第54話
サリーと共に部屋を取ったことで、その夜は抜け出して探索に行けなかった。
今後のことを考えながら朝まで過ごす。
夜が明けると、しっかりと朝食を取った後、昼に『冒険者の胃袋』で落ち合うことを決めて、サリーと別行動をとる。
俺はエミリーとの訓練に行き、サリーにはこの町で家を借りて貰うためだ。
宿で常にサリーと同室だと、彼女の安全面を考慮せねばならないから、俺の行動が色々と制限される。
良い機会だから、家を借りて、そこで防衛力を高めた方が良い。
サリーが単独で家を借りる際に問題となる身分証は、帝国の工作員が予め作っていたそうで、平民用の物を彼女自身が持っていた。
その名前は、同じ『サリー』だ。
家を借りるための費用は、俺が彼女に10万ゴールド渡しておいた。
彼女が今身に付けている衣服も、多少豪華ではあるが、裕福な平民でも着ているくらいの物だから、容姿以外でそう目立つことはないだろう。
『アイテムボックス』持ちだから、武器は携帯しないでも済むからね。
修道院に赴いた俺は、浴室でエミリーと訓練した後、体を洗いながら、彼女にサリーやミーナのことについて説明する。
「ふ~ん。
別に私は、修に女が何人いても構わないし。
私を捨てないなら、他は許容できるから」
そう言いつつ、風呂から出た際にしてきたキスは荒々しかった。
ハイオークの肉を渡して修道院を去り、サリーと合流する。
先に席に付いていた彼女の前に座ると、何だか様子がおかしい。
「何かあったのか?」
「御免なさい。
家を借りることができなかったの」
「もしかして、10万ゴールドじゃ足りなかった?」
「まさか。
小さな家が買える金額だったもの。
ただ、これなら買った方が安いと思って幾つか選んで交渉したのだけれど、どれも『その物件は貴族専用ですので、平民の方にはお売りできない決まりでして』と断られて・・。
腹が立ってしまって、そのまま帰って来てしまったの」
帝国では上位貴族だった彼女だから、店で断られた経験などないのだろう。
彼女だけに任せた俺も悪い。
そこでふと気が付く。
「サリーはさ、土魔法がGだったよね。
もしかして、土地があれば簡単な建物くらいは造れる?」
「え?
・・物に因るけど、あまり複雑な建物は無理よ?
せいぜい外壁と部屋割り、階段や浴室、トイレの場所くらい」
「浴室やトイレも造れるの!?」
「浴槽や便器は店で購入した方が良いけど、それを設置する台座を硬化して、その下に水が流れる構造を造るくらいなら問題ないわ。
下水道のように大規模なものは造れないけど、一般の家庭用くらいならね。
・・ただ、凄く魔力を使うから、今の私だと1日ではとても無理」
「それなら、何日か宿に泊まりながら、2人で家を造っていかないか?
俺にも土魔法を教えてくれると助かる」
「土魔法を?」
「ああ。
絶対に覚えたい。
訓練には、公衆浴場の個室を使おう」
「もしかしてあの方法を使うつもり?」
やはり知っていたか。
「君が嫌でなければ」
「嫌なはずがないでしょ。
ただ、その方法を試したことがないから・・。
凄く気持ちが良いのよね?」
「魔力が低い方の人は、特にね」
「私の方が絶対に低いはずだもの。
でも、頑張るわ。
これは私にも大きな利益になる。
あなたの魔力で、私の魔力量の底上げができる」
「決まりだね。
今夜は先約があるから、訓練は明日から始めよう。
今日は俺1人で、候補地を探しておくよ」
「先約?」
「俺が今付き合っている他の3人とも、其々訓練を実施しているから」
「なら今夜はあなたとお風呂に入れないの?」
あ、そうか。
エレナさんとの訓練後だと、公衆浴場が閉まってしまうな。
「・・事前に彼女に交渉してみる。
夕食もここで彼女と食べる決まりだから、その際に君も同席してくれ」
「分ったわ」
昼食後、サリーには必要な物を買い揃えて貰うことにして、俺は1人でギルドへと向かった。
「あっ」
ギルド内に足を踏み入れた途端、俺を確認し、そう声を発したエレナさんから手招きされる。
近寄ると、今受付をしている客に断りを入れて、俺に応接室で待つように告げてくる。
事務の
ノックもなしに部屋に入って来たのは、明らかに怒っている様子のアイリスだった。
「貴様、本部に尋ねて来いと言っただろう!
探そうにも、陸に宿も借りてないみたいだし。
一体どういう生活をしているんだ」
「済みません。
かなり忙しかったもので」
まさか忘れていたなんて言えない。
「今日はこの後暇か?」
「・・夕方から、エレナさんとの予定が入っています」
「ならそれまでで構わん。
一緒に騎士団の本部まで来い」
「分りました」
断ると面倒そうなので、素直に従った。
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