第27話

 「済みません、魔物の買い取りはここで合ってますか?」


ギルドのそれらしき場所で、暇そうにしている受付らしい男性に、そう声をかける。


「おう、合ってるぞ。

物は何だ?」


「グレートボアです」


「そいつは大物だな。

・・お前、もしかして『アイテムボックス』持ちか?」


男の声が、若干小声になる。


「・・そうです」


「すまんが裏に回ってくれ」


椅子から立ち上がって歩き出した男性に付いて行くと、大きな倉庫のような建物に辿り着く。


中に入ると、どうやら解体場らしく、少し血生臭い。


「ここに物を出してくれ」


指定された床の上に、これまでに狩った、7体のグレートボアを出す。


「おいおいおい、お前一体何者だ?

こいつはそう簡単に狩れるような魔物じゃないぞ?

見つけるだけでもかなり苦労するんだ」


床に並べた死体を見て、男が呆れかえる。


「しかもこれだけの魔物が入る『アイテムボックス』持ちか。

すまんが、ご領主様にだけは報告しないとならん。

大容量の『アイテムボックス』持ちなんて、軍ではのどから手が出るほど欲しいからな」


「分りました」


ギルドと取引する以上、それは仕方ないな。


解体場に誰もいないのは、秘密が漏れるのを最小限にしてくれるという配慮だろうし。


「買い取り方法はどうする?

全て込々の前払いか、全部をさばいてからの後払い。

お得なのは後者だが、直ぐに金が欲しい場合は前者を勧める。

7体ともなると、捌くのに2日程時間が掛かるからな」


「急いでないので、後払いでお願いします」


「分った。

ギルドカードを出してくれ」


呈示すると、それを基に受取証を書いてくれる。


「・・珍しい名前だな。

なあ、今後もしギルドから『アイテムボックス』持ちへの依頼が発生したら、引き受ける気はあるか?」


「俺にも可能で、あまり変な依頼でなければ・・」


「その時は最優先でお前を指名するよ」


肩をポンと叩かれ、受付の男性は満足そうに笑った。



 ギルドの前で目立たないように待っていると、時間通りにエレナさんがこちらにやって来る。


「修君、お待たせ」


「お疲れ様です、エレナさん」


「・・何かあった?

今日はいつもみたいに緊張していないのね。

私に慣れてくれたのかな?」


からかうように腕を組んでくる。


「あの、他の冒険者達の視線が痛いので、冗談にしても場所を選んでいただけると・・」


「フフッ、修君とはもう友達だもの。

これくらい平気でしょ。

それにこうすれば、私にアプローチしてくる変な人達が減るし」


そうかなあ。


逆にあおっているような気がするけれど・・。


「お腹が空いたから、早く移動しましょ」


「はい」



 マーサさんの店で夕食を取ってから、やはり腕を組まれてエレナさんの家まで歩く。


この世界にはまだワイヤーフレームのブラはないらしく、彼女の豊かな胸の柔らかさを腕に感じて、平気な顔を維持するのに、かなりの労力が必要だった。


「こうして修君と魔力循環をしていると、何だか恋人同士みたいね」


部屋に着いてから、必要なことを済ませた彼女といつものように両手を繋ぎ、魔力循環の訓練を開始して暫く、顔を上気させ、少し汗ばんだエレナさんの口から、そんな言葉が漏れる。


体温の上昇と共に、彼女の甘い体臭が部屋に漂い始めて、雰囲気が少し官能的になっている。


「俺なんかでは、エレナさんに釣り合わないのでは?」


彼女の魅力にあらがうように、少しおどけてみせる。


「そんなこと言って、既に別のと親しくなっているのは誰かな?」


閉じていた目を開けて、彼女がこちらをじっと見つめているのが分る。


「エレナさんは、今までに男性と付き合ったことはあるのですか?」


俺は目を閉じたまま、やや強引に話題を逸らす。


「私?

1度もないわよ?

騎士団員時代でも、団長のお気に入りだったから誰も誘ってはこなかったし、私自身も良いなと感じる人はいなかったから。

逆に今は、断るのが大変なくらい冒険者達が誘ってくるけどね」


まあ、分る気がする。


これだけの美人さんだから、品性を大事にするような騎士団員からは、きっと高嶺の花として敬われていたのだろう。


ギルドに所属する冒険者達には、そういう高貴な考えを持つ人は少ないだろうしな。


「修君はどうなの?

恋人がいたことはあるの?」


「ありません。

友人なら、最近になって大分増えてきましたね。

自分でも驚いています」


エレナさん、ミーナ、エミリーさん、そしてリアルの源さん。


もしかして俺、一生分の運を使い切っていないだろうか?


「・・あんまりうかうかしていられないかな」


エレナさんが小声で何か呟いていたが、よく聞こえなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る