第22話

 15分程周囲を探した結果、ここで亡くなった村人の身分証4枚と、ハイオークが持っていた硬貨、計3万2400ゴールド、鉄の斧と槍を入手した。


村人達の遺体は損傷が激しく、衛生面でも問題があったため、ミーナさんの許可を得て、俺がファイアボールを使って火葬した。


河原に簡単な墓を建て、2人でそれらに手を合わせてから帰ろうとすると、ミーナさんが口を開いた。


「お墓を作ったので身体が土と汗まみれになってしまいました。

ここで水浴びをしていきたいのですが、良いですか?」


「構わないけど、丸見えなんじゃないの?」


見通しの良い河原には、岩以外、何の遮蔽物しゃへいぶつもない。


「秘密の場所があるんです。

薬草やハーブを取りに来た時とか、偶に1人で入ったりしてるんですよ」


彼女に案内されたその場所は、大きな岩と岩の間にできた、直径2メートルもない水溜り。


隙間から川の水が流れ込んで来るから、水自体は澄んでいる。


「一緒に入りますか?」


「え!?

・・いや、折角だけど遠慮しておくよ。

周囲を見張っていないといけないしね」


「ここは普通には覗けないし、知らないと来ないような場所ですから、そこまで警戒しなくても大丈夫ですよ?」


「魔物は倒したけれど、念のためにね」


「残念です。

・・じゃあ私だけ失礼しますね」


「ええ!?」


岩の陰を利用して、ミーナが衣服を脱いでいく。


俺が見ているのに、全くお構いなしだ。


てっきり服のまま入るのかと思っていたのに、下着まで全部脱いでしまう。


「フフッ、気持ち良い」


水に入った彼女は、身体を洗った後、汚れた衣服も洗い始める。


俺はその様子を呆然と眺めていた。


本来は別の方向を向いて見ないようにすべきなのだろうが、初めて見た女子の裸体に目を奪われ、そのまま固まってしまった。


着やせするようで、重量感のある大きな胸がその動きに合わせて揺れ、白い肌が挑発的に水をまとう。


「・・もしかして、女性の裸を見るのはこれが初めてなんですか?」


じっと見過ぎていたのか、ミーナが何故か嬉しそうにそう言ってくる。


「済まない!

あまりに綺麗だったから・・」


彼女の言葉で身体の強張りが解けて、慌てて横を向く。


「別に見ていても構いませんよ?

私だって、あなたに見て貰いたくて頑張ったのですから」


「え?」


「だって、こうすれば絶対に私のことを思い出してくれるでしょう?」


「・・・」


「勘違いしないでくださいね。

私、男性に肌を晒したのはこれが初めてですからね?」


「どうして・・?」


「フフッ、西園寺さんを狙ってますから。

他に誇れるものがないので、裸で勝負をかけてます」


「・・・」


「分不相応な望みは致しません。

子供さえ作ってくれたら、婿に入らなくても大丈夫ですよ?

数ある妾の内の1人で結構です。

村に立ち寄った際にかわいがって貰えたなら、それで十分です」


「そんな関係で寂しくないの?」


「寂しくないと言えば嘘になりますね。

でも、田舎の平民が西園寺さんのような素敵な男性を狙うとしたら、これくらいの妥協はしませんと無理でしょう」


「ミーナさんは自分を卑下し過ぎだと思う。

君は凄く綺麗だし、きっと妻に欲しいと思う人は大勢いるよ」


「私はあなたが良いんです。

もうあなたでないと嫌なんです。

ほとんど一目惚れでしたが、とても優しくて、そして凄く強い。

一緒にお墓に手を合わせてくれた時、嬉しかったです。

ハイオークの死体を村にくださると聞いて、有難かったです。

あなたとなら、たとえ離れて暮らしていても、ずっと仲良くしていける。

そう思うんです」


水中から穏やかな顔をこちらに向け、彼女はそう言い切った。


「・・御免。

今はまだ、何とも言えないんだ。

俺自身、修行の途中だし、ミーナさんとそういう仲になっても、最後まで責任を取れるとは言い切れない。

途中で死んじゃう可能性だってあるしな。

だから、明確に約束できるとしても、ずっと先かもしれない。

それじゃあ君に失礼だろう?」


「それでも良いです。

私、ずっと待ってますから。

今は友人としてでも、あなたとのご縁が途切れないなら、私は待てます」


「・・本当にそれで良いの?」


「はい!」


俺って気が多いのかな?


最近になって、好ましく思える女性が随分と増えた。


「では友達からということで。

・・もし良かったら、俺が村の付近で探索をする時、一緒に行かないか?

ミーナさんの暇な時で構わないからさ」


「嬉しい!

是非お願いします!」


こうして、俺に、この世界で初めての友達ができた。

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