第17話

 「こんにちは。

当修道院に何か御用ですか?」


門の前に立っていると、黒いシスター服を着た若い女性に声をかけられる。


「ギルドでお話を伺って参りました。

先日、薬草300本を納めたのは俺です」


「まあ、あなたが!

どうぞお入りください」


門を開け、中に招いてくれる。


「早速、院長先生の所にお連れしますね」


広い中庭を歩き、礼拝堂を通り過ぎて、宿舎のような古い建物に入る。


孤児院も兼ねているらしく、何処からか子供達の声が聞こえてきた。


廊下の突き当りでその女性が立ち止まり、ドアをノックする。


「院長先生、先日、質の良い薬草ばかりを納めてくださった冒険者の方がいらしてくださいました」


「お入りください」


若い女性がドアを開き、俺を中へと促す。


「初めまして。

当修道院の院長をつとめております、マルチナと申します。

ようこそおいでくださいました」


中年の、穏やかな雰囲気を纏った女性が、そう言って笑顔で出迎えてくれる。


「初めまして。

Gランク冒険者の西園寺修と申します」


言いながら、丁寧に頭を下げる。


「フフフッ、礼儀正しい方だこと。

どうぞそちらにお掛けください」


ソファーのような椅子を示される。


「随分お若い方なので驚きました。

薬草採取なんて地味な仕事は、今時の若い方にはつまらないでしょう。

報酬もあまり出せないので、どうしても仕事が雑になりがちで、折角届けていただいても、半分も使えないことがあります」


彼女も机から移動し、俺の向かいに腰を下ろしながら、そう話す。


「ポーション作成は、うちの貴重な収入源。

品質を落とすことはできず、使えない物は鶏の餌にするしかありませんでした。

毎月ある程度の数が作れないと孤児院の経営に支障が出ますから、今回あなたが届けてくださった薬草が全部使用できて、本当に助かりました」


「お役に立てたのなら幸いです」


「失礼します」


先程俺をここまで案内してくれた女性が、人数分のお茶を運んで来る。


「どうぞ」


お茶と共に、手作りのクッキーを出してくれる。


「有り難うございます」


そしてそのまま、彼女は院長の隣に座る。


「このは私の娘です」


苦笑しながら、マルチナさんが俺にそう説明してくれた。


「エミリーと申します」


奇麗な赤毛をシスター服の中に隠した、青い瞳をした女性。


このもかなり美しい女性だ。


しかも胸が凄く大きく、ロザリオらしき物がその谷間に埋もれてしまっている。


美しい瞳に釣られて、ついじっと眺めてしまい、彼女のデータが表示されてしまう。


______________________________________


氏名 エミリー(17)


パーソナルデータ 力K 体力J 精神H 器用I 敏捷J 魔法耐性I


スキル 経営J 家事I 


魔法 回復魔法I 生活魔法J


ジョブ 修道院のシスター


______________________________________


回復魔法が使えるのか。


羨ましい。


「西園寺修です。

まだ駆け出しの冒険者です」


「あら、そんなことないんじゃない?

あれだけの品質の薬草を採取するには、森のかなり奥まで行かないと駄目でしょう?」


初対面の時より、随分と砕けた話し方をしてくる。


「運が良かったのです」


「私の知ってる若い人って、直ぐに自慢話をする人が多いけど、あなたは違うのね。

何だか新鮮だわ」


「御免なさいね。

このったら、普段は猫を被ってるのに、気に入った人には急に馴れ馴れしくなるの」


何だかおかしな流れになってきたので、話題を変える。


「修道院では、普段どんな事を行っているのですか?」


「掃除、洗濯、料理、お祈り、治療、ポーション作成、子供達の世話。

たったこれだけで日々が過ぎていくわ」


「どれも大切なお務めですよ」


「そうだけど、偶には何か変化が欲しいわ」


「治療行為もなさっているのですか?」


「ええ。

ポーション作成だけでは経営が不安定なので、魔法による簡単な治療も行っております」


「どのくらいの怪我まで治せるのですか?」


「私共では、切り傷や火傷、骨折、打撲が精一杯ですね。

手足が切断されたり、全身に大火傷を負われた方の治療はできません」


「回復魔法は訓練で覚えるのでしょうか?」


「ええ、そうです。

そのに素質がなければ無理ですが、素質さえあれば、1年か2年で覚える娘もいます」


「男性でも回復魔法は使えるのですか?」


「さあ、どうでしょう?

少なくとも、私はそういう男性を知りませんが」


「・・あの、ここで回復魔法を習うことは可能でしょうか?」


「あなたがですか?」


「はい。

冒険者である以上、何時いつ不測の事態に見舞われるか分りません。

常にポーションがあるとは限りませんし、備えは十分にしておきたいのです」


「教えたとしても、必ず習得できる訳ではありませんし・・」


「面白そうじゃない。

私が教えてあげる」


「エミリー・・」


院長が、『どうせ止めても無駄ね』とでも考えているような表情で、自分の娘を見る。


「週に2度、1日2時間、料金は1回につき200ゴールド。

それでどう?」


月に約1600ゴールド、1年で約2万ゴールドか。


「はい、その条件でお願いします」


「やっぱり頭が良いのね。

この金額に高いと文句を言う人が多いけど、もし回復魔法を習得できれば、それで得られる利益はこの何倍にもなるわ。

良かった。

楽しい時間になりそう」


とても嬉しそうに笑う彼女。


「あの、授業料とは別に、この修道院に寄付をしたいのですが・・」


何人の孤児を世話しているのか分らないが、恐らくそれ程豊かな暮らしはしていないだろう。


俺が森で拾った武器やお金の中にも、もしかしたら、ここの孤児達の親の物が含まれていたかもしれないのだ。


「まあ!

・・有り難うございます。

とても助かります」


院長先生が俺に頭を下げる。


き出しのままで申し訳ありませんが、これを・・」


金貨を3枚、テーブルの上に載せた。


「「!!!」」


その後、授業時間の取り決めをして、2人に見送られながら修道院を後にする。


日程は、エレナさんと同じ日の午前中にした。

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