第57話

 宿にサリー1人を残して探索に行くに当たり、念のため、従魔のエルダーウルフに護衛を任せることにした。


そしてその際、帝国領に死体処理のために残してきたレッドスライムを思い出す。


慌てて呼び戻すと、既に数千の全死体を捕食し終えていたレッドスライムから、【アイテムボックス】内に大量の硬貨や貴金属が納入された。


その額、硬貨だけで約1800万ギル。


ギルとは、帝国領で採用されているお金の単位で、1ギルと1ゴールドはほぼ等価値だ。


つまり、停戦時に貰った帝国金貨と合わせると、あの戦いで4800万ゴールド分を稼いだことになる。


そこに回収した武器や貴金属を売った際の額が加わると、一体幾らになるか分らない。


透かさず、サリーに10年分の給料、王国金貨120枚を前払いしておく。


俺に莫大な利益をもたらしたレッドスライムは、そのランクがHになり、二回り以上大きくなっていた。



 既に真夜中をうに過ぎていたが、俺達の家を建てるための立地を探し回る。


村や町から然程さほど離れてなくて、自然があって、景色が良い所。


そう考えて、オルトナ大森林の入り口付近を探したが、今一つピンとこない。


ニエの村付近も候補に入れはしたが、村長さんの『家を建ててやる』というご厚意を無下にした手前、何となく選び辛い。


結局、また町に戻ってぷらぷらしていると、マップ上に複数の白い点が動いているのを見つける。


「こんな時間に?」


人の事は言えないが、誰も歩いていない深夜の町をうろつく集団に違和感を覚え、その場所に足を運ぶ。


十数人の黒ずくめの集団が、とある商店を襲う寸前だった。


「何をするつもりかな?」


「「「!!!」」」


俺の言葉に反応した彼らは、素早く戦闘態勢を取ると、無言で襲い掛かってくる。


ざっと見ると、ほとんどがIランクの能力を数個持つ程の手練れで、その中に1人だけ、Hランクを2つ持つ猛者が居る。


この間戦った帝国の騎士達より強かった。


そんな相手を、俺は体術だけで屠り、3人だけ、両手両足を折ったくらいで生かしておく。


「アジトは何処にある?」


Hランクのボスらしき奴に尋ねる。


「素直に教えれば殺しはしないぞ?」


当然、何も喋らない。


俺は【魔物図鑑】からレッドスライムを呼び出し、殺した相手を捕食させ始めた。


「あいつが死体を全部食べ終えたら、次は生きたままお前達を捕食させる」


そう言うと、ボス以外の2人に動揺が見られた。


捕食スピードが格段に上がっていたレッドスライムは、15分程度で10人以上を食べ終える。


その間、俺は賊の持っていた武器を回収し、それ以外でも良い装備品を付けていれば剝ぎ取った。


「さて、じゃあ次はお前ね」


「!!」


3人の内、顔を引き攣らせていた男をレッドスライムに食べさせる。


「~!

~~!!」


レッドスライムに身体全体を覆い被されて、陸に声も発することができずに食べられていく。


「じゃあ今度はお前」


ボス以外に残った1人を指差して笑う。


「ま、待て!

・・話せば本当に殺さないんだな?」


「約束する。

俺が興味あるのは金だけだからな。

結構貯め込んでいるんだろ?

