第68話

 ミーナとエミリーも同じ家で暮らすようになり、俺の新居はすっかり華やかになった。


女性達が自主的に決めたルールは、なるべく皆一緒に入浴するというものだ。


うちの入浴は訓練の場でもあるため、俺の時間的な負担を減らそうという配慮らしい。


複数と1回2時間も入っていたら、俺の自由時間が半減してしまうから、これは歓迎すべきことだ。


ただ、その1回の入浴時間が3時間になってしまった。


皆で手を繋いで行う訓練は、俺の右隣に座る人が毎回異なる。


俺から直接魔力を流される人が、最も刺激が強いからだ。


最初は隣に座る人によって流す魔力量を変えようとしたが、それではサリーのような魔力量の多い人の訓練に影響が出るので、毎回一律に流し込み、途中で脱落した人を除きながら繰り返すことになった。


嬌声を上げ、俺に全身を擦り付けながら果てた人は、そのまま自分の身体を洗って風呂から上がって貰い、残った人で訓練を繰り返す内、最後には1番魔力が高いサリーと2人だけになるから、そこで強めに流して彼女の強化も図る。


女性全員が皆の前で己の痴態を晒すから、必然的に彼女達の結束を強め、秘密を共有する習慣がつく。


お互いの遠慮がなくなり、其々の仲も良くなるから、一石二鳥だった。


食事に関しては、朝と昼は各自で自由に取り、夕食だけマーサさんの店に全員で行く。


何らかの予定でそれができない人は、俺が飲み物だけ頼んで、その人の食事に付き合う。


あそこで彼女達が夜に1人で食べていたら、ほぼ間違いなく、常連以外の者からナンパされる。


マーサさんがそれとなく助けてくれるだろうが、彼女にそんな手間をかけさせたくはない。


エレナさんが俺と知り合う前に1人でも平気だったのは、彼女は元騎士団員であり、今は冒険者ギルドの顔とも言うべき受付嬢だからだ。


なお、女性全員に、仕事の報酬とは別に、月々の生活費として金貨1枚を渡すことにしている。


当然、彼女達の税金も夕食代も、俺が全て支払う。


ミーナは額の大きさに躊躇して遠慮しようとしたが、彼女こそこの町で購入すべき私物は多いので、半ば強制的に納得して貰った。


上記の結果、俺の自由時間は、入浴後から朝エレナさん達が出勤するまでの約10時間くらいと、その後、彼女達の勤務が終わるまでの約8時間程度、合わせて約18時間になった。


ミーナは仕事に就いていないので、俺との探索や、自身の勉強に専念して貰う。


サリーも予定がない昼間は、俺の探索に同行したいと言ってきた。


そんな俺達の、極普通の生活が始まった。



 俺は今、1人で帝国領まで来ていた。


自分が造った妨害線の先、サリーに名前を教えて貰ったカコ村という場所に。


理由は勿論、帝国軍の動向を探るためだ。


わざわざ王国まで遠征軍を送ってきたのだ。


こちらは皇子まで殺しているし、あれ1度で終わるはずがないというのがサリーとの共通認識だ。


村に入らずに先へ進むこともできたが、偵察も兼ねて中に入る。


サリーから事前に情報を得ていたから、必要な場所だけ覗いてみる。


先ず村長の家。


客が滞在している様子はない。


次いで粗末な宿屋。


ここにも誰かが泊っているようには見えない。


受付の男は居眠りをしていた。


それにしても不用心だ。


集落自体は二百数十くらいの小村だが、一応は国境に1番近い村だろうに。


「この村に何か用か?

お前、余所者だろ?」


村で唯一の雑貨屋を覗こうとしたら、いきなりそう声をかけられる。


振り向くと、若い男が立っていた。


「確かに余所者ですが、それが何か?」


「何処から来た?」


「王国領からです」


「!!!」


「帝国に観光に行く序でに立ち寄っただけですが、まずかったですか?」


「ちょっと来い」


腕を摑まれそうになったので、さっと避ける。


「別に逃げるつもりはないですし、用があるなら付いて行きますよ」


「・・こっちだ」


少しむっとした男が歩き出す。


向かった先は、先程覗いた村長の家だった。


「お前、さっき覗いてたよな?

何が知りたい?」


玄関から直ぐの場所にあるテーブルに座ると、男がそう切り出す。


「そう言うあなたは、この村の村長さんですか?」


「村長はおふくろで、俺はその息子のジークだ」


「俺は修と言います。

村を見て回っていたのは、単に初めて来た場所だったからで・・」


「嘘を吐くな。

たった1人で、王国の人間が帝国領に入るなんてあり得ない。

本当の目的は偵察か?」


「・・・」


「少し前、この付近で戦闘があった。

帝国兵だけで1万を超える大規模なものだ。

だが結果は帝国の惨敗。

逃げ帰る兵士の1人が、行きに世話をしてやった俺に話した事がある。

『相手はたった1人だった』と」


「・・さすがにそれは誇張では?

1万の兵に勝てるはずがないでしょう」


「俺だって信じなかった。

だが、王国軍はこの村で略奪行為をしなかった。

と言うか、村に訪れもしなかった。

普通なら、勝者は敗者の領地で何かしらの収入を得ようとするものだ。

戦争は金が掛かるからな。

1人というのが本当なら、辻褄が合う」


「王国軍は紳士だからでしょう」


「帝国軍だって・・いや、そうでもないか。

何も要求しなかった幹部は、サリーという凄い美人だけだったからな」


さすがはサリー。


「仮に敵が1人だったとして、それと俺に何の関係が?」


「・・似ているんだよ。

その兵士が言い残した相手の特徴と、お前の容貌がさ」


「・・・」


「勘違いしないでくれ。

俺はお前と敵対するつもりなんてない。

万の軍勢をたった1人で蹴散らす奴なんかと、戦っても無駄だからな。

ただ、情報が欲しいんだ。

王国軍は、この村に進攻してくるのか?」


一瞬、どう対応しようか考えた。


しらを切ることもできたが、こいつはかなりの確率で俺が当事者だと考えている節がある。


・・敵陣に味方を作る好機かもしれない。


俺はそう判断した。

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