第16話

 「こんにちは。

前回の評価結果を聞きに参りました」


「随分遅いのね。

もしかして忘れちゃってるのかもしれないと思って、今日の授業前に確認しようと思ってたのよ」


苦笑しながら、エレナさんはその結果を差し出してくれる。


「全部買い取りなんて、修君が初めてかも。

150ゴールドの6倍で900ゴールド。

それに、この依頼に対するギルド評価が6倍。

おめでとう」


「有り難うございます。

今回も薬草を大量に採取してきたのですが、今お出ししても宜しいですか?」


「ええ、勿論」


【アイテムボックス】から400本の薬草を取り出してカウンターに載せる。


「・・修君、やっぱり『アイテムボックス』のスキルが使えるんだね。

それ、かなり貴重なスキルなのよ?

魔法の素質どころじゃない。

1万人に1人もいないとさえ言われているの」


俺の後ろに誰も並んでいないことを確認すると、エレナさんが小声でそう教えてくれる。


しまった!


『ヘルプ』画面でそう注意を受けていたのに、すっかり忘れていた。


『マッピング』で表示される地図や、ステータス画面の表示なんかは、どうやら他人には見えないみたいなので、油断していた。


迂闊うかつでした。

知られた相手がエレナさんで良かった。

どうかこの事はご内密に」


「フフッ、そこまで警戒しなくても大丈夫よ。

そのスキルがあるのを公表して仕事に役立てている人もいるし、大抵の騎士団にはお抱えの冒険者が1人くらいは存在するから。

でも大体の人は、30人分の水や食料を、1週間分くらいしか中に入れられないと聞いているわ」


「野営での騎士団の食事ってどんな物なんですか?」


「現地調達しない限り、毎食パン2つと干し肉1切れ、あとは水か野菜スープね」


「よくそれで厳しい任務に耐えられますね」


食事くらいしか楽しみがないだろうに。


「だから皆、町に帰って来た日は物凄く食べるのよ。

彼らの馴染みの店は、ほとんどが騎士団員で貸し切りになるの」


「それと、スキルって、自分で何を持ってるのか分るものなのですか?」


ステータス画面って、他の人も自分のを確認したり操作したりできるんだろうか?


「え!?

まさか知らないの!?」


「あまり詳しくは・・」


「・・神殿に行くと、自分のステータスやスキルを映し出してくれる女神像があるの。

とても不思議な像で、一定の要件を備えた神殿を建設すると、何時の間にかそこに現れるそうよ。

ただ、建設費が掛かってるから、神殿に入る時には毎回200ゴールドのお布施が要るの」


「見るだけですか?

その画面を自分で操作したりはできないのでしょうか?」


「見るだけよ。

女神様のご厚意に、人が勝手に手出しなんてできないわ」


・・やっぱり俺のステータス画面は特殊なんだな。


「あ、そうそう。

薬草を買い取っている修道院から、修君に伝言があるの。

是非1度、あなたに会ってみたいそうよ」


「俺にですか?」


「修君の誠実な仕事振りが評価されたんだと思うわ。

強制ではないけれど、暇を見つけて会いに行ってあげて」


「分りました」


「有り難う。

では、今日の夕方5時に、ここの前でお待ちしています」


他の人と接する際の言葉と表情に戻る彼女にお礼を述べ、奥にある買い取りカウンターへと向かった。


拾った身分証を届けるのは、この次で良いや。



 森で拾ったり魔物から奪ったりした武器は、総額9万4000ゴールドで売れた。


全部で62あったから、1つ1500ゴールドくらいだ。


俺が売った武器は、研ぎに出したり鍛冶屋で打ち直したりして、再び商品として店頭に並ぶそうだ。


新品の武器は安くても3000ゴールドはするそうだから、駆け出しの冒険者には需要が高いみたい。


思わぬ臨時収入にほくほくして、雑貨屋と時計屋に足を運ぶ。


鏡とくしを買い、時計屋では品の良い懐中時計を1つ購入する。


時計の値段は高く、3万ゴールドもした。


エレナさんの授業時間にはまだ大分あったので、修道院に行ってみることにする。


散策した時にそれらしい建物を見つけていたので、『マッピング』の地図を頼りに歩く。


30分くらいで到着したその建物は、意外に奇麗で大きかった。

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