第29話

 「おう、待ってたぞ。

これがその代金と明細だ」


硬貨の入った小さな革袋から、専用のトレーにジャラジャラと金貨を出し、ニヤッと笑うおっさん。


俺が差し出した受取証と引き換えに、7枚もの金貨がトレーに載せられている。


「グレートボア1体につき金貨1枚。

本当はもう少し高いんだが、その分はうちの捌き代だ。

贅沢しなければ、これだけでも1年分の生活費になるぞ」


「有り難うございます。

実はまた狩ってきたのですが、買い取っていただけますか?」


「また仕留めたのか!?

運の良い奴だなあ。

・・あんまりこの話は他でしない方が良いぞ?」


「分ってます」


「裏に回ってくれ」


解体場で、今回の分、9体のグレートボアと48体のハイオークの死体を出す。


「・・お前、ギルドランク幾つだっけ?」


「Gです」


「だよなあ。

依頼を受けて倒してないから、この分もランク評価には繋がらんしな。

やっぱギルド長に進言して、買い取り金額も評価に入れるようにしないと駄目だな。

お前のような超有望株を他に取られかねん」


「ランクは徐々に上げていきますので、別に気にしていませんよ?」


「お前はそうかもしれんが、もし何かあった時、ギルドとしてはできるだけ腕の立つ奴に依頼したい。

そのためにも、冒険者達の能力は、できる限り正確に把握しておかないといけない」


「この町の冒険者で1番ランクの高い人は、今幾つくらいなんですか?」


「Bだな。

国中でも、Aは3組しかいない。

Sは未だにゼロだ」


「評価が厳し過ぎるのでは?」


「人の命が懸かってるんだぜ?

厳しいくらいでちょうど良いんだよ」


「失言でした」


「まあ、お前ならその内必ずAにはなるだろう。

もしかしたら、初のSに届くかもな」


「他の冒険者達の強さを知らないので、何とも・・」


「パーティーを組んだことないのか?」


「ええ、1度も」


「受付に言えば、募集の張り紙を用意してくれるぞ?」


「まだソロで良いです。

それに、仲間になる人は、自分で探したいから」


「・・そうか。

買い取りの話に戻るが、これだけあると、捌くのに1週間は欲しい。

大体の金額は分るから先に言っておくと、グレートボアは前回と同じだな。

ハイオークはそれより安くて、1体で準金貨1枚ってところだ」


「では今回は前払いにします」


「良いのか?

希にだが、魔物の中から金になる何かが出て来ることがある。

前払いだと、その分はギルドの取り分になるが・・」


「構いません」


「分った。

じゃあ受付で直ぐに報酬を払うから、戻るぞ」


全部で金貨33枚を貰って、今度は武器類の買い取りカウンターへ。


魔物から奪ったり、森で拾った武器類を全て提出して査定を受ける。


カウンターに載り切らない量の武器類を見て、担当者の顔が引きっていた。


239個で、合計金貨34枚。


中には多少質の劣る物もあり、相場より安くなった。


最後に、エレナさんが担当する総合受付に行き、薬草400本分の報酬と評価を得る。


「おめでとう。

今回でFランクに昇格したわよ。

Fとはいえ、薬草採取だけで昇格した人は、修君が初めてかも」


嬉しそうな笑顔で、そう言ってくれる。


「有り難うございます。

それで、今回も森で入手した身分証をお渡ししたいのですが・・」


「あら、有り難う。

・・最近はね、そういう活動をしてくれる人が減ってきてるのよ。

届けてもお金にならないし。

でも、ご遺族の方々の中には、もしかしたら何処かで生きているかもしれないという希望を抱えたまま、前に進めないでいる人も多いの。

だから、こうして遺品が戻ることで、その方達もやっと気持ちを切り替えることができるのよ」


そんな言葉を聴いて、少し出し辛くなる。


後回しにしていたので、100枚以上あるからだ。


「済みません。

何かのついでにと、持参するのを後回しにしていたので、数が多くなりました」


あるだけ全部、カウンターの上に載せる。


「・・ざっと見ても、100枚以上あるわね。

随分探索を頑張ってるのね」


神妙な顔をして身分証を提出した俺に、エレナさんは優しい口調でそう言い、慈しみの目を向けてくれる。


「今夜の訓練、楽しみにしてるね」


俺だけに聞こえるような声でそう言うと、彼女はまた、普段の姿に戻った。

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