第32話

 「いい加減、もう帰してくれませんか?

人との約束があるんですよ」


「まだ駄目だ。

騎士団の方がお見えになるまで待ってくれ」


「俺は被害者なんですよ?」


「それを証明するためにも、神殿でチェックを受けて貰う」


詰め所に連れて来られてから、隊長の男性に色々と質問され、挙句の果てに、神殿で職業チェックを受けさせるから、騎士団のお偉方が来るまで待てと言われた。


何でも、容疑者とはいえ、人のステータス画面を勝手に見ることが許されるには、領主やその家族を除けば、騎士団の団長以上の職に就いてなければ駄目なんだそうだ。


俺が幾ら見て良いと言っても、頑として譲らない。


まあ、俺がここまで暖気のんきに構えてるのも、自分のステータス画面だけは特殊であるのを知っているからだが。


「待たせたな」


意外と若い声に座りながら振り向くと、20代前半くらいの女性がこちらに歩いて来る。


「アイリス団長、お役目ご苦労様です!」


俺の向かい側に座っていた衛兵隊長が、透かさず立ち上がって彼女に敬礼する。


「・・成程、品がある。

アメリアから聴いていた通りだな」


お偉いさんだからと、立ち上がって一礼した俺に、アイリスと呼ばれた女性が品定めするような口調でそう告げる。


「大体の事は報告で聴いている。

わざわざ私が来たのは、君に興味があったからだ」


「それはつまり、来なくても良かったということでしょうか?」


「端的に言えばそうだ。

捕らえた女性2人が容疑を認めているし、目撃者も出た。

だが私は、君のステータスに興味があったのでな。

隊長に指示を出して、見せて貰うことにしたんだ」


「騎士団って、そんなに暇な組織なんですか?」


そのお陰で大分待たされたので、少し皮肉を言ってやった。


「そう怒るな。

私と顔を繋いでおけば、この町では何かと便利だぞ?」


「ここに住むと決めた訳ではないので、貴族の方と親しくする必要性を感じません」


「・・若いな。

まあ良い。

早速神殿に行こう」



 詰め所から馬車で5分もせずに神殿に着く。


アイリスさんが入り口でお布施を支払い、俺と2人だけで神殿奥の女神像まで進む。


像の横で待機している女性にアイリスさんが書類を提示すると、その女性は像から少し離れて俺達を見守る。


「自分でステータスを見たことは?」


「ありません」


念のために嘘をいておく。


「その石板に手を当ててくれ」


指示通りにすると、電源を入れたパソコンみたいに石板が光り出す。


3秒もしないで、俺のステータスが映し出された。


______________________________________


氏名 西園寺 修(16)


パーソナルデータ 力F 体力F 精神G 器用G 敏捷F 魔法耐性G


スキル 長剣I 体術E 盾J 『アイテムボックス』B


魔法 火魔法J 回復魔法K


ジョブ 冒険者


______________________________________


あ、力と体力が1つずつ上がってる。


それにスキル欄の表示が変だ。


『鑑定』や『マッピング』がないし、【アイテムボックス】が『アイテムボックス』としてスキル表示されている。


しかもBだからかなり高い。


「・・君、是非とも騎士団に入ってくれ。

最高の待遇で迎えるよ。

カイウン様にご報告して、陛下への爵位推薦を取り付け、この町に屋敷も与えて貰うから」


「済みませんが、お断りします」


「何故だ?

貴族になれるんだぞ?

他に欲しいものがあれば言ってくれ。

できる限り用意する」


俺のステータス画面を見つめたまま、アイリスさんが食い下がってくる。


「騎士にも貴族にも興味ないからです。

俺は何物にも縛られず、自由に生きたい」


「・・私と結婚してくれ。

容姿と能力には自信がある」


「愛のない結婚は嫌です」


「これから育んでいけば良い」


「・・あの、どうしてそこまで俺を欲しがるんですか?

それ程凄いステータスじゃないでしょう?

SやAがある訳でもないし」


「君は意外と常識に欠けているんだな。

SやAはおろか、Bでさえ、これまで1度も確認されていない。

回復魔法を習得したという、男性の存在もな。

この国には、どのスキルでさえCを持つ者すらいないんだ。

それなのに君は・・」


え?


ステータスやスキルって、そんなに上がり難いものなの?


・・確かに、なかなか上がらないとは思っていたけど。


「この後時間が取れるかい?」


「約束があるので無理です」


「なら今度、騎士団の本部を訪ねて来てくれ。

来なかったら、こちらから押しかける」


「・・分りました」


「フフッ、時間を作って大正解だった。

特別に私のも見せてやろう」


もう知ってますけど。


______________________________________


氏名 アイリス・ローズテリア(20)


パーソナルデータ 力I 体力I 精神H 器用H 敏捷G 魔法耐性H


スキル 長剣G 盾H 体術J 事務管理I


魔法 火魔法H 水魔法H 生活魔法I


ジョブ ゼルフィード第1騎士団長


______________________________________


これまで見てきた人の中では断トツの能力なのは間違いない。


言うだけあって、容姿もかなり整っている。


友人としてなら、全く問題ないんだけど。

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