第39話

 ミーナが迎えに来る頃には、更に農地を広げて、5000坪くらいの土地を奇麗にした。


岩や石、雑木を完全に取り除き、あとは耕すだけだ。


更に汗をかいたので、俺も風呂に入ってさっぱりしたい。


彼女と河原で過ごしたら、一旦ログアウトしよう。



 「修さんも入りますよね?」


現場に到着すると、さも当然のようにそう言われる。


「え?

・・いや、俺は宿に帰ってからにするよ」


「駄目ですよ。

大分汗をかいたじゃないですか。

一緒に入りましょうよ」


「しかし・・」


「秘密を共有する者同士、隠し事はなしにしましょう。

私にも、修さんの身体を見せてください」


既に服を脱ぎ始めているミーナが、笑顔でそう言ってくる。


「・・・」


「遠慮しないでください。

ズボンが盛り上がって苦しそうですよ?」


「・・ミーナって、結構積極的だよね」


服を脱ぎ始めながら、苦笑する。


『マッピング』を起動させ、周囲を警戒しながら水の中に入ると、先に入って待っていた彼女が俺を正面から抱き締めてくる。


「フフッ、あったかい。

それに凄く固い。

これが男の人の身体なんですね」


ミーナの身体と髪の匂いを直に感じて、言葉に詰まる。


彼女は抱擁を崩しながら、器用に俺の身体を手で洗ってくる。


その度に俺と彼女の身体が水中で擦れ合い、我慢するのが大変だった。


「・・修さんは紳士なんですね」


水から上がり、『洗濯』を選んだ衣類を、【アイテムボックス】から取り出して身に付ける。


当然、今回はミーナの衣類も事前に預かり、奇麗な状態にして渡してあげた。


彼女がぼそっとそう呟いたのは、服を着始めてから。


「ん?」


「既に所帯を持っている私の友人が、『男なんて、お互いに裸になりさえすれば我慢なんてできないわよ』って教えてくれました。

果敢に攻めたつもりなのに、襲ってくださらなくて残念です」


「・・いや、だってまだ友人だし」


「『貴族じゃないんだから、やることやってから恋人同士として付き合うのが普通よ』って、その友人は言っていました」


「それは極論じゃないかなあ。

お互いに相手をよく知りもしないでそんなことをすれば、別れた時に必ず後悔すると思うけど・・」


「修さんは、思った通り、女性を大事にしてくださる方ですね。

普通の男性は、女性とやれるなら何でも良いと考えている人が多いように見えます。

それに、私の方からは絶対に修さんから離れてなんてあげません。

もし私に愛想が尽きたら、はっきりとそう言ってくださいね」


「うぬぼれてもろくな結果にならないし、俺は慎重というか、多分恋愛に対して臆病なんだと思う。

そういうことを期待していたのなら、申し訳ない。

もう少しだけ待って欲しい。

それから、余程の事がない限り、俺は付き合い出した相手を手放すようなことはしないよ」


「修さんを信じます。

今日は残念ではありましたけれど、楽しかったですからお気になさらずに。

また一緒に水浴びしてくだされば、今はそれで満足します」


「そのくらいなら何時でも構わないけれど、どうせなら、魔力循環の訓練も同時にしないか?」


「魔力循環、ですか?」


かわいらしく首をかしげる彼女。


「ミーナはまだ魔法を使えないよね?」


「はい」


「なら、今の内から魔力量を少しずつ増やしていこうよ。

そうすれば、その内きっと魔法が使えるようになるから」


「私でもですか?」


「うん。

だから今後は、水浴びの時間を利用して訓練していこう。

身体も温まるから」


「分りました。

頑張りますね」



 村に戻る前、ミーナと2人で河原の周辺を2時間ばかり探索し、『マッピング』の領域を少し増やすと共に、彼女の戦闘訓練もする。


通常はMランクまでの魔物しか出ないような場所だから、初期の訓練にはちょうど良かった。


彼女が倒したゴブリン6体の死体は、俺がテイムしたレッドスライムの餌にした。


ミーナには教えても構わないだろうと考え、念のため口外しないようにお願いして、【魔物図鑑】からレッドスライムを出して処理させた。


レッドスライムは獲物を取り込む際に、食べやすいように微弱な炎を出すようで、ゴブリン1体を完全に消化するのに十数分しか掛からない。


しかも、どうやら数多く食べさせるとランクが徐々に上がっていくらしく、少しずつ捕食スピードが速くなっていた。


【魔物図鑑】に登録した従魔は何時でも好きに出し入れできるので、食べてる間にこちらが移動しても、その後回収すれば良いから待っている時間を省けるのも利点だ。


夕方になったのでミーナを家まで送り届け、ゼルフィードの町に帰る。


明日はエミリーとエレナさんに会う日なので、朝になるまでオルトナ大森林で『マッピング』に励んだ。

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