第42話

 『農業』スキル習得のため、昨夜からの大森林における探索を中断し、早朝からニエの村に赴く。


エレナさんとの入浴兼訓練をこなした後は、大森林で魔物相手に戦闘して気を紛らわせないと、色々と思い出してしまって収まりがつかないのだ。


知人に配る魔物の肉を得るのにもちょうど良いから、時間を無駄にせず励んでいる。


午前8時頃にミーナの家を訪れると、既に彼女達は畑に出ていて、タナさんだけが家事をしていた。


挨拶をして自分の畑に向かおうとしたが、彼女が『お茶でも飲んでいきなさい』と勧めてくれたので、折角だからお言葉に甘えることにする。


俺の方からも、市場で仕入れた甘いお菓子を提供し、2時間くらい世間話をした。


タナさんはこの村の歴史を教えてくれ、過去に戦争の被害に遭った時も、村人が一丸となってその苦労を乗り越えた事実を熱心に語ってくれた。


村人が半数以上殺され、田畑や家屋は略奪に遭い、生き延びた人々は森の奥に隠れながら、木の実や山草などで飢えをしのいだそうだ。


『どうしてまたこの地に集落を作ったのですか?』


1度でも被害に遭えば、次はそれを避けるためにもっと安全な場所に移りそうなものなのに。


工夫次第で何とかなるような自然災害ではないのだから。


陸に考えもせずにそう口に出した俺に、タナさんは呆れもせずに教えてくれた。


『生まれ育った場所というのは、そう簡単に捨てられるものではないのさ。

そこにご先祖様の苦労がしのばれるなら、尚更ね』


向こうの世界での引っ越しのように軽く考えていた俺は、この時自分の浅慮を恥じた。


賃貸なら、嫌な奴が隣に来れば直ぐ他へ移れるが、自宅ではそうもいかない。


俺だって、両親との思い出が詰まった今の家を、簡単には処分できない。


『婿殿も、親になり、子を育てれば自然と分るようになるよ』


俺の後悔が分ったのか、タナさんは優しく微笑んでそう言ってくれた。



 開墾作業に精を出す俺の下に、ミーナが昼食を持って来てくれる。


「遅くなって済みません。

これを食べたら農作業の基本をお教えしますね。

それから、ハイオークの肉をまた頂いたそうで、有り難うございます」


畑に来る前、タナさんにハイオークの死体を2体渡していた。


捌いた肉の方が良いかと思ったが、彼女が『村の者にも魔物を捌く技術を磨かせないといけないから』と言うので、そのまま差し出したのだ。


タナさんになら見られても大丈夫だろう。


そう考えて、彼女の目の前で【アイテムボックス】から取り出したのだが、案の定、『婿殿が飛び切り優秀で嬉しいよ』としか言われなかった。


何かを取り出す際にいちいち不審に思われないよう、俺は町や村に入る際、小型のリュックを背負っているが、ミーナの家に来る時には必要ないかもしれない。


「村のお祭りなんかには、グレートボアの肉を献上するね」


「うわあ、楽しみです。

凄く美味しいと聞いてます」


俺の隣に腰を下ろしたミーナは、俺が弁当を食べている間、手拭きやお茶の用意など、甲斐甲斐しく世話をしてくれる。


食べ終えた後、本当に基礎から彼女に教わる。


最初に植えた種芋は、ミーナに貰った白芋だ。


「修さんの畑、個人所有としては、もうこの村でも指折りの大きさですね。

収穫したらどうしますか?

商人に売りに出します?」


「ミーナの家に全部あげるよ」


「え?

それは申し訳ないですよ」


「将来的にはミーナと子供を作る訳だし、当然でしょ」


「・・・。

この後、またあそこに行きますよね?」


顔を若干赤くして、彼女が誘ってくる。


「勿論。

魔法の訓練もしないとね」



 河原の穴場でお互いに全裸になって両手を握り合う。


最初は少しずつ魔力を流したが、未だ魔法の使えないミーナにはそれでも刺激が強かったらしく、頻繁に『ん、・・ああっ』と喘ぎ声に近いものを漏らしていた。


隙間から僅かに入り込んで来る川の水が、お互いの身体のほてりをちょうど良く冷ましてくれて、浴室で行うと汗だくになる訓練が、長く続けても負担にならない。


30分が経過した頃、突然ミーナに抱き締められて、激しく唇を貪られる。


他の2人と同様に、体を擦り付けてきて、暫くするとガクンと跳ねて脱力した。


慌てて、しっかりと彼女を抱き締める。


「大丈夫?」


「・・ええ。

御免なさい。

凄く気持ちが良くて、夢中でした」


まだ足腰に力が入っていない様子だ。


「こんなに気持ち良いなんて、皆がまってしまう訳ですね」


「多分、通常の性行為はそこまでではないと思う。

今のは魔力が大きく影響してるから・・」


「そうなんですか?

・・良かった。

いつもこうだったら、私、修さんに溺れてしまうから」


やっと普通に立てるようになった彼女は、再度俺にキスをすると、『続けましょう』と言って訓練の再開を促した。



 更に90分程を費やして、服を着る前に身体を洗うミーナがシャンプーを使っていなかったので、買い置きしておいた品を渡した。


「有り難うございます。

買えないほどではないのですが、町まで行くのが面倒で、つい適当に洗ってしまって・・」


「ミーナの髪は奇麗だから、大事にしてくれると嬉しい」


ポニーテールが凄く似合っているのだ。


「分りました。

修さんのために、普段からしっかりと手入れをしておきますね」


そう言って、嬉しそうに笑う。


その後、ミーナを家に送り届けて、再び大森林に戻った。

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