第43話

 抜けるのに最低2年は掛かると言われるオルトナ大森林。


俺は今、一体どの辺りまで来ているのだろうか?


転移を使いながら往復しているから通常より遥かに楽だが、『マッピング』に穴ができるのが嫌で、単に突っ切るのではなく、横にまで探索を広げているから、攻略には年単位の時間が必要になるだろう。


『名称:ビッグコング

ランク:I

素材価値:なし』


目の前に現れた魔物を長剣で屠る。


相変わらず、地図上に表示される金色の点は最優先で取りに行く。


この日もそれなりのお金と武器、身分証を拾ったら、いきなり運営からメールが送られて来た。


『 特殊イベント

 大森林の掃除をしよう。

大森林の中に埋もれている遺品、硬貨、武器、防具類、及び身分証を一定数拾うこと。

規定数に達すると、スキル『何処でもお風呂』を入手できます。 』


「・・・」


絶対に手に入れる。


それさえあれば、探索中でも仲間に風呂を使わせてあげられる。


もしかしたら、中で魔力循環の訓練すらできるかもしれない。


探索の楽しみがまた1つ増えて、俺の意欲と移動速度は更に増した。



 【ログアウト】した翌日の学校。


今日は1日、誰とも口をきくことはないだろう。


隣の席である源さんは、本日は欠席だ。


昨夜メールで、『どうしても外せない用事のために、明日は欠席しなくてはなりません』と連絡が来た。


その他にも、俺に会えない悲しみをかなりつづっていたが、長くなるのでそこは省略する。


昼休み、久々に購買でパンを数個買い、屋上の隅で外を眺めながら食べていたら、面識のない女生徒に話しかけられた。


地味なで、黒縁の眼鏡をかけて更に存在感を消しているが、隙のない佇まいは何らかの訓練を受けた人であると推察できる。


「西園寺君、少し私とお話をしませんか?」


「・・構わないけど、俺とは初対面だよね?」


「酷い。

あなたは私なんて眼中になかったかもしれませんが、私の方は、ずっとあなたを見ていましたよ?

正確には、美麗様と込みでですが」


「もしかして、俺は源さんには相応しくないとか、そういう苦情かな?」


「とんでもない!

そんなことを口にしたら、物理的に私の首が飛びます」


目を大きく見開いて、首を横に振りながら、彼女は俺の言葉を全否定する。


「え?」


「寧ろ逆です。

校内での美麗様を、どうか宜しくお願いします。

あの方が望むことを、できるだけ叶えて差し上げてください」


「・・君は彼女とどういう関係なのかな?」


「使用人みたいなものです。

・・西園寺君も、美麗様が普通の学生ではないことくらい、既にお気づきですよね?」


「それはまあ、彼女と一緒に居れば、直ぐに分かることだから」


「この学校には、私を含めて数名の生徒が、美麗様をお守りする盾として在籍しています。

何れも特殊な訓練を受けた戦士ですが、普段は表に出ることはありません。

ここは美麗様にとっての安らぎの場。

お忙しいあの方が、まるで一般人のように振る舞える、とても貴重な場所なのです。

ですから、可能な限り、美麗様のご希望を叶えて差し上げてくださいね。

私があなたに接触したことは、どうかご内密に」


一方的にそれだけ言うと、彼女は去っていった。


・・時々視線を感じたが、悪意が無いので放っておいたけど、そういうことか。


再び屋上からの景色に目を遣りながら、食事を再開した。



 『ログイン』ボタンをクリックし、夜通しの大森林探索を経て、ニエの村に赴く。


真っ直ぐ畑へ向かい、午前中は全て開墾に充て、ミーナがお昼を持って来てくれた後は、2人で農作業を1時間ばかり行った。


何と無くそんな気がしたので、ステータス画面をこっそり確認すると、やはり『農業』のスキルを覚えている。


これでこの村にも転移魔法陣を設置できる。


「有り難う、ミーナ。

どうやら『農業』のスキルを覚えたみたいだ」


「おめでとうございます!

随分早いのでびっくりしました。

普通の人だと半年は掛かりますよ」


通常の十数倍の速さで、開墾を続けてきたからかもしれない。


「でも、申し訳ないけれど、折角覚えたスキルを一旦消さなければならないんだ。

その後、必要なら再び覚えることになる」


「はい、何かの代償にお使いになるとうかがいました」


「何の代償に使うかは、もう少し経ってから教えるね?

かなりの極秘情報だから、俺の足場をきちんと固めた後で告げた方が無難なんだ」


ミーナなら守秘義務をしっかり果たしてくれるだろうが、何処でどう漏れるか分らない。


今はまだ時期尚早だ。


「分りました。

修さんのお考え通りにしてください」


にっこり笑ってそう言ってくれる。


ミーナは本当に良いだよなあ。


「・・それで、あの、今日もあそこへ行きますよね?」


俺から視線を外し、極力何でもないことのように言ってくるが、顔が赤くなっている。


「勿論。

なるべく沢山訓練した方が良いからね」


「はい!」


彼女が嬉しそうにまた笑った。

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