第33話

 神殿を去る時、騎士団への来訪について念を押され、やっと解放して貰えた。


『容疑は晴れたんですか?』と嫌味を言ったが、『寧ろ興味が増大したよ』と軽く流された。


エレナさんとの約束の時間を30分も過ぎ、この世界にスマホなんてないから、すっぽかす感じになってしまったことを悔やむ。


せめて誰かに伝言を頼むべきだった。


もういないだろうと思いつつ、待ち合わせの場所へ走っていくと、何と彼女は待っていてくれた。


「遅れて済みません。

ちょっとした事件に巻き込まれて、騎士団の尋問を受けてました」


そう言うや否や、腰を深く折って頭を下げる。


「そうだったの。

何かあったんじゃないかと心配してたのよ」


しゃべりながら、額にかいた俺の汗を拭いてくれる。


「詳しい話は食事をしながらにしましょ」


極自然に腕を組んでくる。


「お詫びに何でもご馳走しますから」


「フフフッ、それじゃあ、1番高いお酒を飲んじゃお」



 「それで、何の事件に巻き込まれたの?」


マーサさんの店で、いつもの料理と1番高いワインのボトルを空けながら、遅刻の理由を説明する。


冒険者達に襲われたと話した途端、エレナさんが顔をしかめる。


「どれだけ気を配っても、そういう人は必ず出るのよね」


「俺が不思議に思ったのは、衛兵達の対応です。

正当防衛とはいえ、人を2人も殺したのに、その事については全くお咎めなしでしたから」


「それは当然よ。

こちらを殺そうとする相手に、手加減なんか必要ないもの」


成程。


リアルと違って、この世界は非常にシンプルなんだな。


「でも、騎士団長に神殿まで連れて行かれたのは予想外でした。

お陰で、自分の今のステータスが分りましたけれど」


「誰が来たの?」


「アイリスさんです」


「!!!

・・何か言われた?」


「後で本部まで足を運ぶようにと・・」


「ふ~ん、修君のステータス、余程凄かったみたいね。

彼女、陛下やカイウン様を除けば、男性は皆、路傍の石くらいにしか思っていないのに」


「あまり感情が表に出ないかたでした」


「そういう訓練を受けてきたのよ。

あの人は、この町の護りの要だから」


「確かに、かなり高めのステータスでしたね」


「え?

・・彼女のを見たの?」


「はい。

特別だと言いながら、見せてくれましたので」


「・・・」


エレナさんがとても真剣な顔をして、何か考え事をし始めた。


それで会話が途切れ、店を出るまで、彼女は食事をする以外に一言も話さなかった。



 「ねえ、今日はもう大分遅い時間だし、ここでお風呂に入っていけば?」


エレナさんの部屋に着いた後、いつも通り訓練をして、いざ帰ろうとした時、そんな言葉をかけられる。


「遅れて来た時、かなり汗をかいていたでしょ?

この時間だと、公衆浴場は何処も閉まっているわよ?」


「いえ、一晩くらいなら入らなくても平気ですから」


リアルで入るし、今日は既にエミリーとも入っている。


「そんな考えでは女性に持てないぞ?

2人とも火魔法を使えるんだし、浴槽の水をお湯に変えるなんて直ぐだから。

昇格のお祝いも兼ねてるから、遠慮せずに入っていきなさい」


曇りのない笑顔でそう言われると、これ以上断り辛い。


「そこまで仰るなら・・」


「そうしなさい。

今水を張るから、一杯になったらお湯にするのを手伝ってね」


「多分、俺1人で大丈夫だと思います」


「そう?

結構大きな浴槽なのよ?」


「頑張ります」


「フフッ、じゃあお手並み拝見」


エレナさんが浴室に水を張りに行き、入れ替わりに俺が入ってお湯に変える。


バスタブは、大人が足を伸ばして寝そべっても余裕があるくらいの大きさだが、修道院の浴槽に比べれば何てことない。


加減しても1分くらいで室内に湯気が立ち込める。


「あら、もう済んだの!?」


タオルを持って来てくれたエレナさんが驚いている。


「ええと、それじゃあ風呂をお借りします」


「ごゆっくり」


ドアが閉められたのを確認し、服を脱ぐ。


装備を含め、脱いだ物は全て【アイテムボックス】の中に入れる。


ランクが高いせいかは知らないが、俺の【アイテムボックス】は汚れた衣類を入れると選択肢が表示され、『洗濯』を選ぶと奇麗な状態で取り出せるのだ。


手桶を使って湯を掬い、体にかけて汗を流す。


バスタブに入り、ゆっくりと身体を伸ばしたところで再びドアが開けられる。


「え?」


昼間も同じ様なことをされたが、まさかエレナさんまでそんなことをするとは考えもしなかった。


目の前に、全裸の彼女が立っていた。

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