第30話

 「こんにちは」


修道院におもむき、門の所でわざわざ俺を待っていてくれたエミリーさんに挨拶する。


「いらっしゃい」


門を開け、嬉しそうな顔で、彼女が迎え入れてくれる。


「・・もしかして、探索の帰りにそのまま来てくれたの?」


歩きながら話し、俺を心配そうに見る彼女。


「ギルドに寄ってからですが、そうなります」


「ちゃんと寝てる?」


「はい(リアルでは)」


「この間の薬草も、全てが高品質だったわ。

お陰で予備のポーションまで作れるようになった。

もうあなた以外の人に依頼する必要性を感じないな」


「お役に立てて嬉しいです。

ここの依頼のお陰で、俺もFランクに昇格できましたから」


「あら、おめでとう!

何かお祝いしなくちゃね」


エミリーさんが、本当に嬉しそうに俺を見る。


「お気持ちだけで・・」


部屋に到着するや否や、彼女が口を開く。


「そうだ!

ちょっとここで待ってて」


俺の返事も聞かずに、何処かへ行ってしまう。


20分くらい経ってから、少し汗ばんだ彼女が戻って来る。


「お待たせ。

さあ、行きましょ」


「何処へですか?」


「付いて来れば分るわ」


俺の手首を握り、先導する彼女に引っ張られるようにして連れて行かれた場所、そこは何と浴室だった。


「お風呂!?」


「探索を終えて直ぐにここに立ち寄ったのなら、お風呂で汗を流したいでしょ?

今日は子供達がお風呂に入る日だから、あなたを先に入れてあげる」


ガラス戸の向こうでは、大人が4人くらいは入れる大きさの浴槽に、湯が半分ほど張られている。


「急いでたから、少しお湯の量が少ないかもしれないけれど、そこは我慢してね」


「俺は(入らなくても)良いですよ。

エミリーさんこそ、先に入られては?

上がるまで、あの部屋で待っていますから」


「遠慮しないで。

これは昇格のお祝いを兼ねた、あなたへの感謝の印でもあるのだから」


う~ん、どうしようか?


折角準備してくれたのだし、無下に断るのも失礼かな。


この世界では、入浴はまだ贅沢な部類かもしれないし・・。


「それじゃあ、お言葉に甘えて」


「うん、是非そうして!」


満足そうに彼女が脱衣所から退出していったので、服を脱ぎ、浴場に足を踏み入れる。


桶で湯をすくい、身体にかけて汗を流していると、背後でガラス戸が開けられる音がする。


びっくりして振り向くと、そこに全裸のエミリーさんが立っていた。


小さなタオル1枚を手に持って、もじもじしている。


「なっ!」


「・・背中を洗ってあげる。

それに、私も汗をかいちゃったから」


「・・他の人に見つかりでもしたら、大事おおごとになりますよ?」


内心の動揺を隠し、声だけは何とか平静を取り繕う。


ミーナで女性の裸に耐性が付いていて幸いだった。


「もっと驚くかと思ったのに、案外冷静なのね。

私なんか、初めて見る男性の裸にドキドキしてるのにさ。

・・もう女性を抱いたことあるの?」


「いや、ないですよ。

エミリーさんこそ、子供達をお風呂に入れたりしないのですか?」


「ここ、修道院だからね?

世話してる子供達も、全員が女性だから」


そういえばそうだった。


「そんなことより、早く浴槽に入って。

私も身体を洗いたいから。

ドアには使用中の札を掛けておいたから、心配しなくても誰も入って来ないわ」


仕方なしに、言われた通りにする。


壁側を向いていたら、エミリーさんから苦情がきた。


「何で壁なんか見てるの?

私、そんなに魅力ないかな?」


「いや、魅力があり過ぎるから困ってるんですよ」


只でさえ美人なのに、白い肌に豊満な胸、くびれた腰に、髪と同じ色をした陰毛。


男の欲情をき立てる要素が揃っている。


「見せているんだから、堂々と見て良いわよ?

その代わり、私もあなたのを見せて貰うしね」


「・・・」


「そんなに心配しなくても、ここで最後までなんてしないから大丈夫よ。

私だって、初めてはベッドの方が良いもの」


そこまで言われると、何だか緊張してることが馬鹿らしく思えて、自然体に戻って彼女の方を向く。


ちょうど、エミリーさんが浴槽に入って来るところだった。


「エッチ」


ある場所に目が釘付けになり、彼女に苦笑されながらそう言われる。


「済みません」


「修、もうそう呼んでも良いよね?

しっかり男の人なんだね」


「・・・」


「フフッ、元気一杯」


「院長先生に顔向けできない気が・・」


「母に気を遣ってるの?

それなら、もう私の気持ちは伝えてあるから大丈夫。

跡継ぎは、修と作りたいってね」


「何でそこまで俺を・・」


「人の価値や長所なんて、本人には分かり辛いものよ。

それより、足を延ばして、ちゃんと肩まで浸かって。

温まったら、背中を洗ってあげるから」


身体を流すのに使ったせいで、更に湯の量が減っている。


ふと周囲を見れば、浴槽に水を入れる蛇口がある。


「水を足しても良いですか?

俺が火魔法でお湯に変えますから」


「ああ、火魔法が使えたのよね。

でも、かなり魔力を使うと思うわよ?

探索帰りなのに大丈夫?」


「問題ありません。

それに、入浴でも魔力が回復すると聴きました」


「じゃあお願いするね」


エミリーさんが立ち上がり、浴槽の縁に腰掛ける。


無防備な彼女の姿に目を奪われそうになりながら、俺は勢いよく水を出し、その下に手を入れて火魔法を使い始めた。

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