第25話

 「竜崎さん」


「はい、お嬢様」


「諜報部に、西園寺君の交友関係を調べて貰ってください」


かしこまりました」


放課後、迎えの車に乗るや否や、美麗は自身のボディーガード兼運転手である彼女にそう告げる。


「何か気になることがございましたか?」


美麗の右横に座る女性、辰巳たつみが、彼女にそう尋ねる。


「(私の)西園寺君に他の女性が接近している可能性があります」


「・・それは穏やかではありませんね。

(その相手を)潰しますか?」


美麗の左に座る女性、土岐どきが、不穏なことを口にする。


この3人の女性は美麗の側近中の側近であり、彼女と気安く話をすることを許された、数少ない人達である。


美麗自身はそれ程気にしていないが、彼女の家族、『オリジン』グループの会長である祖父と、主要企業の社長を幾つも務める父親が、美麗を目の中へ入れても痛くないほどかわいがっているため、彼女に近付ける人間は極限られている。


勿論この3人は、美麗の護衛に要求される数々の試験や実技に全て合格したスーパーエリート達であり、その辺の国会議員より遥かに強い権限を持っている。


『オリジン』グループ。


それは約120年前に誕生した、今や世界経済の大半を牛耳る超巨大企業体。


AIやITなどのインフラ、ロボット産業、医療、製薬、重工業にエネルギー関連、飲料や食品部門に穀物メジャー、運輸、出版、音楽やゲーム、映像部門と、『オリジン』なしでは世界経済が回らないとまで言われている。


日本という国を裏から支配し、諸外国にも治外法権が認められた広大な土地を幾つも所有し、他の先進国の指導者や支配者達とは非常に強い繋がりを維持している家柄。


それが源家の真の姿だ。


「そんなことをしては駄目よ。

西園寺君に嫌われてしまう。

彼に相応しい人物かどうかを探り、相応しくなければ、何処か遠くへ行って貰いましょう。

潰すのは、彼に危害を加えた時だけ」


「問題なければ放置で宜しいのですか?」


「ええ。

彼も男性ですもの。

偶には違う女性と遊びたいでしょうし、彼の役に立ってくれるのなら、その愛情を少しくらい分けてあげても良いわ」


「その相手が、西園寺様と結婚したいと言い出した場合は如何いかが致しますか?」


「・・・」


美麗の纏う雰囲気が変わる。


「・・畏まりました」


「いっそ立法と司法に圧力をかけて、重婚制度でも作らせましょうか。

彼が気を許す相手に、あまり手荒なことはしたくないしね」


車が、東京都心とは思えないほど、広大な敷地を有する屋敷に到着する。


門の中に入ると、数人のメイドが頭を下げつつ出迎える。


漫画やアニメにあるような、使用人総出で出迎えるようなことはしていない。


其々の仕事が中断されて、非効率だからだ。


「おかえりなさいませ」


玄関ホールで、男装の麗人であるおおとりが、美麗達を出迎える。


彼女はこの屋敷の管理を任された、所謂いわゆる執事の役割を果たしている。


「ただいま」


「米国に滞在中の大旦那様と、欧州を視察中の旦那様から、其々贈り物が届いております」


「また!?

・・おじいさまもお父様も、もう少し自重して欲しいわ。

お菓子の類なら皆で食べて良いわよ?」


「有り難うございます。

では貴金属や株式以外の物はそのように」


「株?

・・ああ、未上場のやつね。

幾ら将来有望とはいえ、青田買いし過ぎなんじゃないかしら。

まあ、それが上場後に数百倍に化けたこともあるから、有難く貰っておきますが」


歩きながら話を続ける。


「他には、パーティーへのお誘いが数通」


「全部断って」


「お嬢様が支配株主となっておられる各企業の代表達から、今後の見通しについてのメールが5通」


「お茶の後に目を通します」


「学校の撮影班から、本日の西園寺様のベストショットが・・」


「直ぐに部屋に持って来て頂戴」


美麗の帰宅後は、こんな調子で時が流れていた。

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