第35話

 「この世界で初めての迷宮。

暫くは慎重にいかないとな」


門を越えて隠し魔法陣に載り、『護りの迷宮』前まで来る。


一見何の変哲もない大岩に近付くと、そこに突然入り口が現れる。


岩の内部には魔法陣が1つあるだけ。


その上に載ると、直ぐに何処かへと飛ばされる。


大きく広い洞窟のような場所に、俺は居た。


「!!!」


壁沿いに、沢山の死体が並んでいる。


そのどれもが白骨化しており、辛うじて衣服を身に付けた状態で腰を下ろし、うなだれている。


ある者は剣、ある者は槍、ある者は盾を握り締め、まるで力尽きたかのように。


もしかしたら、彼らに突然襲われるのではないかと警戒しながら先へ歩いたが、そんなことはなかった。


広場の先は横幅の広い通路のようになっていて、少し歩くとスケルトンに襲われる。


『名称:ソルジャースケルトン

ランク:H

ドロップ:なし』


H!?


今までで1番強い敵じゃないか!


1体だったから、長剣と盾を使いながら倒せた。


剣技は互角のものがある。


複数で来られたら少し苦戦するだろう。


そんなことを考えていると、今度は2体に襲われる。


相手の攻撃を防ぐのに必死で、なかなか攻撃できない。


くっ!


1体に蹴りを食らわせ、長剣を捨てて、もう1体に拳を叩き込む。


其々の骨が砕け、やっと動かなくなる。


「・・ここは体術で戦わないと、今は無理だな」


盾と長剣を終い、兜を被って先へ進む。


約50メートル進む度に、新たな敵が2、3体出て来る。


だが、Eランクの体術で戦う限り、今の所はまだ楽に勝てた。


3キロくらい進んだ頃、再び広場に出た。


やはり同様に、左右の壁には白骨化した戦士達の遺体が並んでいる。


そこを歩き出した時、俺の頭の中に、ある映像が浮かび上がってきた。



 火のが、まるで雪のように舞っている。


周囲の家々は皆崩れ、破壊され、炎を纏って沈黙している。


家の外や道沿いに、どす黒い模様を付けた人々が倒れている。


人の形をしていない死体も多い。


小さな子供を抱き締めながら身動きしない女性。


大事な人を庇うように覆い被さり、背中から串刺しにされている男性。


逃げ遅れた子供が、目を見開いたまま果てている。


その直ぐ側には、その子が大切にしていたであろう人形が転がっていた。



 映像が消えても、暫く動けなかった。


何でこんな酷い光景を見せられるのか、俺に何を求めているのかが、正確には分らない。


死にたくなければ戦えということだろうか?


強い力を身に付けないと、お前もいずれこうなるという警告だろうか?


拳を握り締め、先へと進む。


1分も経たずに魔物に襲われる。


『名称:ソルジャースケルトン

ランク:G

ドロップ:なし』


G!?


相手の攻撃に直ぐに反応して蹴りを出す。


足を砕いて倒れたところに、頭蓋骨を粉砕する拳を入れる。


そこからはもう、数十秒ごとに複数の敵に襲われる。


殴り、蹴り、手刀を入れて、そのことごとくを倒していく。


因みに、彼らは倒すと直ぐに消滅してしまう。


故に、その武器や盾を回収することさえできない。


数百体は倒したであろうか。


そんな頃、また広場が現れる。


そしてそこに足を踏み入れた途端、再び頭の中で流れる映像。



 人々が逃げまどっている。


大人も子供も、老若男女の区別なく、皆が必死になって走っている。


つまずいて倒れた者に、透かさず槍が突き刺さる。


家に隠れていた老人に、躊躇いなく剣が振り下ろされる。


逃げる人々の背中に突き刺さる、何本もの矢。


諦めて道にうずくまり、祈りを捧げる人達の首が飛ぶ。


全てを殺し終えた後、手を下した兵達が、我先にと家屋でお金や食料を漁っていた。



 「・・・」


この怒りは何だ?


俺がリアルの住人だからだろうか?


こちらの世界では普通に起きる事でも、あちらの価値観では許容しがたい光景だからだろうか?


・・俺だって、こちらでは必要に駆られて人を殺している。


人殺しは絶対に駄目だなんて、奇麗事を言うつもりもない。


人は生きるために他の動物達を殺し、お互いに譲れないもののために殺し合う、罪深き生き物だ。


だけど、そうするにはある程度の理由が必要だと思う。


最低限、これだけは守らないといけない、そういうものが存在しなくては、理性なき獣になり果てる。


無理やり見せられるこの光景に、果たしてそれがあるだろうか?


先へ進むと、また魔物に襲われる。


『名称:ソルジャースケルトン

ランク:F

ドロップ:なし』


到頭とうとう、身体能力的には俺と同格の敵が現れた。

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