第20話

 洞窟を出てから3時間後、森を抜け、荒れ地に出る。


「やっとまた普通に走れる」


先程までの森は低レベルの魔物が多く、グレートボアやハイゴブリンなど、お金になる魔物は少なかった。


人里に近いから、他の冒険者達に狩られているのだろうか。


弱い魔物は火魔法の良い練習台にはなったが、俺自身のレベル上げには向いていない。


既に夜が明けて明るくなった空の下、馬車道を走ること約1時間、2つ目の村が見えてくる。


門番すらいない門を抜け、千数百程の集落の中にお邪魔する。


村人達が身に付けている服は、町ほど洗練されてはいないが、それなりに奇麗でみすぼらしさは感じない。


ご都合主義というやつだろうか。


物珍しげに周囲を見て回っていた俺に、女性や子供達がチラチラと視線を投げかけてくる。


余所よそ者だから目立つのかな。


「あの、冒険者の方ですか?」


若い女性の1人が俺に近付いて来て、そう声をかけられる。


「まだなりたてではありますが、そうです」


「折り入ってご相談があるのですが、どうか家まで来てはいただけませんか?」


「・・分りました」


他人の目がある往来で堂々とそう言ってきたし、不審な様子は見られないので、行ってみることにする。


周囲より大きな家に案内されると、他に女性が2人居た。


「・・その人は?」


彼女の祖母らしい人がそう口にする。


「冒険者さんよ。

新人さんみたいだけど、弱そうには見えないし、例の件を相談してみようと思って」


「1人で大丈夫かねえ。

ちゃんと報酬を確認したのかい?」


もう1人の女性、彼女の母親らしい年配女性もそう口にする。


「それはこれからよ。

先ずは話を聴いて貰わないと」


「ギルドカードを見せておくれ」


年配女性にそう言われ、黙って差し出す。


「Gね。

・・さすがに報酬は後払いになるけれど、それでも良いのかい?」


「構いませんが、引き受けるかどうかはまだ分りません」


「もう、彼に失礼でしょ!

大体、お父さん達村の衆では勝てないんだし、町まで依頼に行くのにも相当時間が掛かるじゃない!

それまであそこを使えなくても良いの!?」


「・・それはまあ、困るけど」


娘の剣幕に耐えかねて、母親が視線を逸らす。


「御免なさいね。

そこに座ってどうか話を聴いてください」


大きなテーブルに備え付けの椅子を勧められ、その対面に座った彼女が話を始める。


「この村から歩いて30分程の森の中に、私達の畑に水を引いている川があるんですけど、そこは質の良い薬草やハーブの産地でもあって、村に無くてはならない場所なんです。

でも最近、その辺りに魔物が棲むようになってしまって、薬草を取りに行った村人が何人か帰って来ませんでした。

様子を見に行った人の話では、その魔物はオークに似ているそうです」


「似ている?

オークではないのですね?」


「大きさや色が全然違うと言ってました」


「1体だけですか?」


「・・2体居ると」


「ギルドを通した依頼ではないので、報酬は話し合いになりますが?」


エレナさんと食事をしていた際、話題に上ったことがある。


移動途中で立ち寄った村などでは、時々個人的な依頼を持ちかけられることがあるそうだ。


そうした時、その依頼を受けるかどうかはその者次第だが、ギルドを通さぬ依頼は評価に繋がらない上、大体において相場よりかなり安いらしい。


「構わないよ。

準金貨1枚出そう」


それまで黙って話を聴いていた彼女の祖母が、おもむろに口を開く。


「ちょっとお義母さん、そんなに・・」


「あんたは黙っといで。

・・魔物に殺された内の1人は、あたしの幼馴染なんだ。

かたきってくれるなら、それくらいは払うよ」


嫁を黙らせた後、俺をじっと見つめながらそう言ってくる。


「お引き受け致します」


断りたくない、何故かそう強く思った。


「有り難う!」


娘がほっとしたように微笑む。


「時間が惜しいので、その魔物が居る場所を詳しく教えていただけますか?」


「私が案内してあげる」


「ちょっとミーナ!」


母親が、驚いたように自分の娘をたしなめる。


「誰かが案内した方が、ここでいちいち説明するより早いでしょ」


「別にあんたが行く必要はないじゃないか!

何かあったらどうするんだい!」


「大丈夫よ。

戦いは彼に任せて、私は安全な場所から見てるだけだから。

依頼が成功したかどうかを確認する人がるでしょ?」


「それにしたって、男と2人だけでなんて・・」


「彼はきっと危ない人じゃないわ。

もし何かされても、その時は私のお婿さんにすれば良いんだしね」


「え!?」


「・・まあ、村の若い衆にやるよりは全然増しだね」


うちはこれでもこの村の村長ですからね?

いい加減な気持ちで娘に手を出したら、もう二度とこの村には入れませんよ?」


3人の女性に見つめられ、少したじろぎつつ答える。


「絶対に手など出しませんから」

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