第44話

 訓練の後、ミーナを家に送り届けて、村の正門付近に転移魔法陣を設置した俺は、その足でロマノ帝国へと続いているという道を進み始めた。


そう考えたのは、全くの気まぐれだ。


途中に幾つか村や森林があり、国境付近にはリンドル王国の砦もあるらしいので、ちょっと覗いてみようと考えたに過ぎない。


大森林の探索はある意味単調で、似たような自然の中を進んで行くだけだから、偶には人里のある方へも足を運んでみたかったのだ。


ニエの村の裏門から、あまり整備されていない道を通り、1時間くらいで森林に入る。


魔物は居るが、そのレベルは低いので、素材やお金になる物だけを狩り、勿論金色の点には必ず寄って、あとはスルーしてひたすら駆け進む。


6時間くらい経った頃、村が見えてくる。


ニエの村より大分小さい。


そしてそこから2キロくらい離れた場所に、平行に並ぶようにしてまた村がある。


『マッピング』の地図上に、人が密集している場所が表示されているから。


最初の村を素通りして更に2キロ程進むと、また並ぶように2つの村が現れる。


何でこんな造り方をしているのだろう?


其々の村は、せいぜい100くらいの集落でしかない。


興味が湧いて、1つの村に立ち寄ってみる。


「済みません、少しお尋ねしても良いですか?」


目に付いた30代くらいのご婦人に声をかける。


「何でしょう?」


「同じような村が等間隔に4つ並んでいますが、何故このような造り方をされているのでしょうか?」


「この村を含めたその4つが、昔の駐屯地の跡地にできているからです。

この先にある王国の砦を建造する際、物資や人夫の集積地として使われたりもしていたらしく、其々の村にはその名残なごりが残っています。

一の村は軍馬にも用いた馬の飼育を担い、二の村は食料としての養豚が盛んで、三の村は鍛冶、四の村は小麦を育てて砦に納めています」


「成程。

有り難うございます」


「・・冒険者の方ですか?」


「はい。

まだ駆け出しではありますが」


「何かの依頼でこちらに?」


「いえ。

ニエの村の知り合いに会いに行った序でに、見知らぬ土地を歩いてみようかと思いまして」


「ゼルフィードの町に比べたら、ここら辺は何もないでしょう?

宜しかったら、うちでお茶でも飲んでいかれませんか?

最近の町の様子を聞かせてくれると嬉しいです」


「え・・でもそれは・・」


「ご心配なさらずに。

私には砦に配属されている兵士の夫がおりますので、そういうお誘いではございません」


にっこり笑ってそう告げられる。


「子供も居るので、少し煩いかもしれませんが」


単に情報を得たいだけなんだな。


「・・では、お言葉に甘えて」


「嬉しいです。

ご案内しますね」


ご婦人に先導され、同じような家が建ち並んだ、その内の1軒に足を踏み入れる。


奥の部屋から男の子が出て来て、俺を見て警戒するが、母親に『お客様よ』と言われて、また奥へと戻って行く。


食堂と居間を兼ねた部屋にあるテーブルの席へと促され、お茶を出されたので、俺からも町で買ったお菓子を出して話をする。


彼女は町の雰囲気や流行の話を聴きたがり、俺の方からは砦について質問する。


それによると、砦に常駐する兵士は王都の軍隊で、ゼルフィードの騎士達はいないとのこと。


砦が攻められた時にだけ、援軍として駆けつけるそうだ。


戦争の前後は500人くらいの兵が砦に詰めていたらしいが、平和な今は100人もいないそうだ。


兵達は3年ごとに交代し、週に2度は休みを貰えるため、妻子持ちの兵は、砦に近いこの村に、家族を連れて来ることが多いらしい。


町まで行かないと娼館などないから、兵士達の欲求を解消するために、国も奨励しているとのこと。


砦の兵士に貴族はいないそうだ。


少し悲惨な話も聞いた。


過去に1度、ロマノ帝国に攻め込まれた際は、災厄と呼ばれるドラゴンに砦の大半を破壊された後で、その修復中の隙を突かれたらしい。


まだ4つの村ができる前で、防衛機能すら果たせなかった駐屯地で略奪を繰り返した帝国軍は、ニエの村で、これまた大規模な略奪行為を行った後、ゼルフィードの騎士団と総力戦を行い、引き分ける形で休戦協定を結んだとのこと。


なので、実は未だに戦時中と言えなくもないのだが、もう50年以上何も起きないので、王国側は事実上の終戦と捉えているみたいだった。


「大分長居をしてしまって申し訳ありませんでした。

暗くなってきたので、これで失礼します」


「楽しいお話が聞けて嬉しかったわ」


「こちらこそ、非常にためになるお話を聴かせていただきました。

これはそのお礼です」


準金貨1枚をテーブルに載せる。


「え?」


「息子さんに何か食べさせてあげてください」


「こんなに!?」


恐縮するご婦人に見送られ、村を出て砦のある方へと進む。


30分くらい走ると、大きな砦が見えてきた。

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