第2章 帝国との戦い
第60話
「お疲れ様。
これで宿屋暮らしとはおさらばだな」
「はい。
やっと伸び伸び暮らせますね」
俺達の家が完成し、サリーと2人で喜びを分かち合う。
この家の建造を通して大分土魔法に慣れた俺は、僅か2日でそのランクをJまで上げていた。
2階建ての家にしたので階段の段差なんかも俺が手掛け、窓にも
ガラス窓を使わず、壁面に丸い穴を開けて、そこにまた厚みのある石の板を被せ、それをスライドさせて開けるようにした。
防犯上の理由からである。
こうすると、内側からしか絶対に開けられないし、ガラスと違って割ることもできない。
太陽光が入り難いが、外から丸見えよりは遥かに良い。
換気は、サリーが風魔法で時々風を通してくれれば問題ない。
浴室に置く浴槽にはかなり拘った。
直径10メートルもある大きな円形の大理石製(この世界にもちゃんとあった)の物を購入したせいで、まるで貴族の浴室みたいだ。
勿論、浴室の広さは貴族屋敷に負けないくらいある。
職人街で偶然見つけたのだが、そこの主人が貴族用に造ったは良いが、全く売れずに倉庫の隅に長年放置されていた。
それはそうだ。
これだけの物を運ぶとしたら、相当な手間が掛かる。
屋敷を建造する際に、そこで組み立てた方が楽だ。
俺のように、【アイテムボックス】にポイっと入れれば済む問題ではない。
俺が買うと言ったら大喜びして、2割も負けてくれた。
値段は・・庶民の2年分の生活費に相当したけどね。
そう言えば、サリーには更に70年分の給料を前払いした。
前回10年分前払いしたから、これで彼女が100歳になるまで雇用できる。
金貨840枚を新たに渡されたサリーは、『私の遺骨まで修様の物になるのですね』と言って笑った。
帝国の高位貴族だった彼女には、このくらいのお金は大した額ではないだろうに、それでも嬉しそうに笑ってくれるから有難い。
『金額ではないんですよ』、彼女の目がそう語っているようだった。
エレナさんの仕事が終わるのを待って、彼女も食事に招待し、3人でお祝いの食事会をする。
場所は当然、『冒険者の胃袋』だ。
店で1番高いワインを2本も空け、ほろ酔い気分の女性2人を連れて新居に戻る。
新しい浴室で訓練をしたいと2人に言われたからだ。
「・・何これ?
貴族のお風呂より贅沢なんじゃない?」
浴室に入ったエレナさんの第一声がそれだった。
「ここは特に力を入れて造ったので・・」
「公衆浴場の個室が貧相に見えてしまいますよね」
後から入って来たサリーも、そう言って笑う。
「随分大きな浴槽だけど、一体何人で入るつもりなの?」
エレナさんが少し呆れている。
「大は小を兼ねると言いますから、大きい分には良いかなと・・」
「修様、エレナさんにもこの家で暮らしていただいたら如何ですか?」
「え?」
遠からずエレナさんにそう提案しようと考えていたが、まさかサリーに先に言われてしまうとは。
「良いの?」
エレナさんがサリーの顔を見る。
サリーがにっこり笑ってそれに頷く。
次にエレナさんは俺の顔を見た。
「家を建てると決めた時から、将来的にはお仲間の皆さんと一緒に住もうと考えておりましたので、お嫌でなければ是非」
「嫌な訳ないでしょ」
エレナさんが抱き付いてくる。
「では訓練が終わり次第、エレナさんの家に行って家財道具などの荷物を取ってきましょう。
お部屋の解約は、エレナさんがお休みの時になさってください」
「有り難う」
「これで毎日、3人で訓練ができますね」
サリーがそう言って喜んでいる。
・・毎日?
