第21話

 「御免なさい。

怒ってますか?」


村の門を出て直ぐ、隣を歩いている少女から、上目遣いでそう謝罪される。


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氏名 ミーナ(16)


パーソナルデータ 力J 体力J 精神I 器用H 敏捷I 魔法耐性J


スキル 短剣J 農業I 


魔法


ジョブ 農民


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「ん?

どうして?」


「お母さんは失礼なことばかり口にするし、私も勝手に付いてきちゃったから・・」


「気にしてないから大丈夫だよ」


「本当ですか!?

・・良かった」


随分と大袈裟だな。


あれくらい普通だと思うけど。


艶のある黒髪をポニーテールにした、かわいらしい少女。


瞳が大きく、目鼻立ちの整った、とても綺麗な顔をしている。


身長は160センチ弱くらいか。


「冒険者さんは・・」


「西園寺で良いよ」


「西園寺さんは、普段は何方どちらにお住まいなんですか?」


「今の所、ゼルフィードを拠点にしてる」


「ご家族とご一緒に?」


「・・家族はもう誰もいないんだ」


「御免なさい」


ミーナがしゅんと下を向いてしまう。


「気にしなくて良いよ。

ミーナさんは一人っ子なの?」


「そうです。

だから早く婿を貰えって周りがうるさくて。

でも、村には良いと思える人がいないんですよ」


何故か俺をじっと見つめてくる。


「あの村、何て言う名の村なのかな?」


「ニエの村って言います」


「何か特産品はあるの?」


「赤芋と白芋が有名ですね。

飢饉対策にと国から勧められたのが始まりです」


「赤芋?」


「ええ。

焼いたりふかしたりして食べると、甘くて美味しいです」


もしかして、サツマイモのことかな?


「白芋は、シチューに入れたり、茹でて食べたりします」


こちらはきっとジャガイモだ。


「・・西園寺さんは、今誰かとお付き合いしているんですか?」


「え?

・・俺は地味だし目立たないから、女性には縁がないね。

友人と呼べるような人は(リアルに1人)いるけれど」


「ええーっ!

・・都会の女性は見る目がないですね。

こんなに素敵なのに」


急に驚いたかと思ったら、今度は何かをブツブツ呟いている。


面白いだ。



 「あ・・もう少しで目的地に着きます」


森に入って暫くすると、ミーナが緊張した声を出す。


耳を澄ますと、かすかに水が流れる音がする。


足音を忍ばせながらゆっくり近づくと、川岸に2体の魔物が座っている。


どうやら食事中のようで、周囲に動物の骨が散乱していた。


『名称:ハイオーク

ランク:I

素材価値:肉が高く売れる(希に金品を持っている)』


ランクIの魔物は初めて見る。


普通のオークより二回りくらい大きく、色が黒い。


冒険者達から奪ったのか、大きな斧と槍を持っていた。


「・・無理に戦わなくても良いですよ?

時間は掛かりますが、町の騎士団に依頼を出せば済むことですし」


実際に魔物を見たミーナが、怯えるように小声でそうささやいてくる。


「大丈夫。

約束はちゃんと守る」


俺のパーソナルデータは、そのほとんどがGランク。


Iより2つも上だ。


それに、開けた場所で、しかも河原。


遠慮なく火魔法を打てる。


「ミーナさんはここから絶対に動かないでね。

念のため、護身用の短剣を渡しておこうか?」


「大丈夫です。

自分のを持ってますから」


「じゃあ行ってくる」


「どうかお気を付けて。

御武運をお祈りしています」


彼女の位置を特定されないよう、少し離れた場所から姿を現し、1体に向けて、今自分が放てる最高のファイアボールを発射する。


ゴウッ。


ようやく俺に気付いた敵は、腰を上げたところでその魔法を食らい、狙った1体が炎に包まれる。


「ちょっと油断し過ぎじゃないか?」


うめき声を上げながら、ごろごろ転がって火を消そうとしていた魔物が、直ぐに力尽きる。


それを見たもう1体が、怒りの声を発しながらこちらに向かって来る。


俺は剣を抜かずに、空手の構えを取った。


体中に魔力を循環させ、肉体を強化する。


「せいや!」


斧で俺を切り裂こうとした相手に、その攻撃をかわしながら、正拳突きをお見舞いする。


「グガッ」


骨を折る感触を得ながら、動きの止まった相手に連続攻撃を繰り出そうと思ったら、たったの2発で倒れてしまった。


「・・意外ともろいのな」


久々にやる気を出しかけたところで呆気なく終わってしまい、やや興ざめしていた俺の所に、ミーナが興奮しながら駆け寄って来る。


「凄いです西園寺さん!

凄い凄い!」


「・・いや、この魔物、見掛け倒しも良いとこだったから」


「そんなことないですよ!

とても素敵でした!」


「・・そう?

有り難う」


「これからどうします?」


「先ずは戦利品と遺品の回収かな。

魔物の所有物や、ここで亡くなった人達の遺品を探そう」


「はい。

・・こちらの魔物は黒焦げですね」


「面目ない。

この魔物、肉が高く売れるらしいから、村に持ち帰れば皆喜んだかもしれないのに」


「そうなんですか?

でも大きいから、持って帰るの大変そうですね」


「その点は大丈夫。

俺は【アイテムボックス】が使えるから」


「ええ!?」


「なるべく秘密にしておきたいんだ。

協力してくれると助かる」


「分りました。

絶対誰にも言いません」


顔の前でグッと拳を握り締め、そう約束してくれる。


本当に面白いだな。

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