第23話

 水から上がったミーナに、【アイテムボックス】からタオルを取り出してそれを纏わせ、その間に彼女の服を焚火で乾かす。


その時間を利用して、2人で色々と話をした。


お互いに、『ミーナ』、『修さん』と呼び合うことにしたのもその内の1つ。


服が乾いて彼女が着替える際、『折角なので、今の私を目に焼き付けておいてください』とわれ、その通りにしてしまった。


たはは、俺も男のさがには勝てなかったようだ。


堂々と着替えているようで、彼女の顔も、かなり赤かったけれどね。



 帰り道、ゴブリン数体と遭遇したので、ミーナの戦い振りを見せて貰った。


短剣がJだったし、彼女自身も偶に村の付近で狩りをしていたそうだから、Nランクの魔物なら大丈夫だと考えてのことだ。


実際、彼女の動きはゴブリンを圧倒し、相手が複数の時は、俺が他を足止めするだけで十分だった。


村に戻り、門の手前で【アイテムボックス】から出しておいたハイオークの死体を引きりながら、ミーナの家まで行く。


その時には、彼女の父親、つまりこの村の村長も、畑仕事から帰って来ていた。


「無事に依頼を終えることができました。

これがその魔物の内の1体です。

もう1体は俺の魔法で黒焦げになってしまい、とても食べられそうにないので、現場に残してきました」


家に居た3人の内、先ずは依頼者であるミーナの祖母にそう報告する。


「有り難う。

これであいつも成仏できるだろう。

約束した報酬だよ」


準金貨をテーブルに載せたので、俺はそれを辞退した。


「この魔物がお金を持っていたので、報酬はそれで結構です。

あなたからは頂きません」


「『魔物が持っていた物は、倒した者が全て得る』

これはこの国の決まりだ。

だから、報酬はそれとは別に払わなくてはならない」


「では一旦受け取って、そのままミーナさんに差し上げますね?」


「ミーナのことが気に入ったのかい?」


「友達になりました。

今後は彼女が暇な時に、一緒に探索すると約束しています。

・・宜しいでしょうか?」


「ミーナが了承したのなら、別に構わないよ」


「ちょっとお義母さん。

ミーナに何かあったらどうするんですか」


「彼と一緒なら大丈夫だよ。

この魔物をご覧。

これは恐らくハイオークだね。

Iランクの魔物だよ?

村の衆全員でかかっても倒せないだろうさ」


「でも・・」


「何よりミーナが彼を見初みそめたんだ。

これまで他の男に見向きもしなかったこの子がね。

・・あたしは、ひ孫の顔が見られるのなら、寧ろ応援するよ」


「もし娘に手を出したら、必ず責任を取って貰いますからね?

最低でも、子供の1人は作っていただきます。

あとに残るような怪我をさせた場合も同様ですよ?

約束できますか?」


キッと俺をにらんで、ミーナの母親がそう言ってくる。


「お約束致します」


真顔でそう言い切った。


「・・そこまで言うのなら、この子もまんざらでもないようですし、まあ、良いでしょう」


渋々みたいだが、どうやら認めてくれるらしい。


ここで初めて、それまで黙って俺を観察していた父親の方が口を開く。


「君は幾つかね?」


「16歳です」


「ミーナと同じ歳か。

見た所かなり品があるが、貴族の出身かい?」


「いいえ、遥か遠方から流れて来た移民です」


「・・ふむ、身分的には問題ないんだな。

この子はうちの一人娘だ。

もし妻や妾に迎えた場合、跡を継げとは言わないが、跡継ぎは残して貰わねばならない。

うちはこれでも百数十年も続く名家なんだ。

そこは本当に大丈夫なんだね?」


「もし彼女とそういう関係になった時は、ご期待に沿えるよう精一杯頑張ります」


何を言ってるんだ、俺?


「その言葉を信じよう。

どうか娘を護ってやってくれ」


「はい!」


「有り難う、お父さん」


ミーナが嬉しそうに微笑む。


「何なら、彼と一緒に暫く村を出ても良いぞ?

子供ができたら一旦帰って来れば良い」


「本当!?」


「いや、まだ住む家も購入していないので、それはもう少し後にしていただけると・・」


「うちの村に家を建ててやろうか?」


「光栄ではありますが、今はまだ結構です」


このまま押し切られそうになったので、話題を変える。


「ハイオークの死体はお好きに処分してください。

それから、これが現場に落ちていた村人達の身分証です」


「有り難う」


その中から幼馴染の物を見つけたミーナの祖母が、涙ぐむ。


「修さんは、全員のお墓まで建ててくれたんだよ?」


「有り難う。

・・有り難うね」


「簡単な物で済みません。

ミーナさんも熱心に手伝ってくれましたから。

・・では、今回はこれで失礼致します」


「私、門まで送ってくる」


2人で彼女の家を後にし、夕方に差し掛かった村内を歩く。


「両親達はああ言いましたけれど、気にしなくても大丈夫ですよ?

勿論、そうなったら嬉しいですが、焦らず気長に待っていますので・・」


「娘思いの良いご両親だよな」


亡くなった自分の両親を思い浮かべながら、そう口にする。


「修さんのご両親も、素晴らしい方々だったみたいですね。

あなたの表情で分ります」


「ああ。

とても尊敬できる人達だったよ」


その後暫く、無言で歩く2人。


門が見えてくる。


いきなり腕を引っ張られ、ミーナに門の陰へと連れ込まれる。


「御免なさい」


そう言うや否や、首に両腕を回されて、深いキスをされる。


1分くらいそうしてから、やっと唇を離した彼女は、上気した顔に無理やり笑顔を作ってこう言った。


「友達以上、恋人未満のキス。

これから宜しくお願いします」


やはり恥ずかしいのか、こちらを振り返りもせずに家まで走って行く。


「・・舌まで入れるのは、どう考えても恋人以上のものだと思う」


彼女の感触を思い出しつつ、これ(ゲーム世界の経験)ってファーストキスになるのだろうかと、真剣に悩む俺だった。

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