第40話

 一旦ログアウトして、勉強や入浴を済ませ、睡眠を取った後、学校へ行く。


「西園寺君、おはようございます」


「おはよう、源さん」


今日も完璧な身だしなみと笑顔でもって、俺に挨拶してくる彼女。


「・・あの、お昼の件ですが」


少し小声で、その分、俺の方に身を寄せながら話をしてくる。


「うん?」


「私達、正式にお友達(という名の婚約者)になったじゃないですか。

だから今後はいちいち確認する必要ありませんよね?

お互いに都合の悪い日だけ、当日の朝に伝え合えば」


「・・それってほぼ毎日、一緒に食べるということ?」


「ええ、勿論です」


「俺も源さんとの時間は凄く貴重なんだけど、学生時代の掛け替えの無い時間を、俺とばかりに費やすのは勿体無い気がするな。

源さんは俺と違って、クラスはおろか学年の人気者だし、君と少しでも仲良くなりたいと願う女生徒は多いはずだよ。

嫌な人とまで付き合う必要はないけれど、そうでないなら、そういった人達との時間も少しは確保しておいた方が良いと思う」


「それは別にお昼の時間でなくても」


「せめて週に1日くらいは、別々に食べる日を作ろうよ。

そうすることで、意外な発見があるかもしれないし」


「私の他に誰か、一緒に食べたい人でもいるのですか?」


源さんが珍しくねている。


「まさか。

自慢じゃないけど、俺は君がいなければ、立派なボッチなんだよ」


「フフフッ、確かに自慢することではありませんね。

・・分りました。

断腸の思いで、その提案を受け入れます」


「ボッチの分際ぶんざいで、我儘を言って御免ね」


「そういう言い方は好きではありません。

西園寺君を貶めるような内容は、たとえご自身の言葉であっても、あなたのことをとても大切に思っている私に対して失礼です」


少しむっとして、彼女からジト目で睨まれる。


「済みません、気を付けます」


「お詫びに、今日のお昼にあ~んさせてください」


「え!?」


「フフッ、冗談です」


良かった。


さすがにそれは受け入れ難い。


間抜けづらした俺を、容易に想像できるからな。



 昼食時、源さんにわれてメールのアドレス交換をし、序でにお気に入り登録までして貰った。


でも、そんなことをしなくても、今の俺のスマホには、源さんのアドレスしかない。


両親が亡くなった時、そのアドレスを消したくないために、スマホを新しく買い替えたからだ。


古いスマホは、俺の机の引き出しに大切に終われており、今でも時々中身を眺めている。


帰宅して、お決まりの事をやった後、パソコンの前に座る。


珈琲を一口飲んで、ゲームの【ログイン】ボタンをクリックした。



 「修、いらっしゃい」


エミリーとの訓練に赴いた俺を、彼女が笑顔で迎え入れてくれる。


その足で浴室へと向かい、お互いに衣服を脱いで全裸になる。


掃除されたばかりに見える空の浴槽にエミリーが水を張り、俺がそれを火魔法でお湯に変えていく。


十分にお湯が溜まったら、其々がかけ湯をして簡単に身体を洗い、浴槽に入ると向かい合って座る。


お互いに両足を伸ばし、相手の腰を挟むようにして、両手を繋ぐ。


「途中で休憩を入れながら、2時間くらい頑張ろう」


「分った。

・・あのさ、我慢できなくなったら、キスしても良い?」


「え?」


「この訓練、凄く気持ち良いからさ、欲情を抑えるのが大変なんだよね。

修を相手にしてるから、感情が何倍にも高まるし」


「・・それで訓練を続けられるのなら」


「有り難う」


訓練を開始して約1時間後、両手の拘束を振りほどき、上気した顔のエミリーに、乱暴に抱き締められる。


激しく唇をむさぼられ、固く抱き合った身体を擦り付けてくる。


暫くすると、その身体をこぎざみに震えさせ、その後やっと大人しくなる。


「はあーっ。

凄く気持ち良かった。

・・いっちゃったみたい」


「・・・」


「こんなの覚えちゃったら、もう自慰では満足できないよ」


「年頃の女性なんだから、男性の前ではもう少し表現を抑えてくれると助かります。

・・シスターでも、やっぱりそういうことをするんだね」


「当たり前じゃない。

只でさえ楽しみが少ないんだから。

・・心配しなくても、私がこういう面を晒すのは、修の前だけよ。

普段は明るく上品なシスターとして振る舞っているわ」


「まだ訓練を続けられる?」


「ええ、勿論。

でも修は相当に我慢強いのね。

こんなにがちがちにしてるのに」


「これでもかなり無理してるんだよ」


「我慢なんてしなくても良いのに」


「けじめだからね」


「そういう真面目なところも好きよ」


もう一度キスされた。



 更に1時間程訓練をして、体を洗い、湯を張り替えて浴室を出る。


「もう直ぐお昼の時間だけど、良かったら一緒に食べていかない?」


「院長先生と3人で?」


「ううん、うちは全員揃って食事を取るの。

だから孤児院の子供達も一緒」


「子供達は全部で何人くらい居るの?」


「14人よ。

うちの規模だと最大でも20人くらいしか受け入れてあげられないから。

その他に、シスターが4人居るわ」


「男性の俺が混ざっても大丈夫?」


「本来なら、関係者以外は敷地に立ち入ることはできないし、男性だと治療室にしか足を運べないけど、修だけは別よ。

多額の寄付金を納めてくれた上、回復魔法まで習得して、将来は私の夫になる予定だもの。

今の内から皆には慣れて貰うわ」


「俺、ここに婿入りするつもりはないよ?」


「分ってるわ。

私と子供を作ってくれるだけで良い。

偶に遊びに来て、子供達の顔を拝んで、私を抱いてくれさえすれば、他には何も求めないわ」


「もし君と子供を作るようなことになれば、毎月一定額の援助はするよ。

それは当然のことだ。

他にもできる限り力になるから」


「嬉しい。

(男は)修だけを見て、修を生き甲斐にして頑張るから、いつまでもかわいがってね」


見惚れるくらいの笑顔で、エミリーはそう口にした。

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