第62話

 昨夜事前に確かめていた、エレナさんの出勤時間前に家に戻ると、既に女性2人は起きていて、朝食を取っていた。


今日は夕食の時間までニエの村で過ごすことを彼女達に伝える際、ミーナとエミリーについてもきちんと話をした。


距離的なものを心配するエレナさんには、転移魔法陣のことをざっと伝え、『後でじっくりと聴かせてね』と、圧のある笑顔で微笑まれた。


サリーには当座の生活費だと言って、金貨100枚を渡しておく。


この家には、カーテンなど、まだ足りない物が多いので、俺が外に出ている間、彼女に揃えて貰うことにする。


『修君、まだFランクなのに、そんなに稼いでるんだ』と、エレナさんはびっくりしていた。


『早く更新してくださいね』と、お小言も頂戴する。


Fランクだと、頼みたい仕事があっても、ランク制限で引っかかるのだそうだ。


護衛に残していたレッドスライムは、2人に凄く気に入られていたので、そのまま留守番に置いていく。


3人で一緒に家を出た。



 「おはようございます」


ミーナの家を訪れ、お茶を飲んでいたタナさんに挨拶する。


「おはよう婿殿。

ミーナなら、もう畑に出てるよ」


「いつも思いますが、皆さん、朝早いですよね」


「その分、夜も早いからね。

余計な油を使わないよう、御天道様おてんとさまと一緒に暮らしてるのさ」


「生活魔法を覚えなかったのですか?」


「本を読もうにも、難しい文字は読めなかったからねえ。

かといって、この村には魔法を教えられる人もいないから」


お茶を出してくれたので、こちらも茶菓子を出しながら、話を続ける。


「これだけ大きな村なのに、1人もいないんですか?」


「素質のある子は居るだろうが、如何せん、誰かがその子に教えなければ、後に続かないからね」


「・・・。

あの、俺、ゼルフィードの町に自分の家を持ったんです。

それで、ご家族の方の反対がなければ、ミーナをそこに受け入れようと考えています。

勿論、その結果生じる労働力の不足分については、こちらで人を雇おうと思っていました。

今回のお話を聴いて、それに加えて魔法の教師をこの村に派遣しようと思いますが、如何でしょうか?

当然、全ての費用は俺が出します」


「頼もしい婿殿だとは思っていたけど、まさかそれ程の稼ぎがあったとはねえ。

・・反対なんかさせないよ。

ミーナはまだ若い。

できれば都会で暮らさせ、多くの事を学ばせたい。

跡継ぎを作るのは、それからでも遅くはないさ」


「有り難うございます」


「でもまあ、できちゃったらしょうがないね。

うちで育ててやるから、安心して励んでおくれ。

乳母を雇うなんて、この村では簡単だからさ」


そう言って、タナさんに微笑まれる。


「・・そればかりは、こうのとりのご機嫌次第でありまして」


「?」


さすがに通じなかった。



 その後、具体的な話をタナさんと詰め、お昼になるまで自分の畑に出た。


ある程度は放置していても勝手に育つので、更に開墾を進める。


ミーナがお昼を持って来てくれた時には、農地がもう1000坪ほど増えていた。


「修さん、有り難うございます」


弁当を渡されながら、彼女にそう言われる。


「勝手に決めちゃったみたいで、御免ね」


「とんでもない。

私、凄く嬉しいですよ?」


「家族と離れるのは寂しくない?」


「もう子供じゃありませんから大丈夫です」


親が生きている間に、できるだけ思い出を増やしてあげたいけれど、今は・・。


「まあ、向こうで暮らしても、用事ができれば直ぐに戻してあげられるから」


「?」


「以前、代償の話をしたよね。

それを今から教えてあげる」


弁当を食べ終えると、俺はミーナを転移魔法陣のある場所まで連れて行く。


そして2人でゼルフィードの町まで跳んだ。


「!!!」


やっぱり驚くよな。


少し先に、いきなり大きな町が現れたのだから。


「今のは転移と言って、瞬時に別の場所まで跳べる魔法なんだ」


「・・修さんの魔法なんですか?」


「正確には違う。

代償を支払うことで、好きな場所を行き来できるだけ」


「それでも凄いことですよ!

こんな話、聞いたことありません」


「これから一緒に暮らしていく人達以外には、まだ内緒ね」


「はい、勿論」


序でなので、俺の新居にも案内し、彼女の部屋を決める。


「わあ、素敵なお家ですね。

お部屋も広い」


レッドスライムを見て、『随分大きくなったね』と言って撫でている。


「取って置きの場所に案内するよ」


自慢の浴室に彼女を連れて行く。


「・・ここ、お風呂場ですよね?」


呆気にとられた様子の彼女を見て、内心でガッツポーズする俺。


「時間があるなら、今から入る?

訓練もできるから」


「良いんですか?」


「勿論。

今、お湯を張るね」


その後、体を洗うことを含めて、2時間近く入浴を楽しむ。


俺の腕の中で、身体をビクンビクンと跳ねさせる彼女を見ながら、『もう大分魔力が増えてきたな』と感じるのだった。



 ゆっくりし過ぎたせいで、入浴後に涼んでいたところに、サリーが帰って来る。


ミーナを見て少し目を見開いたが、直ぐに微笑んで彼女に挨拶する。


「初めまして。

修様の部下で、サリーと申します」


「こ、こんにちは。

ニエの村の村長の娘で、ミーナと言います。

宜しくお願いします」


「かわいらしい方ですね。

今日からこの家に?」


俺を見ながらそう尋ねてくる。


「さすがに今日は、家の紹介だけ。

でも近い内にはここで皆と暮らすことになる」


「なら彼女のお部屋の内装も、直ぐに準備致しますね。

ベッドや衣装ケースもご入用ですか?」


「どうなのかな?」


ミーナの実家で彼女の部屋に入ったことがないから、一応そう尋ねてみる。


「実家ではお布団で寝ていましたが、ベッドが頂けるなら、その方が良いです。

実は憧れだったんです」


恥ずかしそうに、そう告げるミーナ。


「衣装ケースは?」


「・・そんな物が必要になるほど、衣類を持っている訳ではないので。

箪笥たんすの引き出し1つ分しかありませんから」


「これから沢山増えますよ。

修様の家に住めば、それなりのお付き合いが増えるでしょうから」


「なら購入しておいた方が良いね。

・・他に何か希望ある?」


「本棚が欲しいです。

それから、勉強するための机も。

実家にもあるのですが、大分傷んできているので、あの新しいお部屋には似合わないと・・」


「分った。

購入しておくね」


「あの、代金ですが、働いて少しずつお返し致しますので・・」


「必要ないよ。

ミーナをここへ連れてくるのは、飽くまでも俺の我儘わがままだ。

君には一切の負担をかけない。

生活費も支給するから、お金に関しての心配は無用だよ」


「でも・・」


「ミーナは俺の妻の1人になりたいんだよね?

旦那が甲斐性無しで良いの?」


「お金の有る無しだけが、その人の魅力ではありません。

私は修さんの全てが好きです。

その凛々りりしいお顔、優しい性格、優秀な能力、そして逞しいお体。

だから、たとえ修さんに甲斐性が無くても、私が頑張って働きますから」


・・俺、本当に一生分の運を使い切ってない?


源さんといい、どうして俺にこんな素敵な達が集まるのか、不思議でしょうがない。


でも、体のことに言及した時、頬に手を添えて顔を赤らめたのは、何で?

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