第18話

 「修君、お待たせ」


仕事を終えたエレナさんが、ギルドから出て来る。


「先ずは腹ごしらえね」


マーサさんの店に寄り、前回と同じ物を食べながら、雑談をする。


「修道院に顔を出してきました」


「あら、もう?

どうだった?」


「回復魔法を習うことになりました」


「え?」


「院長先生の娘さんが教えてくださるそうです」


「・・へえ。

確かエミリーさんだっけ?

結構かわいいよね。

当然、有料なんでしょう?」


「1回2時間で、200ゴールドです」


「妥当な金額ね。

でも、私の授業もあるのに大丈夫?

魔法の練習はね、きちんと使えるようになるまでは、精神力をかなり無駄に消耗させるのよ。

系統が異なる魔法を2つも同時に習うと、相当疲れるわよ?」


「体力には自信があるので問題ありません」


「消耗するのは、体力じゃなくて、気力ね。

細かな作業とか、単調な訓練とかが、きっとその日は嫌になるわ」


エレナさんもそういった経験があるのか、何かを思い出して苦笑いしている。


そう言えば、1つ聴きたい事があった。


「やっぱり魔法って、精神力がなくなると、回復するまでは使えなくなるのですか?」


「そうよ。

精神力がその魔法を発動する必要量に足りないと、発動途中でくじけてしまうの」


「意識を失ったりします?」


「さすがにそれはないわ」


「精神力を回復させる手段は睡眠ですか?」


「ええ。

あとは特殊なポーションね。

入浴でも少しは回復するわ」


「お風呂でですか!?」


「そう。

リラックスできるからじゃない?」


エレナさんがクスッと笑う。


「実はもう1つあるらしいけど、それはまだ秘密」


打って変って、こちらを艶のある瞳で見つめてくる。


食事を終えると、2人並んで彼女の部屋へ。


前回同様、目を閉じ、両手を繋ぎ合わせて魔力循環を行いながら、俺の体内にある魔力を意識し、炎をイメージする。


蝋燭ろうそくの灯り。


焚火たきび松明たいまつの炎。


燃え盛る家々や山火事。


「え!?」


何かに驚いたように、エレナさんが目を開ける。


「どうしました?」


「修君、もしかしてもう火魔法を使えるんじゃない?」


「え?

何故ですか?」


「私の中に、火魔法の発動に必要な魔力が入り込んで来たから」


「魔法を発動させる時って、どうすれば良いのですか?」


「対象に武器なり視線や手を向けて、頭で念じれば良いのよ」


「それだけ!?

呪文とかは必要ないのですか!?」


「別に何か唱えても良いけど、必須じゃないわ」


「でもそれだと、魔法使いは証拠も残さず簡単に人を殺せるんじゃ・・」


「実際は、そう簡単にはいかないわ。

先ず、媒体を使わずに魔法を発動できる人が半分もいない。

それから発動範囲の問題。

あまりに離れた場所からだと、魔法が届かない。

そして人には魔法耐性がある。

自分の精神より強い耐性を持つ相手には、放った魔法が効果を発揮しないの。

更に、攻撃を受けた相手には、その魔法が誰からのものかが分るから、失敗すれば大抵自分の命を失うことになる」


「・・成程」


「魔法に限らず、暗殺の手段なんて幾らでもあるじゃない。

魔法使いだからといって、過度に警戒する必要はないわ」


「発動の際、使う魔法をイメージすれば良いのですね?」


「そうね。

使いたい魔法を念じるの。

ファイアボール、ファイアランス、ファイアウォール、ファイアストーム・・普通の人が行使できるのは多分、ファイアウォールくらいまでね。

初回の講義でも言ったけど、魔法の発動には各自の魔力量の他に、そのイメージが凄く重要になるの」


「エレナさんは何処まで使えるのですか?」


「私?

ファイアランスまでよ。

もう少しでファイアウォールに届きそうな感じ。

因みに団長なら、そのファイアウォールが使えるわ」


エレナさんは火魔法H、団長さんはGだったよな。


・・先は随分遠そうだ。


「威力調節も頭でするんですよね。

でもそれって、予め相手の強さが分らないと、かなり危険ですね」


「そうね。

オーバーキルになり易いし、無駄に精神力を消耗するから、今の所、何度もその相手と戦って覚えるしかないかな」


う~ん、そうなると、火魔法を自由に使える場所が必要になるな。


森では無理だ。


それか、別の攻撃魔法の使い手を探さないといけない。


「フフッ、今直ぐにでも魔法を使いたそうな顔してる。

・・蝋燭で試してみる?」


「良いんですか?」


「そのくらいなら室内でも平気よ。

念のため、バケツに水を汲んでおくけどね」


準備が整い、テーブルに置かれた蝋燭の芯に火を点けてみる。


極々小さい、炎の球のイメージ。


魔力量を最小限に抑え、それを対象へと向ける。


その途端、パッと芯に火が灯る。


「おめでとう!

こんなに早く魔法が使えるようになるなんて凄いわ。

やっぱり修君には才能がある」


後で見守ってくれていたエレナさんが、背中越しに俺を抱き締めてくる。


「有り難うございます。

エレナさんのご指導のお陰です」


背中に当たる彼女の胸の感触と、魔法が成功した喜びを感じながら、俺はどうにかそれだけを口にした。

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