、その支配者に対して税を支払う義務を負うもの。

なのに帝国は、一方的に搾取するだけで、決して私達を護ろうとはしない。

それなら、私達も彼らに従う道理はない。

そう思いませんか?」


「筋は通ってますね。

でも、俺があなた達を護る理由にはならない」


「勿論です。

だから私達は、あなたに忠誠を誓います。

あなたに従います。

この村を護ってくれるなら、村人の生活を保障してくださるのなら、どんな事でも受け入れます。

満足される税を納められるのはまだ先になりますが、労働力を出します。

お望みなら、村の娘から希望者を募り、あなたに奉仕させます。

あなたなら、きっと応募が殺到するでしょう」


大変魅力的ではあるのですが、最後のはちょっと・・。

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