俺、大森林の探索もあるんだけど。
約2時間の訓練を終え、お酒のせいもあるのか、エレナさんの荷物を取りに行って、新たな家での部屋割りを決めると、女性2人は早々に床に就いた。
戸締りを確認すると、レッドスライムを彼女達の護衛に残して、俺1人で大森林の探索に出かける。
この所、あまり身体を動かしていなかったので、思う存分魔物を狩る。
素材にならない魔物でも、エルダーウルフの餌になる物なら積極的に狩り、どんどん食べさせた。
それと並行して、『何処でもお風呂』のスキルを入手するための特殊イベントもこなしていく。
既に大森林の結構深くまで入り込んでいるが、お金はともかく、武器や装備品はそれなりに落ちている。
大半は錆びて使い物にならないが、鍛冶屋に持って行けば多少の金額にはなるし、森が奇麗になっていくのは単純に嬉しい。
質の良い薬草も豊富で、意外とやる事は多い。
深夜だろうと、生活魔法の『照明』を覚えたので、濃い闇の中でも森の中を自由に歩ける。
サリーは、まさか俺が生活魔法を使えないとは思っていなかったらしく、夜になって、新居の部屋の明かりを蝋燭に頼ろうとした俺に酷く驚いていた。
高級宿には、ランプも、魔石を使った照明器具もあったからな。
今夜の浴室での訓練は、半分以上が俺が『照明』を覚えるために割かれたようなものだ。
エレナさんには『御免ね』と謝られた。
俺に魔法を教えた彼女は、当然俺が生活魔法を使えないのを知っていたはずだが、俺の魔法の上達速度が異常に速いので、そのことが頭からすっぽりと抜け落ちていたらしい。
本来、魔法を覚える順番として、生活魔法は最初にくることが多い。
空間に小さな光の玉を浮かべる『照明』、冒険者や兵士達が率先して覚えたがる『身体浄化』。
この2つは、あまり裕福な暮らしができない人や、屋外での生活を長く強いられる者にとっては必須に近い需要がある。
勿論、仮に覚えられたとしても、其々の魔力量によって効果に大きな差が出るから、例えば『身体浄化』の場合、体全体の汚れをある程度落とせる人もいれば、トイレに行った際、使用後に紙の代わりに掌をお尻に近付けて、極狭い範囲だけを奇麗にすることしかできない人もいる。
アイリスさんが俺のステータス画面を覗いた時、生活魔法がなかったことから、『こいつ、何処かのボンボンか、野営の経験がない、能力だけのひよっこだな』と思ったらしい。
今俺が使っている『照明』は、空中に浮かべる光の玉の大きさが、サリーの3倍以上ある。
これでもセーブしているのだが、マンホールの蓋くらいの直径があるので凄く明るいし、それに釣られるようにして魔物が寄って来る。
『名称:ソルジャーラミア
ランク:H
素材価値:なし』
長剣と盾を持ち、鋼の胸当てを装備した、ラミアの進化系が襲ってくる。
初めて見るし、レアかもしれないので、従魔にしようと狙ってみる。
『造作』を使って魔物の周囲を壁で囲み、自由に動けないようにして、正面から『ファイアボール』を連発する。
加減しているとはいえ、10発も入れると焦げた臭いを発しながら魔物がぐったりとする。
服従を迫ると、それでもそっぽを向いた。
少し考え、【アイテムボックス】から帝国兵が装備していた長剣と盾を取り出し、ソルジャーラミアに見せる。
彼女が持っていた長剣と盾は、どう見てもその辺で拾った安物の中古品だったからだ。
案の定、彼女はその装備を見て欲しがる素振りを見せた。
俺の従魔になればくれてやる。
雰囲気でそう伝えると、今度は素直に俺を受け入れた。
【魔物図鑑】を開いて確認する。
俺が渡した装備を構えた彼女が載っている。
その写真の横には、今現在の彼女の生命力(HPに相当するもの)が表示されている。
これを見れば、その従魔がどのくらい傷ついているのか一目で分る。
使役するなら、なるべく生命力が満タンになっているのが望ましい。
彼女は暫く休ませて、死体処理にはエルダーウルフを使い続けた。
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