第58話
夜が明けて、改めて騎士団本部に足を運ぶ。
直ぐにアイリスさんの執務室に通されて、色々と尋問を受けた。
「何であんな時間に外を出歩いていたんだ?」
「俺、不眠症なんですよ」
「ふざけてるのか?」
「事実です」
「・・それは大変だな。
私と結婚すれば、休日は一晩中相手をしてやるぞ」
「間に合ってます」
「先に礼から言っておこう。
お前が捕まえた賊、我々は通称『夜嵐』と呼んでいるが、奴らはもう10年以上この町を中心に荒らし回っていた凶賊でな。
そいつらは年に1、2回しか仕事をしない慎重派で、しかも事前に仲間の1人を狙った家や店の奉公人として働かせる徹底ぶりで、そいつが勤め先の信用を得た頃を見計らって押し入る手口だった。
これまでに、分っているだけで貴族家が4つ、大店が10も襲われ、その中には、王都の伯爵家も含まれる。
当然、賊を捕まえられない我々騎士団への風当たりも年々増していたんだ。
だから、非常に助かった。
有り難う」
「貴族家なんかは、奉公人を雇う前に、その者のステータス画面を調べないのですか?」
「当然調べるさ。
だがな、奴らはまだ仕事をしてない訓練状態の仲間を貴族家に送り込んだ。
だから貴族が襲われたのは初めの方だけだ。
大店へ送り込むのは意外と簡単だったらしい。
奴らは普段、この町の住人として非常に立派に暮らしていた。
ゴミ拾いや周辺の掃除なんかも自発的に行っていたそうだ。
狙った店には頻繁に買い物に行き、そこの主人達と仲良くなる。
『○○さんの紹介なら』、そう言わせて奉公人を雇わせるくらいにはな」
「随分と徹底してますね」
「そんな奴らだったが、最後の最後で悪運が尽きた。
あれを最後の仕事にし、その後は今まで蓄えた財宝を分配して解散するつもりだったらしいが、まさかお前に見つかるとはな」
「この町の治安に貢献できて嬉しいです」
「心にもないことを言うな」
「酷い」
「・・さて、ここからが本題だ。
どうやって神殿でステータス画面をごまかした?」
「俺は何もしていません」
「嘘を吐くな。
あの時、『鑑定』のレアスキルは表示されていなかった」
「逆にお尋ねしますが、女神様の恩恵であるシステムに、我々人間が干渉できるのですか?」
「・・・」
「俺は無実です。
事実と異なっていたことを黙っていたのは認めますが、それは罪にはならないはず。
だって、女神様がお間違えになるなんてあり得ないのですから」
「・・そうだな。
女神様は決してお間違えにならない。
分った。
この問題は私達2人だけの胸に終っておこう」
ふっ、勝った。
「お前が魔物を使役していたという情報もあるが、事実か?
そいつを使ってやつらの死体を処理したと聞いているが・・」
取り調べに必要だと思って生かしておいたが、やはりあいつらを殺しておくべきだったかな。
「事実です。
俺にはそういう能力もあります。
尤も、使役できる魔物はまだ2体だけですが・・」
「・・私はお前を、絶対に自分の夫にしてみせる」
彼女の瞳に炎が宿っている。
「職権乱用です。
それと、職務上知り得た秘密は、本人の同意なく絶対に他に漏らさないでください。
もし黙って公表したら、俺はこの町から出て行きますので」
「むっ。
それは駄目だ。
絶対に駄目。
お前は私の側に居ろ」
「そう言われてもな~。
信用できない人の側になんて居られないし」
「分った。
お前の秘密は誰にも漏らさない。
私の名にかけて誓おう。
必ず何か出てくると思って、取り調べは私1人で行ったから、お前の秘密が漏れる心配はない。
生き残った奴らは直ぐに縛り首だしな」
ふっ、また勝った。
「・・時に、あのアジトには相当な財宝が隠されていたはずなんだが、どういう訳か、それが全て失くなっていてな。
一体どうしてだと思う?」
「さあ?
彼らが出任せを言った可能性もありますね」
「・・・」
「・・・」
「この書類に記載されている、貴族家から盗まれた品々だけでも、もし持っていたら返してはくれないか?
先祖代々の家宝らしくてな、被害に遭った貴族家から捜索願が届いているんだ」
宝石類は、元から返すつもりでいたけど。
「・・ああ、言い忘れたが、金は別にどうでも良いらしい。
大分前のことだし、また稼げば良いだけだからな」
俺はその書類に目を通して、そこに書かれた品々が全て揃っていることを確認する。
「そう言えば、宝石類が詰まった宝箱はありました。
後でギルドに持参して、持ち主に返すつもりでしたが、今ここでお渡しします」
書類に記載された物以外にも、あの場で手に入れた宝石類と装飾品は全て出す。
「・・こんなにか。
いや、非常に助かる。
王都の伯爵家はかなり強い権力を持っていてな。
機嫌を損ねると厄介な相手だったんだ。
これであの家に恩も売れる。
恐らくだが、騎士団を通してそれなりの報奨を貰えるだろう。
楽しみにしておけ」
「それなら、欲しい物があるんですが。
貴族家からの報奨の類は、全てこの騎士団で収めて貰って構いませんから、その代わりに俺にあのアジトを頂けませんか?」
「あの建物をか?」
「はい。
俺にはまだ家がなくて、ちょうど探していたところなんですよ。
広さ的にも十分なんで、可能なら是非」
「幾らこの町では大きい部類の家と言っても、伯爵や他の貴族達から貰える報奨金の方が、遥かに額が高いぞ?
本当にそれで良いのか?」
「はい」
「・・まあ、こちらとしては大助かりだから、お前がそれで良いならそうしよう。
手続きはこちらでやっておく」
「有り難うございます」
「これでやっとお前の居場所が特定できる。
休日は遊びに行っても良いか?」
「多分、あの家を一旦壊して、新しい家に造り替えた上、俺の部下や、もしかしたら恋人や友人の女性達とも一緒に住むので、それでも良ければ」
「部下?
お前にそんな者がいたのか?
パーティーメンバーではなくて?」
「最近雇ったんです。
俺はまだFランクの冒険者ですから、パーティーなんて組んでいないんですよ」
「規則とは言え、お前がFランクね。
馬鹿馬鹿しくて笑ってしまうな」
「それ、エレナさんの前で言わないでくださいよ?
彼女は俺に親身になって、色々と相談に乗ってくれているんですから」
「下半身の方もか?」
「下品な女性は苦手です。
そんな綺麗な顔して、真顔で言わないでくださいね」
「むう。
私にも早くお前の相手をさせろ」
「しているじゃないですか。
剣の訓練をみっちりと」
「その剣も良いが、お前自身の剣も味わってみたい」
「だから、下品な発言は控えてください。
ここのトップなのでしょう?」
「両親が煩いんだよ。
早く子供を作れって」
どこの世界も同じか。
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