第61話

 数時間も進むと、マップ上にダンジョンの印が現れる。


未だ『護りの迷宮』しか知らない俺は、わくわくしながらそれに近付いて行く。


オルトナ大森林における転移魔法陣をこの付近に移し、早速中に入ってみる。


「あれ?」


何だかイメージしていたものと違う。


『護りの迷宮』みたいに整然とした感じではなく、自然発生に近い不規則さが垣間見える。


もしかして、『迷宮』と名の付くものは、運営が何らかの目的を持って人工的に造った代物で、『ダンジョン』は偶然生まれた産物なのかもしれない。


そうであるならば、ここで魔物を倒した際に、その死体が残るはずである。


最初に現れたキングスライムを倒すと、その死体が消え、後に何も残らない。


「う~ん、よく分らない。

死体が消えるということは、運営絡みの場所であるはずなんだが・・」


その後、6体目の魔物を倒した時に、初めてアイテムがドロップする。


「ポーション」


そう言えば、エレナさんが言っていた。


『魔石は迷宮でしか手に入らないから高価』だと。


『護りの迷宮』で戦った時、相手からは一切何もドロップしなかった。


それは多分、あの迷宮が俺専用の場所であり、イベントだったからではないだろうか?


恐らくだが、迷宮には2種類あり、俺専用のものと、一般に解放されているものが存在するのだろう。


俺専用の迷宮で何もドロップしないのは、そこで得られる報酬が破格だからと考えれば辻褄つじつまが合う。


その考えでいくと、ダンジョンにも種類があって、運営の手が入っているものと、自然発生的なものが在ってもおかしくない。


そしてここで期待できるのは、もしかしたら運営の管理するダンジョンでは、自然発生的なものと異なり、魔物が湧き放題かもしれないということだ。


レベル的なものは、戦い続ける間にどんどん実入りが減っていくであろうが、金銭的なものに限れば、ドロップする物によってはかなり美味しい場所になる。


「ポーションって幾らだっけ?」


そう口に出した時、エミリーの顔が浮かんだ。


そうだ。


ポーションはあの修道院の貴重な収入源。


それを俺が邪魔するなんてできない。


もし売るにしても、絶対に他国でないと駄目だな。


更なる検証のため、どんどん先に進んで魔物を倒していく。


暫く誰も入っていなかったからか、魔物の数が非常に多い。


運営の手が入ったダンジョンは、そこの魔物同士で争ったりしない。


生きるために他を襲って食べる必要がない。


襲うのは、外部からの侵入者だけだ。


何と無くだが、俺が『マッピング』で魔物を赤く見ているように、彼らも侵入者達をそう見ているのかもしれないと思った。


『名称:ハイコボルト

ランク:J

ドロップ:樫の杖』


魔法を使う魔物が出て来た。


俺に向けてファイアボールを撃ってくる。


避けることもできたが、検証のためにわざと受けた。


というのも、先の帝国軍との戦いの際、乱戦状態で戦っていた俺は、何発もの魔法を浴びた。


当然、その中には火魔法もあった。


けれど、俺の体は勿論のこと、衣服すら燃えることはなかったのだ。


それを基に俺は、自身の魔法耐性が相手の魔力より高いと、一切のダメージを負わないという仮説を立てた。


結果を見ると、やはりその仮説が正しかったようである。


ある意味ほっとした。


だって、魔法的には大した事ないのに、それが衣服に点いて燃えるようなことがあれば、安心して戦えない。


戦闘中に装備以外が丸裸になれば、恥ずかしくて逃げる以外にない。


後は、魔法ではなく、自然発生的な火や水の場合ならどうかということだが、これは検証するまでもないだろう。


それすら弾いてしまっては、まともに生活できない。


ほっとしながら相手を倒すと、その消滅と引き換えに、かしの杖を落とした。


あまり高くは売れなさそうな気がする。


先に進む。


1階層はそれ程広くはなく、1時間もしないで2階層へ。


そこではIランクのゴブリンジェネラルとゴブリンプリンセスが出て来て、其々鋼の剣と銀の杖を落とした。


と言っても、そのドロップ率は恐ろしく低くて、1パーセントにも満たない。


其々300は倒したはずだが、入手できたのは1本ずつだけだ。


うんざりして3階層へ。


『名称:ゴブリンキング

ランク:H

ドロップ:金塊』


おお、良いじゃないか!


『名称:ゴブリンクイーン

ランク:H

ドロップ:エメラルドの杖』


素晴らしい!


・・そう思っていたのに。


一体どれだけ倒しただろう。


全部で700以上は倒したと思うが、ドロップしたのは金塊1つだけ。


しかもこの金塊、1キロのインゴットではなく、500グラムのやつだった。


諦めて最下層へ。


そこに居たのは、かなり大型のゴブリン。


『名称:ゴブリンエンペラー

ランク:G

ドロップ:白金貨10枚(1回限り)』


戦う前から戦意が喪失しそうになる。


1回限り?


それって、誰かが既に得ていたら、今後幾ら倒しても何も得られないということ?


俺を見て、向こうから襲ってきたので、仕方なく応戦する。


なかなか強かったが、体術で戦った俺の敵ではない。


そう思った時、消滅した相手が何かを落とした。


「!!!」


白金貨10枚。


嘘、ほんとに?


大喜びでそれらを拾う。


何時の時代の白金貨かを確かめようとしたら、リンドル王国で通用している代物だった。


こういうのは、倒した者の時代や国によって、運営が変化させているのかもしれない。


いずれにせよ、もうこのダンジョンには暫く用がない。


各階でまた涌き出した魔物を無視しながら、さっさとダンジョンを出た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る