第65話
「ここが修の家!?
確かに大きいけれど、窓が見当たらないし、まるで要塞みたいな造りね」
あの後、『折角だから、家を見せていただいたら?』と気を遣ってくれた院長先生の言葉もあって、エミリーを連れて家に帰って来た。
「分り辛いかもしれないけれど、内側から開ける窓はあるんだよ。
秘密の塊のような場所だから、敢えてこういう造りにしたんだ」
「秘密?」
「中で説明するよ。
取り敢えず入って」
彼女を家に入れ、内部を案内する。
「・・修、あなた本当は貴族なの?」
浴室を見せた時、やはりそんな感想を漏らされた。
「違うよ。
単に1番気合を入れて造ったというだけ」
「・・エッチ」
「誤解だから。
訓練、飽く迄も訓練のため。
それにお風呂はそれだけのために入るものじゃないでしょ」
「・・そう言えば、今日はまだお風呂に入ってないな。
ここで入っていっても良い?」
「良いけど、時間は大丈夫なの?」
「夜までに帰れば問題ないわ。
母からは、泊まっても良いと言われてる」
そう言いながら、彼女は既に服を脱ぎ始めている。
慌てて浴槽に湯を張り始めた。
何故か俺も一緒に入ることになった入浴兼訓練の時間も終わり、艶々した肌を半ば晒して髪を拭くエミリーに、ニエの村でやって欲しい仕事について説明する。
「回復魔法を教えて欲しい?
・・そこの村人に?」
「うん。
当然女性だけね。
それも希望者だけで良いから。
暇な時は村人の治療でもしてくれれば有難い」
「確かミーナさんが住んでいる村よね?」
「そう。
彼女はもう直ぐここで住み始めるけどね」
「修の頼みだから引き受けるけど、何で?」
「あの村には、魔法を使える人が誰もいないみたいなんだ。
潜在能力がある人はきっといるだろうけど、如何せん、それを引き出せる人がいない。
怪我をしても、危険を冒して森まで薬草を取りに行かねばならないし、生活魔法すら使えないから、陽射しを頼りに暮らすしかない。
それを悪いとは言わないけれど、せめて向上心の有る人には応えてあげたいんだ」
エミリーの、髪を拭く動きが止まる。
「・・この国では、誰もが皆、好きな場所で暮らせる訳ではない。
やりたい事があっても、行きたい場所や就きたい職業を持っていても、それを大事に心の中に終い込むことしかできない人も多い。
だから・・」
「分ったわ。
そういうことなら全力で頑張る。
魔法だけじゃなくて、文字の読み書きまで面倒見てあげる。
・・孤児院でもそうだった。
才能の有りそうな
・・今日さ、私の結納金代わりにと、修が凄い金額を寄付してくれたでしょう?
あれ、私もだけど、母にとってはかなり嬉しかったのよ。
彼女はずっと我慢してた。
私の倍以上の年月を、ずっと耐え忍んでいた。
修、あなたのお陰で、やっと今日、その苦しみから救われたの」
タオルの隙間から覗くエミリーの瞳は、とても魅力的だった。
穏やかで、優しくて、それでいて嬉しさに溢れている。
俺の両親も、こんな感じを味わったのだろうか?
向けられた感謝の念に胸を張れる。
2人があれ程までに仕事に打ち込んでいた理由が、真に理解できた気がした。
「でもさ、どうやってあそこまで移動するの?
1日で往復なんて、馬車でも無理じゃない?
そこで仕事もする訳だしさ」
「それがこの家に隠された秘密でもあるんだ。
今から話すことは、絶対に他言無用だ。
俺の許可なく、たとえ院長先生であろうと話さないでくれ」
「・・分ったわ」
「本来ならこの足で村まで向かうところだけど、君はまだそんな恰好だし、話だけにしておく」
上半身裸だしね。
「この家のとある部屋には、転移魔法陣がある。
それを使えば、瞬時にニエの村まで跳べるんだ。
だから君は、朝この家から村まで出勤して、夜になったら向こう側の転移魔法陣を使ってここまで帰って来るだけ。
あちらに泊まる必要はない。
その翌日は、ここから修道院まで歩いて通う。
その繰り返しだね」
「転移魔法陣?
・・そんな物が本当にあるの?」
何だか胡散臭そうな顔で見られる。
「ある。
ただ、その使用には必ず俺の同伴が必要になるんだ。
俺がいないと起動しないし、俺にしかその魔法陣は見えない」
「ここに住んでる他の人達は、その事を知っているの?」
「勿論。
実際に体験して貰っている」
エレナさんも、説明した時に1度体験して貰った。
「成程ねえ。
修の稼ぎが異様に良い理由が分った気がするわ」
「『時は金なり』、そのまんまだろ?」
「それだけが原因とは思わないけどね。
あなたの魔法習得速度は絶対におかしいもの」
「・・あのさ、いい加減に服を着れば?」
先程から、彼女の巨大な胸が視界内で揺れ動いて、目のやり場に困る。
「気になるの?
もう散々見てきたじゃない。
感触だって、十分に知り尽くしているでしょ?」
ニヤニヤしながらそう
「もしそんなに直ぐに飽きるのであれば、君と夫婦になったところで、長続きしないと思うけど?」
「・・それは嫌だわ。
分った。
必要以上に見せないようにする」
慌てて下着を身に付ける彼女。
取り敢えず、これで1人は魔法教師を確保できた。
後はギルドでの募集に応募があるかどうかだな。
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