第24話

 ミーナと別れてから、周囲の『マッピング』を広げるために数時間程森の中を探索し、エミリーさんの指導に間に合うように町に戻る。


今回はここまでとし、【ログアウト】を突いて部屋に帰った。


勉強や入浴、食事を済ませ、日付が変わった頃にベッドに入る。


ゲーム内とはいえ十分な運動をしているせいか、直ぐに眠りに就いた。



 「西園寺君、おはようございます」


「おはよう、源さん」


「今日のお昼は・・」


「君さえ良ければご一緒するよ」


彼女のいつもの台詞を遮り、そう答える。


「嬉しい!

何だか今日は積極的ですね」


「俺も君と食事をするのは楽しいから」


「・・個室、予約しておきます」


少し頬を赤らめた源さんは、それだけ言うと、さっさとスマホを操作し、いつものように世間話をすることなく授業の準備を始めた。



 「何かあったのですか?」


個室でかつ丼を食べ始めた俺に、自分のビーフシチューセットには手を付けず、源さんがそう尋ねてくる。


「ん・・どうして?」


何だか凄く真面目な顔をして、こちらをじっと見ていらっしゃる。


「今日の西園寺君はいつもと違います。

これまでは、もっと私に対して遠慮というか、距離を取るような感じがありましたが、今のあなたにはそれがありません。

極自然な感じで私と接している。

勿論、そうしたあなたが不快だと言っているのではありません。

寧ろ逆、とても嬉しいです。

・・でも、たった1日であなたがこうも変わった理由が分りません。

そのことが私を酷く不安にさせる。

教えてください。

一体何があったのですか?」


・・俺、そんなに変わったかな?


確かに、女性に対して持っていた、漠然とした恐れのようなものは無くなったな。


ミーナの裸をつぶさに見て、無知故に女性に抱いていた苦手意識が消えたし、濃厚なキスまでされたことで、異性に対する認識を改めもした。


『何だ、俺と同じじゃないか』と。


今までは、女性を神聖視に近いような眼差しで眺めていた気がする。


源さんに対しては、特にそうだ。


よく分らない、とても美しい女性ひと


少しでも変なことをしたり、ちょっとでもおかしな態度を取ったりした途端、俺の前から消えてしまうのではないかと不安だった。


以前に1度、そういう出来事があったからな。


もう随分と昔の話だけど。


だから俺はそれ以来、必要以上に女性に踏み込まないし、係わらないようにして生きてきた。


結果的に人付き合いが悪くなって、孤立化した小、中時代を送ってきたのだ。


「・・端的に言うと、女性に慣れたということかな」


「!!!」


源さんが、この世の終わりとでも言うような、絶望的な表情で俺を見る。


「・・西園寺君、恋人がいらしたのですか?

その方と・・結婚した男女がするような、エッチなことをしてしまったと・・」


「え!?」


「・・そうですよね。

西園寺君も若い男性。

そういうことにご興味がお有りですよね。

私が腑甲斐無いばかりに、他の女性に先を越されてしまうなんて・・」


・・あの、泣くようなことでしょうか?


それに、少し誤解してますけど。


「私では駄目ですか?

・・私は、西園寺君に愛人が何人いようと構いません。

正妻を私にしてくだされば、他には何も文句を言いません。

あなた1人にずっと尽くしていきますから」


涙を流しながら、源さんが俺にそう言ってくる。


源さん、もしかして俺のこと好きだったの!?


「・・ええと、間違ってたら申し訳ない。

源さんは今、俺に告白に近いことをしてる?」


かつ丼を食べるのを止めて、恐る恐るそう聴いてみる。


だって、源さんだよ!?


男なら、特殊な性癖を持つ人を除いて、誰もが嫁に欲しいと思うような女性だ。


容姿、頭脳、性格、財力、その全てが抜きん出ている。


「あなたに求愛しています。

将来は、私と結婚してください」


「・・・」


「何でもしてあげます。

どんな夢だろうと叶えて差し上げます。

絶対に後悔させませんから!」


「・・あのさ、前にも聴いたと思うけど、どうして俺にそこまでしてくれるの?

どう考えても立場が逆でしょ?

本来なら俺の方がそう言って君を口説くんじゃないの?」


「・・もう少し、もう少しだけ待っていただけませんか?

あなたに嫌われたくないんです。

2人の関係をもっと確かなものにするまで、私にお話しする勇気が湧くまで・・。

自分勝手なことは重々承知しています。

ですがどうか・・」


彼女がここまで渋る理由って何だろう?


俺にはさっぱり思い付かない。


「分った。

じゃあこの話題は封印する。

源さんの方から話してくれるまで、もう俺からは何も言わないよ」


これだけ考えても分らない以上、それ程酷い理由とは思えない。


「有り難うございます!」


「取り敢えず涙を拭いてくれ。

俺が君を泣かせているようにしか見えないし」


ドアに付いている窓を振り返って、誰も覗いていないことを確認する。


「・・先程の返事だけどさ、まだ付き合ってもいないし、学生の身でもある訳だから、先ずは正式に友達として交際していこう。

それで源さんが俺に愛想を尽かさないようなら、次の段階に進めば良い。

俺には、君に不満な点など1つもないのだから」


「私だって西園寺君に不満などありません。

ですが、あなたがそう考えるのなら、そうしていきましょう」


高そうなハンカチで涙を拭いた彼女が、嬉しそうに笑う。


「絶対に私と結婚したい、そう思わせてみせますから」


少し冷めてしまったビーフシチューにようやく手を出しながら、彼女ははっきりとそう言った。


「・・ところで、今現在、誰かお付き合いされてる方はいるのですか?」

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