但し、お前が教えた内容が正しかった場合だけだ。

嘘だったら、手足を1本ずつちぎってスライムに食べさせる。

当然、最後はその身体ごとな」


こいつらは、今まで散々何の罪もない人達を殺してきたのだ。


事実、俺にはこいつらが真っ赤に映って見える。


そんな奴に、こいつらと同じ思考で条件を提示してやれば、必ず食いつく。


そう思っていた。


案の定、ボスらしき男がそいつを射殺すような視線で見ている中、何処にアジトがあって、どれくらい貯め込んでいるのかを正直に話してくれた。


「少しここで待ってろ。

これから確認しに行く」


教えられたアジトは意外にもこの町の中にあったので、レッドスライムに彼らを見張らせて、その場に急行する。


民家が建ち並ぶ中にあったその家は、極普通の一軒家で、結構大きい以外は取り立てて特徴の無い家だった。


建物について詳しく聴いていなければ、見過ごしていたような存在感でしかない。


そのドアを、これまた教えられた通りのやり方でノックする。


すると直ぐにドアが開き、中から女性が顔を覗かせた。


俺に気付くと慌ててドアを閉じようとしたが、透かさず動いた俺がその女性を昏倒させ、屋内に入って中を物色する。


情報通りの場所に鍵付きの宝箱が3つ隠されており、その鍵も、ボスが隠し持っていたのを事前に奪ってきたから、難なくそれを開ける。


一体どれだけの店や屋敷を襲ってきたのか。


宝箱の中には金貨だけで1万枚以上が入っており、その他に、宝石などの貴金属が百数十個収められていた。


全てを【アイテムボックス】内に入れると、それによって表示されるメールに正確な数字が記載される。


金貨1万2563枚、白金貨56枚、宝石82個、装飾品34。


宝石や装飾品は、恐らく店で売ると足が付く代物なのだろう。


それにしてもまさかこんな額とは。


家に居た女性の両手両足を縄で縛って、口には猿轡さるぐつわをかませて床に転がし、生かしておいた2人の下に戻る。


「よお、情報は正しかったぞ」


「それじゃあ・・」


「ああ。

約束は守る。

殺さないよ」


レッドスライムに見張りをさせたまま、今度は騎士団の本部に急行する。


後から何かを喚く声がしたが、無視した。


深夜なので、当然騎士団本部の門は閉じられていたが、それを飛び越え、玄関のドアを強打する。


その音で起き出してきた団員2人に拘束されそうになるが、逆に彼らを気絶させ、アイリスの執務室に急ぐ。


ドアを何度か叩くと、少ししてドア越しに声がする。


「誰だ?」


「西園寺です」


「!!

・・こんな時間にどうした?

それよりもどうやって中に入った?」


「済みません、急いでいるので移動しながらでも良いですか?」


「・・少し待っていろ」


5分もしないで、部屋からアイリスが出て来る。


「それで?」


「盗賊を捕まえてあります。

ですがその狙いだった店には、まだその仲間が潜んでいる可能性があります。

騎士団員を数名派遣してください」


「分った」


それ以上余計な事は聴かずに、彼女はやっと起き出してきた団員達に指示を飛ばす。


「案内しろ」


馬に跨った団員6名を連れた彼女が、門の所で気絶させた団員に訳を話して謝っていた俺に、そう指示する。


当然、俺は走りだ。


だがその俺の速度に、馬が追い付かない。


仕方なく、速度を落として彼女達を盗賊2人の下に案内した。


勿論、見張りを任せていたレッドスライムは、その途中で【魔物図鑑】に戻してある。


『話が違う!』と喚く男に、『俺は殺してないぞ』と抗議し、次はアイリスさんと3名の騎士を連れて、近くにある大店おおだなを訪問した。


深夜の騎士団員の来訪に酷く驚いた店の主人達は、アイリスさんから事情を聴き、真っ青になる。


彼女の要求通り、今夜店内に居た全従業員を直ぐに集めた。


「分るのか?」


誰が内通者かを見極める俺に、アイリスさんがそっと尋ねる。


「実は俺、『鑑定』も持っていまして・・」


「!!!

お前には、後で聴くことが山ほどありそうだ」


「・・彼女ですね」


『鑑定』で1人ずつ調べる俺の目に、『盗賊』のジョブを持った若い女性が映る。


その女性は赤い色を放っていた。


「そいつを連行しろ」


団員にそう指図したアイリスは、『次は何処だ?』という顔をする。


俺が盗賊のアジトまで摑んだことを知っているみたいに。


苦笑しながら、彼女と団員1名を、盗賊のアジトまで案内した。

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